39歳、妊娠する18 出産前夜と一時的休息
出産入院は徒歩で……。
「やばい、産まれるかも……」なんて急な破水や陣痛をイメトレしていたのに、私は歩いて入院手続きを行い、自分で荷物を持ち、部屋へおさまった。2部屋ある出産を待つ、待合室的なところでは本陣痛を待つ、苦しそうな妊婦さんが隣のベッドにいるようで「まだまだ時間かかりそうですね」と看護師さんに促され、大きなため息をついているのが聞こえてくる。呑気に陣痛バッグからグミやら着替えやらを出している私はここにいていいのだろうか、と申し訳なくなる。「どう?体調は全然変わらず?」隣の苦しそうな声に心配がピークに達した夫が、不安そうに聞いてくる。「さっきと変わらず……。これ一緒に朝までいれるのかな?どうなるんだろう?」私は私で、この後の状況が全くわからず、ベッドに横になって良いのかさえよくわからず、うろうろしていると、看護師さんと助産師さんがやってきた。
「ごめんなさいね、食事の手配に時間が掛かっちゃって」と、言いながら「このあと、すぐ夕飯が来るので食べてもらって。ひとまず今日は生まれそうにないってことなので、夜は人手も少ないから、明日朝から促進剤を入れて出産になるので、今日はご飯食べたら、そのままお風呂。で、場合によっては帝王切開になる可能性もなくはないから、明日の朝7時以降はお水も飲まないでくださいね」と言い終わると、ご飯食べ終わった頃にお風呂のお声がけします〜、と去って行った。その間に、私はベッドに横にさせらされて、お腹にはしっかりモニターが装着される。ご飯出るのか、とちょっと安心しつつ、”帝王切開”の言葉に夫がまた不安にならないか心配になったが、特にそこには引っかからず、自分の夕飯をどうしようかなと話していると、病院食到着。と、同時に持ってきてくれた看護師さんが「あ、あと10分で面会終了時間になるので旦那さんはご帰宅の準備お願いしますね」と。あれ?あ、今日産むんじゃないから夫は泊まれないのか、と今度は私の方が少々不安になってきた。明日産む、とはいえ、もし今日急に夜中、産気づいたらどうするのだろうか……などぐるぐる考えるが、それを夫に言ったところで二人して不安になるだけなので、グッとこらえた。
「じゃあ、また明日朝からだね」「起きれるかなぁ」と弱気な夫。ただ、この瞬間はうつ病だってことを忘れるくらいいつもの夫のようだった。このまま治ってしまえば良いのに……無理だとわかっていながらもそう思わずにはいられない。
夫が帰ったあと、一人淋しくご飯を食べていると、隣の部屋がにわかに慌ただしくなった。「う〜、う〜」と苦しそうな声とともに、ナースコール押して!の声。どうやら本格的に陣痛らしい。頑張れ、頑張れ、と応援しつつ、明日は我が身……と緊張が走る。隣の部屋から誰もいなくなり、ご飯をちょうど食べ終えたところに先ほどの看護師さんがお風呂行きますよ、とやってきた。「入院用のパジャマ持って来られました?」と、言われ、SNSで評判の良かった前開きスナップボタンのパジャマを見せると、「それすっごく良いですね!」と褒められて嬉しくなる。先輩方の呟き、さすが! 「下着はこちらを使ってください」と言われ、いわゆる産褥ショーツを渡され、おお、これが噂の……と思いつつ、緊張感を持ってお風呂へ。病院のお風呂は広い湯船でリラックス効果抜群! 大きなお腹とも明日でさよならか、といつもよりじっくりじっくり観察してからお風呂を出た。
ピンチ!眠れない。
ね、眠れない……。いわゆる遠足の前的なドキドキ感と、早く寝なきゃ、のプレッシャーで余計に目が冴えて眠れない。明日は朝6時に様子を見に看護師さんが来て、体温やら諸々計るので早めに起きなければならない。そう思えば思うほど、目がなかなか重くならない。その上、救急でしょっちゅう妊婦さんが運び込まれてくるようで、窓に映る赤いランプが点灯する。夫にメールをするもどうやらベビーモニターの取り付けに夢中らしく、返信が遅い。お腹には赤ちゃんの心拍などを見るモニターが装着されているため、そう簡単には身動きが取れない。あぁ、switchをバッグから出しておくんだった……と遠く足元に置かれたバッグを恨めしく見つめる。と、そういえば! 枕の横に置いたポーチの中を消灯された薄暗い部屋でガサゴソと探ると、ありました、骨伝導イヤホン! これさえあれば、とラジコを起動する。寝れない夜のラジオってなんでこんなに安心するんだろう。最近聞いていなかったラジオ番組をタイムフリーで聞きながら、まあるちゃん、もう高校生なんだ……と、時の流れの速さに驚愕しつつ、眠りに落ちていた。
お腹をドコドコドコっと蹴る動作で目が覚めた。Apple Watchを見ると、朝の5時をちょうど過ぎたところだった。看護師さんが言っていた時間まではまだあるので、もう少しだけ寝ようかな、と枕の位置を直していたら、「あ、おはようございます。もう目覚めてらしたんですね」と様子を見に来た看護師さんと目が合った。少し早いですが……と言われつつ、検温など一通りチェックをしてもらうと、「じゃあ、部屋を移動しましょうか。ワゴンに荷物を置いてもらって持っていきましょうか」といよいよLDR室へ移動。このLDR室というのが何度聞いてもLDHってなってしまい、毎回頭の中で、EXILEに入るんかいとツッコミを入れていた。まだ流石に起きていないだろう、と思いつつも、部屋を移動することを夫にもメールして、陣痛も何も起きていない状態のまま、分娩までを行う、LDR室へ入室した。