『未完成の映画』Q&Aレポート | 11/24(日) | 第25回東京フィルメックス
11月24日(日)丸の内TOEIにて、特別招待作品『未完成の映画』が上映された。パンデミック下の中国の映画製作を題材としたドキュドラマ作品。上映後のQ&Aにはロウ・イエ監督、プロデューサーのマー・インリーさんが登壇した。
丸の内TOEIを埋め尽くす観客の拍手に迎えられ、Q&Aはスタート。本作は金馬奨最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞しており、神谷プログラム・ディレクターが祝意を示した。過去のロウ監督作品『スプリング・フィーバー』『二重生活』『シャドウプレイ』の撮影時に撮られた映像を織り込んだ本作。ロウ監督は制作経緯について、当初の構想とは異なり、製作中にパンデミックに突入したことで、別のアイデアが生まれ現在の形になったと話す。
映画後半のスマートフォンによる個人撮影やインターネット上の動画の引用が印象的な本作。神谷PDは初見では感動したと述べながら、「再度見直すと、前半と同様のスタイルの描写だけでも作品は成立したのではないかと思った」と言い、パソコン上の画面の映像を使用した意図について尋ねた。ロウ監督は、「本作にパンデミック初期の映画製作関係者が感じていたであろうことを盛り込んだ」と述べる。日々露わになる残酷な現状を前に、映画製作の意義を考えざるを得ず、スクリーン上映を前提とした映画に代わる在り方を模索したという。
誰もがスマートフォンを所有する現在では容易に映像が撮られるようになっている。「いずれ映画はスクリーンで見られるものではなく、より個人的なものになっていくだろう」と話した。パンデミックが人と人との直接のコミュニケーションを途絶えさせた中で、それに応じて映画言語を変えていく必要があったと、ロウ監督は振り返る。同時に完成した作品を見て、喜びが湧き上がってきたと話し、予期しなかったものが入り込んでくることが映画の持つ力であると、映画に対する自信を得たという。「製作時、自身が思っていたことは、おそらく皆が思っていたことだろう」と言い、制作に関わったあらゆるスタッフの熱意に、ロウ監督は「得難い経験であった」と敬意を表した。
マイクは客席へ。観客からの「ロウ・イエすごいなと、みんな思っている」という言葉に会場は沸いた。役者と監督、スタッフを物語の中心に据え、観客が見られないかもしれない映画を作るという異色の内容は、「未完成の映画」自体を取り巻く現状ともシンクロする。「パンデミックを経て撮りたいものに変化があったか」との質問に、ロウ監督は「ストーリーの展開も含め全てが変わった」と述べる。人と人の付き合い方が変化すれば、映画の表現方法も変わらざるを得ない。作中の「一般の観客が見られない映画を作って何になるのか」という問いには、「作中の監督も分からなければ、私自身も分からない」と話した。映画制作に関わる現況を映し出すドキュメンタリー的な映画になったという。
「中国人自身にとっては切実な問題であると感じられた」と話す観客もいた。パンデミックに関する記憶は時間の流れとともに変化していく。「人々の持つ記憶に関わる内容を映画の中で表現していくことについて監督はどのように考えるか」という質問も出た。ロウ監督は、「この映画は決してマクロ的には撮り得ないものであり、個人の記憶が中心にある」と話す。「皆がスマートフォンを所有する現代では、より個人的な映像が中心になっていくだろう」と述べ、「本作のコンセプトはそのようなものである」とも話した。「誰もが手軽にカメラを使える時代にあって、街全体が映画化されるような時代になってきている」と期待感を滲ませた。
早くもQ&Aは終了時間を迎え、拍手に包まれながらロウ監督、マーさんは会場を後にした。緊迫感漂うロウ監督の映画はパンデミックを捉えた。人同士の関わり方が大きく変化した現代社会で映画を作る意義そのものを問う本作は、幅広い共感と個人が持つ表現の可能性を呼び起こすだろう。TOKYO FILMeX 2024では11月29日(金)にも上映予定。すでに満席となっている。
文・綿貫孝哉
写真・明田川志保