第六話「たまたまを装った必然」
東京に真っ暗な夜はない。
都心程ではないが、住宅街でも街灯やら何処かの家の電気やらで、深夜でも道はそこそこ明るい。
小さい頃は夜道は怖い、危険というイメージが強かった。事実、当時同じ地区の女子高生が痴漢に合ったなんて事件を思い出した。
「そういや、昔はチカン注意なんて看板とかあったな。」
そう考えると、随分と治安は良くなった様な気がする。
「僕が何かをするまでは。」
夏の夜にトレーナー姿という微妙な違和感が、むしろ自分を強くコーティングしている様な気がする。ポケットに差し込んだカッターナイフは、落とさない様に強く握りしめていたが、その手だけは常に汗ばんでいた。
クロコゲ。
自らにそう名付けた。自分ですら怪しい人だと思う。そう。怪人「クロコゲ」だ。
幼い頃には特撮ヒーローに憧れていた時期もあったが、いつしか敵の方に魅力を感じる様になった。華やかで元気な主人公よりも、対角の敵の方に親近感が湧いたからだと今更ながら理解した。
さて、
何をしようか。
正直、衝動的に家を出ただけだったので考えていなかった。月の光が差し、誰もいない道の奥を見る。
「クロコゲ」と名乗る以上、「それ」しかないんじゃないか?とさえ思う。
犯罪だ。
自分に出来るだろうか?頭はかなり冷静だが、だからこそ、それが自分だけでなく、家族や被害者に多大な迷惑をかける事になるのがわかる。
しかし、実際に何かを黒焦げにするとして、果たして本当に、そして簡単に燃える物なのだろうか?
予め実験が必要だった。
ましてや、こんなにジメジメとした夏の夜には思った通りに火が回るとは考え難い。
TVの怪人の様に、手から火が出るような特殊能力がある訳じゃない。予め準備が必要だ。
ガソリンは臭いが苦手だ。脂をどうやって所持しよう?ライターは100円ライターで、自分に燃え移らない様に注意しながら…
頭の中でシミュレーションをする。
昔、キャンプファイヤーで感じた、顔の表面を熱する感覚を思い出した。
人が死ぬかも知れない。それで悲しむ人が生まれる。
僕はその罪悪感に耐えられるだろうか?
「絶対やめといた方がいいと思うよ。」
!!!
突然背後から声がした。
全身の毛が下から上に一瞬で上がった気がした。自分のすぐ背後に、白いマスクの男が立っている。深夜、バイクに乗っている訳でもない、明らかに怪しいその男が次の言葉を発する前に
走っていた。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
「か、怪人だ!!」
次回予告!
何か書きたい方向からどんどん離れていってる気がする!でもぐるっと遠回りして、ちゃんとゴールに向かうからね!
次回!第七話!
「石を投げればアイドルに当たる!」
語尾にレボリューションをつければ何か色々行ける!!