見出し画像

再犯防止に挑む支援者たちの思いが交わるトークイベント「生きている ただ それだけで」

10月5日(土)、新宿でトークイベント「生きている ただ それだけで」が開催された。このイベントは、主催者である小野雅之氏が元受刑者の再犯防止や自立支援に取り組む各地の団体に呼びかけ、代表者たちが集結したものである。

イベントは二部構成となっていて、第1部ではLGBTQ関連の活動紹介やお知らせが行われ、第2部では「社会復帰、更生、よりよい人生について」をテーマにトークセッションが展開された。

この記事では、第2部の内容に焦点を当て、登壇者たちが語った再犯防止や社会復帰への取り組みを紹介する。

第2部の登壇者は、川中正喜氏、千葉龍一氏、堀田豊稔氏、松浦未来氏、三宅晶子氏の5名であり、司会進行は塚本堅一氏が務めた。登壇者たちは刑務所での体験や支援活動を始めるきっかけとなったエピソードを語り、日本の再犯率の高さや社会の受け入れ体制の重要性について議論を深めた。

トークイベント「生きている ただ それだけで」
日時:10月5日(土)15:00〜18:30
会場:Bar九州男
東京都新宿区新宿2-17-1サンフラワービル3階


依存症問題の啓発と再犯防止への取り組み(塚本堅一)

ASK認定依存症予防教育アドバイザー・塚本堅一
ASK認定依存症予防教育アドバイザー 塚本堅一

今回のイベントの司会進行を務めた塚本堅一氏は、1978年生まれの元NHKアナウンサーである。明治大学文学部を卒業後、2003年にNHKに入局し、京都、金沢、沖縄での勤務を経て、2015年に東京アナウンス室に配属された。ニュース番組のリポーターとして活躍していたが、2016年に違法薬物の所持・製造の罪で逮捕され、懲戒免職となった。

その後、依存症の回復施設に通い、リカバリーダイナミクスを学んだ塚本氏は、2019年に自身の経験を赤裸々に綴った「僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話」を出版。現在は、依存症予防教育アドバイザーとして精力的に活動している。各地の大学での講演、依存症関連イベントの司会、予防講座の企画コーディネート、さらには飲酒運転防止上級インストラクターとして職場研修なども行っている。

塚本氏の活動は、依存症問題の啓発と再犯防止に焦点を当てており、社会に貢献するための取り組みを続けている。かつて輝かしいアナウンサーの道を歩んでいた彼が、今、社会に貢献したいという強い思いで、新たな道を切り開いている。

ASK認定依存症予防教育アドバイザー
塚本堅一
https://www.a-h-c.jp/

地域に根ざした受け皿をつくる(川中正喜)

正道塾 塾長・川中正喜
正道塾 塾長 川中正喜

大阪にあるステーキハウス「正道塾」で、元受刑者たちが社会と関わるための場を提供する川中正喜氏。彼は中学時代から33歳までの大半を少年院や刑務所で過ごしたが、その経験を通じて、再犯防止には「仕事」「住む場所」「相談相手」の3つのサポートが不可欠であることに気づいた。

現在、川中氏は再犯防止を目的とする「株式会社F-STYLE(エフスタイル)」と、環境づくりを推進する「一般社団法人チャンスサポート」を運営し、自立準備ホームの管理や、居住支援、映画制作など、多岐にわたる活動を展開している。

川中氏がこれらの活動を始めて15年。「こんなに続いているのは、自分のためにやっているから」と語る川中氏の言葉には重みがある。毎日、塾生や利用者さんと向き合うことで、自身も再犯を踏みとどまることができているという。

「日本の再犯率は49.1%。社会が受け入れて理解を示せば、この数字は必ず減らせます」と語る川中氏は、社会に出た受刑者を受け入れる仕組みの重要性を訴える。

「一人の受刑者に使われる税金は年間300万円と言われています。社会に出たときに受け皿があれば、税金を使っていた受刑者が、納税側に立つことができる。その経済効果は大きいはずです」と話す川中氏は、自身の経験を活かし、社会を変えるために活動を続けている。

正道塾
川中正喜
https://seidoujyuku.com/

人生をやり直したい人がやり直せる環境を(千葉龍一)

株式会社生き直し 代表/一般社団法人生き直し 代表 千葉龍一

東京都内で自立準備ホーム「生き直し」を運営する千葉龍一氏は、大学時代に自身の運転する車で交通事故を起こし、助手席にいた友人を亡くすという悲劇を経験した。この事故により執行猶予の判決を受けた千葉氏は、「人のために何かやりたい」弁護士を目指して10年間も国家試験に挑戦。結果は実らなかったが、その後、縁があって歌舞伎町にある「駆け込み寺」で活動を始める。

ここで、出所後に仕事や住まいを持たず困窮する人々の支援に携わり、自立準備ホームの施設長を務めた。この活動にやりがいを感じていたが、5年後、諸事情により施設は閉鎖となった。

自身のためにも支援を続けたいという強い思いから、千葉氏は、自立準備ホーム「生き直し」を設立。それ以来、7年間にわたって多くの人々を受け入れてきた。

千葉氏の施設には、更生保護施設への入居を断られた人々も訪れる。特に、同性愛者やHIV(AIDS発症)を持つ人々は受け入れを拒否されるケースが多いという。千葉氏はこれまでに、偏見や差別に直面する人々に寄り添ってきた。

「満期出所しても帰る場所や相談する場所がない人もいます。やくざを辞めようと決意して出所したのに結局行く場所がなく、再びやくざに戻らざるを得ない人もいます。社会の中でやり直したい人が、やり直せる環境をつくりたい」

人生の岐路に立ち、希望を失いかけている人々にとって、千葉氏の温かな支援は再び未来を見出すきっかけとなるだろう。

株式会社生き直し
https://ikinaoshi.com/

一般社団法人生き直し
https://chibaryuichi.jp/index.html
千葉龍一

話を聞いてくれる、安心できる居場所(堀田豊稔)

特定非営利活動法人スマイルリング 代表・堀田豊稔
特定非営利活動法人スマイルリング 代表 堀田豊稔

北海道で合同会社スマイルリングを運営する堀田豊稔氏は、特定非営利活動法人スマイルリングの代表も務め、児童養護施設や少年院を出た青年たちの自立を支援している。

堀田氏自身、17歳で暴走族の総長となり、19歳で少年院に入るなど、30歳で出所するまで再犯を繰り返してきた。その後、家庭を持ち真面目に働くも、生活は苦しかった。

そんなとき、テレビのドキュメンタリー番組で、自身と同じような境遇からプロボクサーとして活躍する川崎タツキ氏を知り、感銘を受ける。運命的な出会いを経て、川崎氏の先輩である元プロボクサー坂本博之氏が主催する児童養護施設でのボクシングセッションに同行することになる。

そこで、子供たちの思いに触れた堀田氏は、「誰もが話を聞いてくれる、安心できる場所が必要だ」と強く実感した。現在、堀田氏は自立準備ホームやグループホームの設立を進めている。特に、発達障害の診断には至らない「発達グレーゾーン」の若者への支援の必要性を訴える。

「発達グレーゾーンの若者たちは、必要な法的支援が受けられないという現状があります。少年院のプログラムは昔より良くなっているのに、再犯率はあがっています。これは社会の受け入れ方に問題があると感じています。僕らのような団体が横のつながりを強く持ち、情報、連携していくことが重要です」

堀田氏のような活動は、社会全体の意識を変える原動力となるに違いない。彼の取り組みが、偏見や無理解を乗り越え、一人ひとりが安心して生きられる社会の実現に寄与することを期待したい。

特定非営利活動法人スマイルリング
https://www.npo-smilering.com/
堀田豊稔

「帰るところはありますか?」の一言を(松浦未来)

株式会社TSUNAGU・松浦未来
株式会社TSUNAGU 松浦未来

株式会社TSUNAGUを設立し、大阪刑務所の前で出所者に声をかけ、帰る場所がない人たちの支援を行う松浦未来氏は、自身も薬物の売買で逮捕された経験を持つ。

その生い立ちは、風俗街・飛田新地で働いていた母親の影響を強く受けたという。幼少期からさまざまな「お父さん」と出会い、留置場への面会が日常的な生活を送った結果、早くから非行に走り、10代後半には薬物の売買に手を染めるようになった。

27歳のとき、妻との間に子供が生まれたが、その喜びも束の間、買い物中に逮捕されるという現実が待っていた。「子供には自分と同じ道を歩ませたくない」という強い思いから、刑務所での面会時に子供と会うことを拒否した。

出所後、松浦氏は社会復帰を目指し、真面目に働いて会社を設立するも、自分に何ができるのか模索する日々を過ごしていた。そんな中、会社の従業員から「兄が札幌刑務所の前で出所者を待ち、声をかける活動をしている」という話を聞き、現在の活動を始めるきっかけとなった。

「これは大阪でもできるんじゃないか?」と考えた松浦氏は、大阪刑務所の前で出所者に声をかけ始めた。自身の経験を踏まえ、携帯電話を借りてあげたり、住民票を置いて履歴書に書ける住所を提供したりすることで、出所者が最低限の生活を送れるようサポートしている。

また、精神障害を持つ人に対しては、単なる居住支援にとどまらず、出所者を対象とした障がい者専用のグループホームや訪問サポートを立ち上げるなど、包括的な支援を提供している。

株式会社TSUNAGU
松浦未来

今までの過去を価値あるものにしたい(三宅晶子)

株式会社ヒューマン・コメディ 代表/一般社団法人 チーム・ヒューマン・コメディ 代表・三宅晶子
株式会社ヒューマン・コメディ 代表/一般社団法人 チーム・ヒューマン・コメディ 代表 三宅晶子

受刑者等専用求人誌「Chance!!」を年4回発行している三宅晶子氏は、株式会社ヒューマン・コメディの代表を務めている。彼女の活動は、非行歴のある人や犯罪歴を持つ人々に、新たな一歩を踏み出す機会を提供するものである。

三宅氏がこの道を歩み始めたきっかけは、前職を退いた後、「誰かの人生の背中を押したい」という思いからだった。犯罪歴を持つ人を雇用している友人から「彼らの先生をしてほしい」と頼まれたことをきっかけに、自立援助支援や出所者支援の施設でボランティアを始めた。

その活動を通じて、出所後に住む場所も仕事もなく、生きるために再び犯罪に手を染め、刑務所に戻っていく人が多いという厳しい現実を目の当たりにした。

中でも影響が大きかったのは、ボランティア活動中に親しくなった当時17歳の少女との出会いだという。少女は幼少期から両親による虐待や育児放棄を受け、児童養護施設や里親宅を転々としてきた。

少女が少年院から自分に書いた手紙を読み、「彼女が元いた場所に戻る以外に人生の選択肢があったら」と思った三宅氏は、彼女ともっと深くかかわりたいと思い、彼女の身元引受人となる決意をした。そして彼女の誕生日に、いまの会社を設立した。彼女が仕事をとおして自分と同じような境遇の人々に親身に接することで、過去の辛い経験を新たな価値に変えられるのではないかと、三宅氏は考えたのだ。

活動の第一歩は、有料職業紹介事業として始まったが、試行錯誤を重ねるなかで、現在では受刑者専用求人誌「Chance!!」の発行へと展開している。「誰かのために」との思いから始めた活動であるが、振り返れば「すべて自分自身のため」であったと三宅氏は語る。その言葉には、自身の経験や葛藤、そして支援を通じて得た確かな充実感が込められている。

株式会社ヒューマン・コメディ
https://www.human-comedy.com/
一般社団法人 チーム・ヒューマン・コメディ
https://www.human-comedy.com/ippan/
三宅晶子

イベントを終えて(イベント主催者:小野雅之)

2024年10月5日に新宿で開催された再犯防止に関するトークイベント「生きている ただ それだけで」の主催者・小野雅之
イベント主催者 小野雅之

「こうして直接会って自分の思いを伝えたり、相手の気持ちを知ったりすることは、とても大事だと感じました」

トークイベントを終えた小野雅之氏は、満足そうに語った。

小野氏は、自身の再犯経験をもとに、再犯防止活動に取り組む人々を広く紹介し、社会の意識を変える活動を行っている。今回のイベントもその一環として、一人ひとりに声をかけ、登壇を依頼したという。

中でも、以前からお世話になっている千葉氏には、再犯防止への思いをぜひ語ってほしいと強く願い、登壇を依頼した。また、三宅氏にも直接会い、イベントへの思いを伝えた。三宅氏が発行する「Chance!!」を通じて、小野氏は懲役中に内定を得ることができ、まさに”命を救ってくれた雑誌”だという。

「この人に会わなければ」と思い大阪に向かった先には、松浦氏と川中氏がいた。小野氏は自身のイベントへの思いを伝え、忙しいなか東京まで足を運んでもらうことに快諾してもらった。

そして、北海道の堀田氏に会うために、小野氏は約30年ぶりに飛行機に乗った。初めて会った堀田氏は、小野氏が抱いていた「怖い人」というイメージとはまったく異なり、終始笑顔で心の広い人物だった。

「皆さんを応援し、ご縁をつなげることができたとしたら、とても嬉しいです。そして世の中をちょっとでも明るく過ごせるようにお力添えできれば何よりです」と語り、小野氏は会を締めくくった。

安定した司会進行で会をまとめ上げた塚本氏、熱い思いを語った登壇者たち、そして真剣に耳を傾けた参加者たち、そのすべてが会場を温かい空気に包み込んだ。このイベントは、再犯防止に向けた取り組みをさらに加速させ、より明るい未来を創るための重要なきっかけとなるだろう。

いいなと思ったら応援しよう!