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■酩酊と幻惑ロック 番外編 第2回「ドゥーム/ストーナー/スラッジ入門 : あえての変化球 【加藤】」

第1回「私のドゥーム入門 その1 【杉本】」
第2回「ドゥーム/ストーナー/スラッジ入門 : あえての変化球 【加藤】」
第3回「メタルな俺とパンクス友人の感性の違い【杉本】」
第4回「ドゥームと映画 【加藤】」
第5回「Panteraの元ネタはCandlemassなのか?―アングラメタルの血脈【杉本】」
第6回「Queens of the Stone Age 『Songs for the Deaf』の衝撃【加藤】」
第7回「ドゥーム四天王を選んでみた。からの『四天王を全部好きな人いない説』を検証してみた【杉本】」
第8回「酩酊と幻惑ロック 番外編 最終回【加藤】」

昨年11月に刊行されたディスクガイド『酩酊と幻惑ロック』で監修・著者を務めた加藤隆雅です。
杉本氏からバトンを引き継いで、「同書に絡めた10曲のプレイリスト」第2回を担当させていただきます。よろしくお願いします。

私の一発目のテーマは「ドゥーム/ストーナー/スラッジ入門:あえての変化球」です。連載一発目から変化球かよ、と思われるかもしれませんが『酩酊と幻惑ロック』自体が変化球なので……。

この連載にはSpotifyから楽曲を貼り付けているのですが、ジャンルの名曲や代表曲を集めたプレイリストは、既にSpotify上に複数存在しているんですね(他の音楽配信サービスにもあると思います)。ジャンルを代表する曲は「渋谷のほんだな」や「The Dave Fromm Show」に出演させていただいた時に流しましたし。うまいこと差別化が図れないかと考えていたら、「変化球=ジャンルの本道からは少し外れた曲でも、入り口として機能するのではないか?」と思いつきまして。

“Changes”からBlack Sabbathにハマった人だっているのでは?

“One”からMetallica→スラッシュ・メタルにハマった人もいるのでは?

In Flames『Reroute to Remain』からメロディックデス→デスメタルにハマった人とか。

スラッジ・ドゥームとヴィンテージ系ドゥームを、このデスメタルとメロディックデスの関係に当て嵌めることってできたりしない?……それはともかく、ドゥーム/ストーナー/スラッジの特にキャッチー、ジャンルのファン以外にもリーチしそうな曲を集めても面白いのではないかと。リスナーがまずは曲、次いでバンド、そして「ジャンル」と段階を踏んで入り込んでいけるようなイメージで。

「ドゥーム/ストーナー/スラッジ」の魅力は何か?と聞かれたら、私は「バラエティの豊かさ」と答えます。重さと遅さの極限を追求するバンドもいれば、60〜70年代からタイムスリップしてきたようなバンドもいる。ここ10年ぐらいでさらに多様化が進んで曲の振れ幅も広がった、というようなことは『酩酊と幻惑ロック』のコラムで書いた通り。同書およびこの連載で紹介しているのは、その「一部」です。

変化球とは書きましたが、これらの曲も含めてこその「ドゥーム/ストーナー/スラッジ」だと私は思っています。まあ、お気軽に聴いてみてください。

■Witchcraft “The Outcast”(『Nucleus』2016年より)

スウェーデンのベテラン・バンド。『酩酊と幻惑ロック』で杉本氏が書いているように、「凄味」という点では初期のヴィンテージ路線に軍配が上がるものの、間口が広いのは4th『Legend』以降な気がする。ほどよくヘヴィで、ほどよくメロディアス、クリアなプロダクションに曲調も多彩なドゥーム〜ハードロックです。私は結構好きですよ。


■Kylesa “Don’t Look Back”(『Spiral Shadow』2010年より)

この作品の頃はツインDr.編成が特徴だったアメリカのスラッジメタル・バンド。ポジティブな歌詞と爽やかなメロディが印象的で、青春映画(やや暗め)のサウンドトラックに使われても違和感のない楽曲です。ストーナー/スラッジの重厚感もあって、そのバランスが絶妙です。アルバムの中ではちょっと浮いちゃってるけど。


■Acid Bath “Venus Blue” (『Paegan Terrorism Tactics』1996年より)

90年代スラッジ・カルト。まだスラッジを聴き始めたばかりの頃にこのバンドと出会って「スラッジってこんなのもアリなのか!」と感動したのをよく覚えています。その後、いろいろな作品を聴いて「時代を先取りしすぎたバンドだった」という結論に至る。ちなみにヴォーカルのDax Riggsは、アメリカのTVドラマ『iゾンビ』(2015年〜2018年)のOPを歌ってる人です。


■Pigs Pigs Pigs Pigs Pigs Pigs Pigs(feat. The Lovely Eggs)“Hot Stuff” (デジタル・リリースのみのシングル 2021年より)

有名曲のカバーからバンドを知る、というのも偶にあることではないでしょうか。この曲は出版記念イベントのDJでも掛けさせていただきました。ディスコ・ソングのカバーはものすごく珍しい……のだが、オランダの7 Zuma 7というバンドもこの曲をカバーしている。カバーといえば、初めて意識したBlack Sabbathの曲は、車のCMで使われてたMegadethの”Paranoid”カバーだった気がする。20年ぐらい前の話。


■Black Sabbath “Solitude”(『Master Of Reality』1971年より)

“Changes”もいいけど、私はやっぱり”Solitude”!……何かの標語みたいだな。 ともすればネタにされがちなOzzy Osbourneですが、この曲での歌声には胸を締め付けられます。この曲の「素朴さ」はドゥームのエッセンスとも言える通底する感覚だと思うのです。ドゥームを聴いて「地味」、「盛り上がらない」と感じた人は、この曲を頭に置いて聴いてみると印象が変わるかもしれません。変わらないかもしれませんが、試す価値はあり。


■Dead Meadow “Such Hawks, Such Hounds”(『Feathers』2005年より)

血湧き肉躍る疾走曲だけじゃない、こういった曲もストーナーの醍醐味です。日本でもキングレコードからDVDが発売された、ドゥーム/ストーナー/スラッジを扱ったドキュメンタリー『サッチ・ホークス、サッチ・ハウンズ』の題名はこの曲に由来し、バンドは出演もしている。残念ながら日本版DVDは現在、廃盤状態。


■Blood Ceremony “Lolly Willows”(『The Old Ways Remain』2023年より)

Witchcraftと並んでヴィンテージ・リバイバルを代表するカナダのバンド、Blood Ceremony。私と杉本氏が運営するサイトの記事でも述べましたが、このアルバムにはポップな曲が多くて。レトロでポップなロック・アルバムとしても推せるはず!フルートもあるよ!ところどころ怪しい雰囲気がダダ漏れてるけど。ジャケは、杉本氏の連載第1回でも名前が出たAubrey Beardsleyの作品。


■Electric Wizard “Another Perfect Day?”(『We Live』2000年より)

ドゥームの「速い」曲も入れておこう。こちらはドゥーム界の帝王の最速の曲。パンキッシュに疾走する最初の3分間(速いのはここまで)は非ドゥーム・リスナーでも引き込む力があるはず。後半のドゥーム・パートもフックに富んでいる。尺は約8分あるが、ドゥームメタルの時間感覚を知らないリスナーに伝えるのにはちょうどいいのではないでしょうか。


■The Atomic Bitchwax “Ice Age “Hey Baby” (『Gravitron』2015年より)

アメリカのベテラン・ストーナーロックバンド。この曲はアルバムではギンギンのヘヴィロックを連発した後のフィナーレを飾る1曲で、哀愁を帯びたメロディラインが光るバラード。ライブでシンガロングしてよし、1人で口ずさんでもよし。単体で聴くよりアルバム通しで聴いた方が、その「落差」を楽しめるかもしれない。全10曲33分しかないので、サクッと聴けるぞ。


■Om “Meditation is the Practice of Death”(『God Is Good』2009年より)

ギター/ベース/ドラムの形式に囚われないバンド、もしくはリラックスできる音楽を探している人にはOmなんてどうでしょう。ドゥーム/ストーナー/スラッジ界隈では、ギターレス編成は珍しいが、驚くほどではありません。リラックス効果については人によるでしょうが、私はこのアルバムを音量を絞って流しっぱなしにして寝たことが何度もある。そこそこ安眠できた。

気づいたら10曲中3曲もフルートを使った曲だった……ただの偶然です。


■加藤隆雅(かとう・たかまさ)
1988年生まれ。元・梵天レコード主宰。現在はAmigara Vaultというディストロをやっています。本書の編著者の杉本氏と「Tranqulized Magazine」というウェブジンも運営しています。

第1回「私のドゥーム入門 その1 【杉本】」
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