青森刑務所と協力雇用主が目指す社会復帰支援への実現
”協力雇用主”という言葉、制度があることをご存知でしょうか?
協力雇用主とは、犯罪や非行をした者の自立や社会復帰に向けて事情を理解した上で就職先として受け入れる、受け入れようとする民間事業主です。
刑務所からの出所者を雇用している企業の存在を知らない人も多いのではないでしょうか。知らない方にとっては知るきっかけになれば、協力雇用主に興味がある方にとっては参考になればと思います。
刑務所と協力雇用主の関係性や、刑務所が協力雇用主へ求めること、これから実現したいことなどを、青森刑務所の首席矯正処遇官である増田様に質問しました。
刑務所が就労に関して大事にしていること
Q、出所者をスムーズに就労させるために大事にしていることを教えてください
出所者の就労において最も重要なことは、企業の雰囲気です。お金の面ももちろんありますが、出所者が就職後にどのような扱いを受け、どのように思われるかなどはとても不安だと想像できます。
受刑者等の専用求人誌『Chance!!』編集長・三宅さんも、企業の雰囲気がとても大事だと語っていました。企業の雰囲気を知ってもらうために、社長のメッセージや写真を多く掲載しているようです。
出所者が軽くあしらわれるような雰囲気の企業だと居場所がないでしょうし、快く受け入れてくれる企業であれば長く続く可能性も高いでしょう。協力雇用主の数も大事ですが、出所者というだけで疎外することなく、“身近にいる存在“だという社会全体の理解が大事になってきます。
LGBTQのように、出所者もダイバーシティのひとつとして考え、差別なく社会に参加できるようになることが望まれます。企業だけでなく一般の人々も出所者を理解し、出所者と知ったうえで付き合い、受け入れていくことが必要です。
私もかつては刑務所の仕事に携わっておらず、刑務所とは縁遠い存在でした。刑務所から出所した人と関わりを持つのは、一般的には敬遠されると思います。実際に隣人として出所者が住んでいたら正直不安な気持ちになりますよね。そうした感覚を社会からなくし、出所者が平等に受け入れられるようになることが理想です。
出所者の就労に関する地域の理解の現状
Q、地域の方々の理解の状況は、実際はいかがでしょうか?
再犯防止の取り組みは各地で進められていますが、地域ごとに対応や理解度にばらつきがあるのが現状です。
私は2023年4月に青森刑務所に赴任して以来、「社会貢献のために、清掃活動などの作業をさせてください」と青森の各所に要請しているのですが、“前例がないから”と、なかなか受け入れてもらえません。
刑務所(受刑者)の作業を受け入れた場合、トラブルの発生を懸念する声があります。当然、どこの自治体も無用なトラブルは望んでいません。トラブルに対して刑務所側が責任を負うと説明しても、不安を完全に解消するのは難しいのが実情です。
また、「あえて受刑者に清掃活動などの作業をやってもらわなくてもいい」という考え方があるのも事実です。自分たちで作業を行えばトラブルが発生しないという思いが背景にあると考えられますが、このような見方を少しずつ変えていくことが重要だと思います。
協力雇用主が意識するとよいポイント
Q、協力雇用主が、出所者や刑務所へ求めることは何ですか?
「刑務所にいる間に資格や技能を身につけさせるとよい」「一般社会と同等に8時間働いてないから体力がない」「集中力が続かずに就労しても定着しない」というような声が、協力雇用主から実際にあります。
刑務所における受刑者の活動時間は合計8時間ですが、入浴、食事、運動などの時間を差し引くと、実際の作業時間はそれよりも短くなります。青森刑務所では8時間の就業体験を導入していますが、これが就労をうまくつなげていくポイントではないと感じています。
なぜなら、資格や技能を身に付けた受刑者が関連する職業に就くケースが少ないためです。資格取得の際には、国の税金を活用してさまざまな訓練や試験が行われます。当然、資格取得を希望する受刑者の選定基準には、出所後にこれらの資格や技能を活用して就職することが含まれています。
資格取得を希望する受刑者は「資格や技能を活かした職に就きます」と申告しますが、実際には資格関連の仕事に就いていないケースが多いのです。これは、累犯者の過去の経歴から資格取得の時期を確認し、その後の就業内容を調査することで明らかになります。多くの場合、資格とはまったく異なる職種に就いているという現実を受け止めて、出所後の適切な受け入れ体制の構築が非常に重要だと考えています。
Q、受け入れ企業が、出所者を雇用する際に考慮すべき点は何でしょうか?
出所者を通常の従業員としてちゃんと見てくれることが大事だと思います。これは、宮城県仙台市にある会社の社長から講演いただいた時に強調していたことです。
出所者が就職した際に「誰にも言わないから、刑務所に入っていたのが本当なのか教えてよ」と聞かれるケースがあり、誰かに言ってしまうと必ずバレるからその言葉を信用してはならないという話です。そのような情報が漏れると噂が広がり、居づらくなって退職するケースが多いためです。
企業の社長だけではなく、社員の方や一般市民も出所者への理解を深める必要があります。出所者を社会の一員として受け入れ、共に生活することへの理解を得ることが不可欠です。出所者が阻害されていると感じたら当然離職するでしょうし、離職が続けば次の就職の失敗につながります。これでは生計を立てることが困難になり、最終的には再び刑務所に戻るという選択肢しか残らない可能性も考えられます。
多くの受刑者は殺人などの重大な犯罪を犯しているわけではなく、犯罪に走る原因は生活の困窮などにあることが多いと思われます。犯罪は決して許される行為ではありませんが、出所後も再び犯罪に手を染めてしまうような状況は、社会の構造に問題があると感じます。そのような状況から、刑務所からの出所後も犯罪に戻ってしまうという悪循環から、なかなか抜け出せないのではないでしょうか。
協力雇用主へ求めること
Q、就労に関して、他に伝えておきたいメッセージがあればお願いします
協力雇用主となっている企業でも、積極的に求人を行っていないところが多く見受けられます。もちろん親身になって取り組んでいる企業もありますが、より多くの企業に採用活動を進めていただくことが望ましいです。
協力雇用主として登録している企業の中で実際に求人を出しているのは、ごく一部だと言われています。登録している企業にはいくつかのタイプがあり、一部の企業は実際に雇用を受け入れていますが、他の企業は金銭的な支援を行っています。
青森県の協力雇用主は約200社ありますが、実際に求人を出しているのは10%に満たないのが実情です。協力雇用主に登録されることは、企業の社会貢献という意義のあることだと思うのですが、実際に出所者等を雇用していただくことが、本当に意義のあることだと思います。
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