第九話「部屋とYシャツと鼻血」
完全にミスっていた。
現像部屋、と言っても自宅の一部を無理矢理改造したスペースで草津は苦い顔をした。
先日のフィルムを現像したのだが、肝心な所がボケてしまっている。
何とか犯人の顔は認識出来る程度だが、草津が見たかったのは「別の方」だった。
この職に就く事と引き換えに、自分は感情を捨てたと思っていた。感情はレンズを曇らせるからだ。常に冷静に、自分は景色や闇と一体になってシャッターをきる。
だが、昨日のあの瞬間、自分は冷静にいられなかった。その現実が目の前の写真だ。
恐怖。そんな場面は過去に腐る程あった。
「興奮してたって事か?」
草津は乾かす為に吊るしてある写真に語りかけた。
確かに通り魔事件を目前にして、冷静にいられる人間の方が少ないのだが、自分は間違いなくその少ない方に入る自信があった。
アイツは何者なんだ…?
目撃者は多い。警察も来た。渋谷のど真ん中での通り魔事件、TVでも…
草津はすぐにTVの方へ走りリモコンを向けた。
昼のワイドショー。自分の仕事は、これよりももっと早くにネタを上げる事にある。警察よりも、マスコミよりも誰よりも。
が、1日も経てば渋谷のど真ん中、白昼堂々な通り魔事件は当たり前の様にワイドショーのネタになっていた。
「…しかし、ホントに白昼堂々と言うか…。」
それ今俺言ったぞ。
「…さん、どうですか?」
「あれだけ大きな街ですからね。犯人は確実に大人数を殺害する予定だったと思われる中で、重傷者が一人。一応命に別状はないという事は、よくぞそこで納められたなと思いますね。」
「不祥事続きの日本の警察でしたが、今回ばかりは流石!と言った感じですね。特に夏ですから、皆さん薄着ですし、ホントいつ何が起こるかわかりませんからね。くれぐれも皆さん気をつけてお出かけして頂きたい!という所で、続いては…。」
まて。
警察が収めた?目撃者もあれだけいたのに?
興味のないTVの音は最早雑音でしかなく、草津はリモコンを投げる様にして消した。
白いアレは?警察が隠す?何故?
また現像部屋へ歩きながら草津は考えを張り巡らせた。
ビルの屋上にいた。悲鳴と人だかり。倒れたサラリーマン、自分の目の前に跳ねる様に来た犯人の顔、落ちそうなメガネ、
白いマスクの…男?
体格的に男というだけだが、あとは、…あとは、
「技のデパート藤波辰爾!」
何なんだ…?
お前は何なんだよ?
草津は吊り下がる写真を引き抜きながら、思わず言葉を口に出していた。
ポタリ。
手にした写真に雫が落ちた。無意識に天井を見る、がすぐに自分が鼻血を出している事に気付いた。
「やべっ!」
思ったより出ていた様で、着ているワイシャツが汚れていた。咄嗟に手で拭いてしまったせいで、赤が広がる。それを拭きたくて余計に広がってしまった。
「…興奮してるって事だろ。」
草津は一人、久々に自分の中で冷え切っていた何かが震えるのがわかった。
衝動的にすぐに出かけたいが、とりあえず鼻血が止まるのを待とう…。
次回予告!
やばい。違うお話の本書きたくなっちゃった!まてまてまてまてとりあえず今ある構想だけでもオチ付けておかないと!
謎の白マスクは一体何者なのか!そしてゆるゆる出て来たヤツらとは一体どこで繋がるのか!?そんなの書きながら考える!
次回!第十話「動画は見るけどいいねはしない」
No Revolution!No life!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?