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第二の故郷、草加のサウナに帰省する | 東京ソロ活男子 vol.6

駅を降りた瞬間、肌を撫でる秋の風に思わず肩をすくめる。
「最近、寒くなったなぁ」と服のすき間を通り抜ける冷たい風に気づくと、僕の頭にはサウナの三文字が浮かんでいた。

草加という街。これまであまり縁のない土地だった。知らない場所に降り立つときの妙なワクワク感がたまらない。
今日の目的地までは歩いて向かうことにした。送迎バスに乗るのもいいが、あえて少し遠回りして焦らすのも、一人サウナの楽しみのひとつだ。
大通り沿いを歩く。額が少し汗ばんでくる。ーー数分ほど経っただろうか、眼前には待望の「ゆ」と書かれた看板が。
見えてきたのはまるでRPGのボスのごとくそびえ立つ、「竜泉寺の湯」。サウナ好きの聖地と名高い場所だ。

……….

館内に足を踏み入れると、リニューアルしたばかりの清潔な空間が広がっていた。
ふと館内を見渡すと、畳敷きのリラックススペースが。よかった、ここは健在だ、とほっとする。畳の匂い、触り心地……なぜだろう、こういう場所にいると故郷を思い出す。子ども時代、祖母の家で寝転んでいたあの感覚が蘇る。
荷物をロッカーに預け、マイタオルを片手にいざ尋常に。指輪を外しながら「今日だけは、サウナを愛させてくれ」なんて、心の中で言ってみる。

ゴルフが紳士のスポーツのように、サウナは紳士の嗜みだと思う。まずは何事もルールとマナーを守って楽しむことから始める。
身体を丁寧に洗い、流す。皆で使うサウナだ、少しでも綺麗な汗を流そう。
それから湯船へ。お湯が肌を包む瞬間——「チャポン……」。この音、この感触。一杯目のビール、料理の一口目に匹敵する至福だ。炭酸泉、露天風呂、壺湯とバリエーション豊かなお風呂が並ぶが、今日はあえて順番を変えてみる。気分次第で楽しみ方が無限に広がるのもこの場所の魅力だ。
見渡すとそこにはサウナ、水風呂が。サウナに来た実感がふつふつと湧いてくる、自分は今、桃源郷にいるんだ。
そして、待望のサウナ室へ。と言いたいところだが、水分はちゃんと摂らなきゃな。健康を害してしまっては本末転倒。

身体の水滴を拭き取りいざ入室。扉を開けると、じんわりと温かな熱気が全身を包む。高く積まれた段差が5段以上もある、胸を借りるつもりで最上段を目指す。その日の体調に合わせて高さを選べる自由さが嬉しい。
最上段に腰を下ろすと、体中の毛穴からじんわりと汗が滲み出してくる。日々の雑念や雑踏も洗い流してくれるようだ。
「ここでは皆が平等だ」
性別も年齢も関係なく、各々が黙々と自分と向き合う時間。何分入るかも自分との対話だ。

「まだいけるか……いや、そろそろか……」と、心の声に耳を傾ける。

……….

数分ほど経っただろうか、自分との対話が終わりサウナを後にする。
サウナの出口は、水風呂という最高の瞬間への入り口だ。ここで大事なのは、かいた汗は水風呂に入る前に流しておくことだ。限界の時、しんどい時にどういられるかが本当の自分だろう。
熱くなった身体を水で冷やす感覚——その一瞬で全身がリセットされる。息の冷たさで身体の芯まで冷えていることに気づく。
ここで、頭から浸からないのもキモだ。もっともっと焦らすんだ。
そしてゆっくりと水から出て、最後にひしゃくで頭の汗を流す。身体についた水滴を拭き取り、「ととのう」へ一歩一歩歩みを進める。さながらウイニングランだ。

露天スペースの椅子に腰掛ける。この瞬間、「ととのう」に誘われる。
目を閉じ、肌に触れる秋風、耳に届く水のせせらぎ、鼻をかすめる草木の匂い——全てが一体となって、自分を包み込む。ここには誰もいない。ただ一人、自由になれる時間だ。色々な要素が混じり合って、一定のリズムを刻みながら流れているように感じる。
「しゃがんだ方が高く飛べる」。そんな言葉が頭をよぎる。日々の喧騒から解き放たれ、サウナで流した汗が心の枷を取り払ってくれる。自分のペースで、自分と向き合えるこの場所は、第二の故郷といっても過言ではないだろう。

……….

足元が少し冷えてきたのを感じる。身体、頭の順番に現実の世界に戻っていく。すると、近くに人影を感じる。これは順番待ちの視線だろう。
サウナーだからこそわかる、この人は「準備万端」だ。独り占めはいけないな。手元にあったひしゃくを手に取り「ととのう」場を清める。
名前も知らない人、ただサウナーの思いは同じ。「いってらっしゃい」と目で合図する。

身体が冷える前に再び湯船へ。誰かに「ととのう」のアフタートークをしたいが我慢だ。今日はただただ一人の空間を満喫する。
日々の悩みも迷いも、サウナに来れば関係ない。ここに必要なのは、楽しむことだけ。まだサウナを知らない人は、むしろ羨ましいくらいだ。

「さて、今日はすこぶる調子がいいな」
水をしっかりと飲む。さあ、2セット目に向かおう。どんな対話が待っているのか、楽しみだ。

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【今回の体験ができる場所】


ヒント :「ゆ」の看板
営業時間:AM6:00~翌AM2:00
価格帯 :¥1,000〜¥2,000
滞在時間:1~2時間を推奨

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