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おもち食べ放題日誌 第2回『アフター塩原ジャンクション』

2019年2月某日。
東西線早稲田駅にやってきた私はある公演を見に行くため早稲田にあるギャラリーに向かった。
『アフター塩原ジャンクション』。俳優塩原俊之の個人企画演劇公演である。
塩原俊之は私が2018年8月まで所属していたアガリスクエンターテイメントの先輩にあたる。

私が退団する少し前、経緯は忘れたが私は塩原さんが毎週放送していたネットラジオにアシスタントで参加しており、それは退団してからも一年半ほど続いた。
塩原さん自身がラジオっ子なこともあってこのラジオは構成や編集が練られ企画がありゲストがありラジオならではのディープな話がありと、わりとちゃんとしっかりめの「ラジオ番組」であった。
私の客演時代を含めれば塩原さんとは6年ほど一緒に作品作りをしてきたが、私が退団した当時は塩原さん自身も休団中で劇団内での関わりはほぼなくなっていたこともあって、なんとなく塩原さんは「同じ劇団にいた先輩」よりも「頻繁には会わないけど久々に会っても楽しく話せる友人」という印象が強い。小学校ほど年の離れた人間に友人というはなんとも微妙なラインだが、実際塩原さんは同劇団内で唯一今でも連絡を取り合える人物である。

『アフター塩原ジャンクション』は、そんな塩原さんの企画・構成力がいかんなく発揮された公演だった。
「塩原俊之が過去出演した三本の二人芝居を同じキャスト、同じ演出家で再演」という企画内容で打ち出され、”リミックスベストアルバム”と銘打たれたこの公演は、文字通り過去塩原さんが出演した中でも”ベスト”と言って差し支えない三本を、それぞれ全くジャンルの違う作品でありながらも一つの公演として”再構成”したものであった。
当時は俳優が立ち上げた企画やユニットも増えはじめ、演出家を招いて公演するという形態も増え始めていたが、このように「誰の企画か」ではなく「どんな企画か」に重きを置いた個人企画というのはなかったように思う。

企画内容だけでなく作品自体も、ジャンルの違う三本とそれぞれの相方となる俳優と、それらを渡り歩く俳優としての塩原さんの演技力と佇まいが見ていてとても気持ちよかった。
面白かった公演の印象的なシーンというのを私は映像で覚えているタイプなのだが、一本目の作品でもじゃもじゃ頭とくたびれたジャケット姿の汗だく大学教員が二本目の冒頭でくせ毛の長身イケメンになって出てきた姿はいまだに塩原さんの表情から立ち姿から鮮明に思い出せるし「えんげきのちからってすげー!」と思った。

話すとキリがないためこの公演に関してはぜひ特設サイトを見て挨拶文の熱量と企画の細部に込められた塩原さんのこだわりをぜひ感じてほしい。

この公演は2019年の私のベストになるわけなのだが、同時に今回のおもち食べ放題をやるうえで一番影響を受けた公演でもある。
個人企画って別に自分で書かなくても1人じゃなくてもよくて、自分のやりたいことをやればいいんだなとようやく気づいた私は「いつか自分で公演を企画するならこういうのがいい」と思ったし、「自分で公演を企画するならイズモギャラリーでやろう」と心に決めたのだった。

次回『やまだのむら 興』


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