刑務所看護師ってどんな仕事?宮城刑務所の看護師に聞く現場の実態
「受刑者がもし体調を崩したり病気にかかったりしたら、刑務所内でどのような医療的ケアが行われるのか?」と疑問に思ったことはありませんか?
刑務所内では、受刑者の健康管理を行うために、看護業務を担う刑務所看護師が常駐しています。なかでも宮城刑務所は日本に9ヶ所ある「医療重点施設」のひとつで、受刑者に対する医療措置を重点的に行っています。
「受刑者はどのような医療措置を受けることができるのか?」
「一般的な病院とはどのような違いがあるのか?」
そんな疑問に答えるべく、宮城刑務所で看護業務に従事する現役の刑務所看護師に詳しく話を伺いました。
刑務所看護師の仕事
宮城刑務所の医療施設には、日常生活や工場での就業が困難になった受刑者が収容されています。本章ではまず、受刑者の看護を担当する刑務所看護師の仕事内容について紹介します。
刑務所看護師の1日について
刑務所看護師の仕事は、基本的に毎朝7時半から始まります。当直制度もありますが、こちらは男性の看護師が担当し、勤務時間は17時から翌朝までです。業務開始後、まずは受刑者の検温を行い、次におむつ交換や点滴が必要な受刑者に対応します。排泄介助が必要な場合、おむつ交換だけでなく、尿や便の状態も管理します。
これらのルーチン業務が終了すると、ナースステーションに戻り、受刑者の健康状態を記録します。その後、現場のリーダーと話し合いながら、どのような流れで医師に診察してもらうかを決めていきます。
一般の看護師と刑務所看護師の違い
一般の病院では、看護師が各々のタイミングで病室に出入りして必要な処置を行えますが、刑務所の医療施設ではそれができません。受刑者の居室の扉には鍵がかかっており、刑務官に開けてもらう必要があるため、看護師が自分で鍵を持つことはありません。
女性の看護師は1人で居室に入ることができず、必ず男性の看護師が外で待機しながら中の様子を見守ります。場合によっては、看護師2名で対応にあたることもあり、状況に応じて臨機応変な対応が求められます。
また、受刑者とのコミュニケーションも制限されています。会話は必要最低限にとどめ、必要な情報を聞き出した後、迅速に処置を行い退室するのが刑務所看護師の特徴です。
刑務所看護師ならではの注意点
一般の病院では、看護師がハサミをポケットに常備することが多いですが、刑務所看護師はこれを持ち歩くことができません。万が一受刑者の手にわたってしまった場合、非常に危険だからです。ハサミが必要な場合は、鍵やくくりひもをつけて厳重に管理し、奪われることがないようにしています。
聴診器も同様で、長さがあるため巻きつけて危害を加える恐れがあるため、携帯は禁止されています。居室に入る際には、ボールペン1本でさえも置き忘れないよう、徹底した管理体制が取られています。
刑務所看護師になった理由
刑務所看護師として働こうと思った理由について伺うと、前職で透析の施設に勤務していた際に「新しい分野に携わってみたい」という思いが芽生えたのがきっかけだったそうです。刑務所での業務に関するパンフレットを見て、医療を含む多岐にわたる業務内容を知り、「挑戦してみよう」とキャリアチェンジを決意されたとのことです。
実際に働き始めるまで、刑務所内でどのような医療が提供されているのかは具体的に想像できなかったそうですが、入職後、その医療の幅広さに驚かれたそうです。一般社会とは隔たりがあるものの、刑務所内でも十分な医療体制が整っている様子がお話から窺えました。
刑務所看護師のやりがい
刑務所での仕事を通じて、一般の病院では関わることのない人々と接する機会が多いようです。刑務官やカウンセラーの働く姿を目の当たりにし、受刑者である患者と直接向き合う場面も頻繁にあるため、その経験が大きな学びにつながっていると語っていました。未知の環境に飛び込んだからこそ得られる新しい経験が、日々の刺激ややりがいに直結していると感じているとのことです。
仕事の中で苦労したこと
いくら患者とはいえ相手は受刑者であるため、コミュニケーションの取り方に日々難しさがあるようです。一般の病院であれば、看護師自ら身の上話をして患者と打ち解け、より相手が話をしやすい環境を作ることができますが、刑務所ではそれができません。どうしても制限がかかるため、自分のことを話しすぎないよう注意を払っているそうです。
刑務所看護師に求められる能力
休日や夜間は職員の人数が少ないため、大勢の受刑者を少人数で対応しなければなりません。そんなときに「ここが痛い」などの訴えがあれば、それが緊急の処置を要するものか、医師を呼ぶべきか、その時々に応じた判断が求められるといいます。
受刑者の状態を日頃からよく観察し、過去の病歴なども含めてカルテを見て読み取っていくことが重要なのだそう。なかには病棟に入りたいから嘘をついて不調を訴えてくる受刑者もいるため、その見極めや観察眼も刑務所看護師には必要とのことです。
現場で感じる課題
全体の受刑者数は減少しているものの、医療的なサポートがなければ生活が難しい受刑者は増えているとのこと。一般社会で進む高齢化が刑務所にも及んでいることが窺えます。排泄介助を要する受刑者がこれからさらに増えていくことも予想され、1人ひとりに合ったケア用品を使うことがより求められるといいます。
「限られた予算内で資源の調達や物品の管理を見直していく必要がある」と、現在の課題と将来に向けた展望も語ってくれました。
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