『椰子の高さ』Q&Aレポート | 11/24(日) | 第25回東京フィルメックス
11月24日(日)ヒューマントラストシネマ有楽町にて、メイド・イン・ジャパン部門「椰子の高さ」が上映された。日本を舞台に2組の男女関係が複雑な時間軸の中で交錯する本作。上映後のQ&Aにはドゥ・ジェ監督、出演の大場みなみさん、田中爽一郎さん、小島梨里杏さん、渋谷盛太さんが登壇した。
本作が長編デビュー作となるドゥ監督へ早速、司会の市山尚三から質問が寄せられた。撮影監督として中国で高い知名度を持つドゥ監督はなぜ日本を舞台に選んだのか。映画を撮るきっかけは偶然だったという。『唐人街探偵 東京MISSION』の撮影で初めて訪れて以来、日本を好きになったと語るドゥ監督は、撮影終了後のコロナの時期から日本に滞在し、制作を構想し始めたという。4年ほど前のことである。
「日本を舞台にしながら、日本人が普段見る風景とは異なって見えた」という感想とともに、画角や音のこだわりについての観客からの質問に対して、ドゥ監督は次のように答えた。「暮らし始めて日が浅く、まだ日本の生活に詳しくない」というドゥ監督は、キャストやスタッフとディスカッションしながら製作を進めたという。そのため全編日本語ながら、日本的な普段の会話とは異なる空間が作り上げられていると述べ、「映画自体が誰かに語りかけているように観客に感じ取ってもらえれば」と話す。「外国人であるからこそ見える日本のアンバランスさが出たのではないか」とも。画面や音の編集は感覚的なものであり、普段慣れてない作業の中で興味が湧いていったと明かした。
ドゥ監督から観客へ直にマイクを手渡すなど穏やかな雰囲気で行われたQ&Aでは、キャストについても質問が寄せられた。ドゥ監督はオーディションで選んだ役者からインスピレーションを受けて脚本を書き直すこともあったなど、役者と一緒に映画を作り上げてきた感覚があったという。大場さんはドゥ監督の製作が役者からインスパイアされていたことについて初めて知り、驚きながらも光栄と話した。様々な可能性を残しながら演出をするドゥ監督の現場では、1つの質問で1時間ほど現場が止まることもあったという。言語の壁にも触れ、ドゥ監督との繰り返しのコミュニケーションの中で中国語の接続詞「それから」だけ分かるようになったエピソードには客席に笑いが起こった。
田中さんは言語のほか、作中のモチーフとなる幽霊についてもドゥ監督と捉え方が異なっていたという。また直感的な演出が多く、そこに自身を合わせていくことも多かったそう。
追撮から参加したという小島さんは、すでに醸成されていた現場の雰囲気に身を委ねながら参加したと話す。生死の間にいる人物を演じることは、今までにない感覚で新鮮だったと明かした。渋谷さんはすでに与えられていた几帳面や綺麗好きと言った言葉から、演じ方を模索していったと話した。
映画の内容についても質問が上がった。冒頭のカウントダウンのモノローグの演出や登場人物の結末についての質問に対しても、ドゥ監督は断定的な答え方をしない。ドゥ監督自身も物語の結末について答えが見えていないと言い、信じるか信じないかについて選択した方が正しいのではと述べながら、作品の解釈を観客に委ねた。物語中訪れる突然の別れについても偶然であると述べ、それがリアルな生活ではないかという。些細なすれ違いや偶然の出会いこそが実際の生活であり、作中の人物もそうだったのではないかと話した。
登壇者の人柄が滲み出たQ&Aは盛況の中、終了を迎えた。複雑な構成と時間軸で描かれる2組の男女間の往還と交錯は難解ながら、観客を引き込んでいく。時期は未定であるものの、来年の劇場公開を予定している。
文・綿貫孝哉
写真・白畑留美