協力雇用主として出所者の再スタートを支援する有限会社ローズリー資源の挑戦
”協力雇用主”という言葉、制度があることをご存知でしょうか?
協力雇用主とは、犯罪や非行をした者の自立や社会復帰に向けて事情を理解したうえで就職先として受け入れる、受け入れようとする民間事業主です。
刑務所からの出所者を雇用している企業の存在を知らない人も多いのではないでしょうか。知らない方にとっては知るきっかけになれば、協力雇用主に興味がある方にとっては参考になればと思います。
犯罪や非行をした人の就労支援を推進していくために手を挙げて活動されている事業主様にインタビューさせていただきました。協力雇用主となったきっかけや、これから実現したいことなどを、有限会社ローズリー資源の代表取締役である田中桂子様に伺いました。
協力雇用主になったきっかけ
Q、御社の事業内容について教えてください
廃棄物処理と総合リサイクル業を手掛けています。2023年12月時点で、社員23名とパート13名の計36名が勤務しております。この中には、障がい者や出所者の方も含まれています。障がい者の雇用は10年以上やっていて、その1名は統括部長として活躍しています。他にも聴覚に障がいのあるスタッフもおり、リフト運転の免許を取って通常に業務しています。
Q、出所者を雇用しようと思ったきっかけは?
2017年頃から出所者を雇用するようになりました。有限会社松竹梅造園の渡辺社長から「協力雇用主という制度がある」と伺ったことがきっかけです。創業者である父の福祉に対する考え方とも一致して、現在に至っています。
はじめて出所者の方を受け入れるタイミングで幹部には話しました。中小企業のあるあるで、社長がやると言ったらやるので、社員からすると「また始まった」くらいな感じです。それも重々承知のうえでやっています。
私は健常者、障がい者、出所者もみんな同じだと考えているので、長年にわたり多様な人材の雇用を続けています。元から使命感も強く、誰でも働ける会社にしたいと思っていました。誰でも失敗はあるので、ある意味みんな紙一重のところで働いていると思います。
出所者との仕事での良いこと、苦労すること
Q、出所者と一緒に仕事をするなかで良いことはありますか?
出所者との関わりを通じて社員のスキルが向上し、実践的な社員教育になっていることを感じます。座学で学んだり、私の言葉による指導よりも学びが大きいと思います。障がい者雇用もそうですが、人に対する優しさや思いやりが自然に身につくようです。人は誰もが良いところが必ずあるので、それを引き出す能力が身につきます。
Q、出所者と一緒に仕事をするなかで苦労することはありますか?
出所者が再犯していなくなると「またか」「なんで」という気持ちは確かにあると思います。「こんなにやってあげたのに」と悔しさとなんとも言えない複雑な思いが込もった社員からの言葉を聞いたとき、「やってあげたんじゃないんだよ。貴重な機会をもらったと思って次に活かせばいいよ」とじっくり思いの丈を聴き、私の想いも伝えるようにしています。
しかし、さまざまな事情があって再犯につながるという事実を、社員も含めて全員が理解することになります。これもまた学びの一環です。社員にとって人生のスキルを向上させる機会だと考えています。
出所者との関わりで意識していること
Q、障がい者や出所者との関わりで工夫していることを教えていただけますか?
明るく元気に接することです。どうしても障がい者や受刑者の話題になると、社員もやっぱり暗く感じるので、私が見本を見せることで社員も理解が深まり、少しずつ社員も障がい者や出所者との関わりがうまくいくようになりました。
人材不足はだいぶ前から言われていて、それを見越して障がい者を雇用しています。たとえば、現在いる社員が他社へ行ったとしても、「前の会社では障がい者雇用していたのでできると思います」くらいの感覚で地域全体に広がってくれたらと思っています。
Q、企業側の関わり方で再犯を防げたかもしれないことはありますか?
現在、勤めている出所者は1名です。以前は4、5名雇っていましたが再犯していなくなりました。出所者との面談では、常に「家族の一員として受け入れるから、一緒に頑張っていこう」と伝えています。
社員も含めてその方に対して一生懸命関わっているので、こうしたらよかったと思うことはありません。次にどう活かすか頭を切り替えていくタイプなので、反省はするけど後悔はまったくありません。この姿勢がなければ新たな出所者の雇用は考えられません。今後も彼らを歓迎します。
Q、雇った当初と現在で、気持ちや環境で変わったことはありますか?
多くの人が幸せを追求しているにも関わらず、なかなかうまくいかなくなっている世の中の変化を感じています。出所者を雇用することで、私自身がこれまで知らなかった世界を見ることができ、とても貴重な経験となっています。
出所者との面談を通じて、彼らが「再び罪を犯すのではないかという不安を抱えているが、この機会に頑張りたい」と感じていることを共有できています。出所者と関わるなかで、社会に対する責任感や改善したいという気持ちも強くなってきています。
出所者の仕事に対する姿勢
Q、出所者の仕事に対する取り組む姿勢はいかがですか?
笑顔もよく、何より仕事に対する真摯な姿勢にこちらの方が初心に帰るきっかけもくれるような方です。大学を出ていることもあって、話の組み立て方も上手だし、会社がいい方向へ向かうような意見も上司に言ってくれます。全員が評価していると思います。この仕事に関して未経験なので、勤務しながら覚えています。
出所者の方が犯した罪の背景には、仕事のできる人として多くの業務を任され、結果として極度のストレスを抱えて罪に至った経緯があります。そのため、悩み事が話せる環境づくりをしていき、地域性の仕事のバランスを見ながら関わるように幹部には伝えていて、本人が仕事しやすいよう工夫をしています。
Q、今後も出所者を雇うことで実現したいことはありますか?
身寄りのない方や児童養護施設出身の方にも住めるように提供できたらと考えています。児童養護施設の子たちは、18歳になったら施設を出る必要があるものの、そもそも親がいないのであれば誰が面倒を見るのか?私も一人では生きられないし、周りのみんなの支えがあるから生きてこれたと実感しています。地域で安心して暮らせる環境を整えるのは、企業の責任ではないかと思っています。
将来的には、会社で一軒家を購入し、出所者に限らず独身者、高齢者、一人暮らしをされている方々に安心して住める居場所をつくりたいと思っています。また、例えば志が同じ経営者の企業と協力し、アパートを3~4室共同で所有することもよいかもしれないと思いを巡らせています。出所者に安定した住居を提供することは、再犯防止のためにも重要な要素です。
求める人物像や今後のビジョン
Q、出所者に問わず、採用していきたい人材像は?
高卒や大卒などの若い世代です。弊社は20代から84歳まで働いているので、年齢層が幅広いです。年配者が若い子に教えるという昔ながらの雰囲気もあるので、このなかで一緒にできる人がいれば歓迎します。そして弊社の理念を理解してくれる人であれば誰でも是非。
有限会社ローズリー資源の理念
Q、今後の目標やビジョンを教えてください
幸せが見える社会もそうですが、実際に幸せを感じられる会社をつくっていきたいです。売上や給与も重要ですが、何よりも「生きること自体が素晴らしい」ということを実感できるから楽しいと思います。そんな会社や地域をつくっていきたいということが、一番の目標です。
協力雇用主になるに際して知ってほしいこと
Q、最後に、協力雇用主に関して伝えておきたいことはありますか?
自社で体験させてもらったことを皆さんにお伝えして、協力雇用主を増やしていくのが私の役割だと思っています。企業が出所者の雇用に躊躇する心情は理解できます。成功例だけでなく失敗例も話していかないと、企業は不安を感じて雇用に積極的になれないでしょう。
障がい者の雇用は比較的浸透していますが、出所者の雇用に関してはハードルが高いと感じられがちです。まずは障がい者の雇用から始めることが良いのではないでしょうか。社員が適切な考え方や関わり方を身につけることで、その後の出所者雇用への移行がスムーズに進むと考えられます。
行政も含めて助けてくれる方々がたくさんいるので、まずチャレンジしてほしいと思います。現在、建設業や産業廃棄物処理などの屋外でやる仕事が多いため、より多様な業種での雇用機会の拡大を望んでいます。
地域にいる協力雇用主との意見交換や情報共有をすることで会社自体も一人ではないんだと経営者自体も実感できるような取り組みが更に求められるのではないかと思っています。
有限会社ローズリー資源でのリサイクル作業の様子
有限会社ローズリー資源
http://www.rozure.com/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?