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#小説
第二話「レジ袋は強制でいい。」
悩んでいた。
マスクの男は悩んでいた。
おにぎり二個、おちゃのペットボトル、チョコモナカジャンボ。
「レジ袋お付けしますか?」
大手チェーンのコンビニのレジにて、割腹のいい東南アジア系の女性、(恐らく30前後)が流暢な日本語で言ってくる。
店員の名札には「小林」の二文字が、ご主人が日本人なのか、たまたま休みの小林さんの制服を今日は借りているのかは謎だが、それよりも問題は、咄嗟の判断力が求
第四話「怪人って言うけど、アレ田辺さんトコのお兄ちゃんじゃね?」
「ライオンは自分の事ライオンだなんて思っちゃいねぇよ!」
懐かしい映画が流れている。
何だったっけ?これ…。どれ位前のだっけ…?
まだ、「外にいた」時に観た記憶がある。
この部屋から出なくなって、もうどれ位の年月が経っただろうか。
何か「これ」と言う理由があった訳じゃない、でも僕はいつの間にか「部屋を出なくなった。」
正確には、家を出なくなった。時々は家族が寝静まってから、台所に行って
第五話「漢の料理はカレー味よ!」
刹那少年は男を見下ろしていた。
現在、朝の11:30。ギリギリ朝と呼べる時間。
父は既に会社に行っている。
「お父さんは夏休みなんて殆どないよ。刹那はいいなぁ。でもちょっと休み取ってどこか旅行でも行ける様にするから、それまでには宿題とか終わらせておきなね。」
優しい声で父が先週言っていた。
いつもは父が朝ご飯の支度をするが、せめて夏休み中は、という事で交代で準備する事にしていた。
刹那
第六話「たまたまを装った必然」
東京に真っ暗な夜はない。
都心程ではないが、住宅街でも街灯やら何処かの家の電気やらで、深夜でも道はそこそこ明るい。
小さい頃は夜道は怖い、危険というイメージが強かった。事実、当時同じ地区の女子高生が痴漢に合ったなんて事件を思い出した。
「そういや、昔はチカン注意なんて看板とかあったな。」
そう考えると、随分と治安は良くなった様な気がする。
「僕が何かをするまでは。」
夏の夜にトレーナー
第七話「悪意は不意にやって来る!」
山の中にある一軒家。
築4.50年は経っているだろうか。所々老朽化している部分が見えるが、「今にも崩れそう」という感じでもなく、しっかりと建っている。
男が一人、家を囲む塀に向かって一生懸命に作業をしている。
男は小さな破片の様な物が入ったバケツを手に、中から取り出しては、その塀の上に等間隔で並べていた。
何か特殊な作業という訳ではなく、ただ並べている。
男が並べた破片は、既にその家を囲
第八話「動画撮るのもセンスいる」
東京は渋谷。
いつ来てもここは人がごった返している。夏だろうが冬だろうが関係なく、最近は駅前にYouTuber気取りの悪ノリのガキンチョがたむろして毎日お祭り騒ぎだ。
この街も大分変わった。
まさか自分がそんな漫画の様なセリフを言う事になるとは想像もしていなかったが、事実、この街は変わった。
色んな路線に乗り換え出来る便利さと引き換えに、一度駅に潜ったらなかなか地上には出られない不便。
第九話「部屋とYシャツと鼻血」
完全にミスっていた。
現像部屋、と言っても自宅の一部を無理矢理改造したスペースで草津は苦い顔をした。
先日のフィルムを現像したのだが、肝心な所がボケてしまっている。
何とか犯人の顔は認識出来る程度だが、草津が見たかったのは「別の方」だった。
この職に就く事と引き換えに、自分は感情を捨てたと思っていた。感情はレンズを曇らせるからだ。常に冷静に、自分は景色や闇と一体になってシャッターをきる。