【アート・文化の土壌をつくる】KAMADO 柿内奈緒美さん
本日のゲストはKAMADOの代表、柿内奈緒美さん(以下、柿さん)です!柿さんとTokyoDexのローゼンは「QWSチャレンジ」を通じて再会し、念願の対談が実現しました。躍進を遂げる柿さんとKAMADOや、アート業界について、お話を伺いました!
工芸・民藝・モノづくりは「日本人のアイデンティティ」
ー (ローゼン)初めてお会いした時から、柿さんとは「アーティストにスポットライトを当てて、成長を支える」という共通点を感じていました。今回はQWSで再会できて嬉しいです!早速ですが、KAMADOを始めたきっかけを教えてくれますか?
(柿さん)私は岡山出身なのですが、昔はSNSもなかったし、得られる情報がとても限られていたことに情報格差を感じていました。その後に神戸、そして東京に引っ越したのですが、多様な人がいることに驚いた一方で、多くの人が否定されるのを恐れて、自分を出せていない人も多いと感じました。どうしたら良いかと考えるうちに、「アートは個性や多様性を認められるものではないか」と思い、好きだった「発信すること」と掛け合わせて、「アートを発信していこう!」と決めました。
ー KAMADOの前にも PLART STORY や HEY!ART などのウェブマガジンでアートを発信していたと思いますが、そこからどうやって、参加型のウェブマガジンやモノづくりを発信するKAMADOに繋がったのですか?
以前ウェブマガジンをやっていた時、読んだ人には「すごいな〜」と思ってもらえてましたが、「その先の行動に繋げられる人は、あまりいないんじゃないか?」と思い始めたことがきっかけです。
また、「地方の駅前はなぜこんなに同じ風景ばかりなのだろう?」という思いをずっと持っていました。そこから、「そもそも軸である日本のアイデンティティーって何だろう?」と考えるようになり、最終的にたどり着いたのが「日本人の根っこにあるのは、工芸、民藝、モノづくりではないか」ということでした。現在アートは現代を表現し、工芸、民藝、モノづくりは時代を表現しているので、これらをちゃんと理解して始めて、日本人は「自分自身と向き合うことができるのでは?」という考えを持ちました。そこから構想を練って、現代アートと伝統工芸、民藝、モノづくりをバイリンガルで発信したいと思い、ウェブマガジン「KAMADO」を2019年に立ち上げました。
ー 今でこそ盛り上がっていますが、KAMADOを立ち上げた時はまだアート業界が注目されていなかったと思います。何か大変だったことはありますか?
実はビジネスモデルもないままKAMADOを立ち上げてしまったので、最初は他のウェブマガジンとどう違うのかも説明できなかったです(笑)なので、「KAMADOは他と何が違ったら良いだろう?」と吐きそうなほど考えました。
そこで思い付いたのが、一時期よく目にしてた雑誌の付録です。付録目当てでわざわざ雑誌を買っている人もいましたが、「当たる!とか、もらえる!っていう感情は、ワクワクして嬉しいよね」という思いから、「アートがもらえるかもしれないKUJI」というサービスをまず考えました。それから数年かかって、FUMIやOUR ART PROJECTのスキームが出来上がったので、これから頑張るぞ!とちょうど走り出している時期です。
アート・文化にふれる機会をみんなで創造する"OUR ART PROJECT"
ー 2月にKAMADOで新しいプロジェクトをリリースされたかと思いますが、どんなプロジェクトでしょうか?
"OUR ART PROJECT"という「アート・文化にふれる機会をみんなで創造するプロジェクト」を始めました。KAMADOと連携団体が法人や個人からの寄付をコーディネートし、若手アーティストの制作支援を行う仕組みです。文化貢献やアートと関わりを持ってみたいと思っている法人企業から、若手アーティストへの支援を頂きます。
KAMADOに直接ご依頼頂くパターンと、寄付先として連携団体であるNPOや地方行政に加わって頂く場合があります。その場合はKAMADOに記事制作やコーディネートを委託して頂きます。
ー アーティストとは、どのような関わり方をしていますか?
アーティストにはインタビューを行い、ウェブマガジンKAMADOに掲載しています。そして、KUJIを通じて読者に送られるアート作品も、KAMADOで管理します。作品が読者に渡るまで法人企業への一定期間のレンタルなども行なっています。また、スタートバーンが開発しているブロックチェーン「Startrail」を付けているので、セカンダリーで売買が行なわれた場合は、アーティストに還元金が渡るようにお手伝いしています。
ー プレスリリースに入っている賛同者からのコメントは、森美術館元館長の南條さんとか、名だたる方々ばかりですよね。びっくりしました!
そうなんです。南條さんにも素敵なコメントを頂いて、本当に嬉しかったです。直接KAMADOの説明をさせて頂く機会があり、コメントもお願いしたら快く引き受けてくださいました。
アートが流行りものにならないために
ー 少し話が変わりますが、2015年からアートに関する活動をやってきて、日本のアートマーケットはどのように変わってきたと思いますか?
2016年にアートメディアを立ち上げた時、アート業界は今のように取り上げられていなかったですが、2018年頃から急にアート業界が社会の中で盛り上がってきましたよね。ビジネスセクターにアート思考が広まって、「アートって何となく良いのかな?」みたいな流れが出来たんだと思います。アートを買う人は今までと変わらない印象ですが、若い起業家とかも買い始めたのが、大きな違いかなと思います。
ー そうですね。私が多摩美に通っていた時はアート制作だけで生活できる人はほとんどいませんでしたが、今では沢山いて「凄い時代になったな」と思います。日本人のアートに対する考えは、変わってきたと思いますか?
美術館には行くけど、「アーティストは別次元の人間だ」と思っている人がまだ大多数だと思います。アートはお金持ちが買うものであり、自分たちには買えないものであると。
アーティスト側も伝えきれていないと思いますが、「なぜそのアートを作ったのか」や、「そのアートにどういう意味があるのか」について考えたり興味を持つ余裕が、我々日本人にはまだあまりないのかなと思います。
ー「アートは見に行くもの」とteamLabが新しい概念を作り出したおかげで、アートはより身近なものになってきたと感じます。一方で、ただの流行りじゃないといいなと思っています。
そうですね。今がちょうど過渡期だと思っています。
素晴らしい出会いと発見をくれる「QWS」
ー 改めてですが、QWSは本当に素晴らしい場所ですよね。柿さんはQWSチャレンジでずっと採択され続けているので付き合いが長いと思いますが、他のシェアオフィスとはどう違いますか?
QWSには、理想としている多様性があると思います。OUR ART PROJECTは色々なステークホルダーがいないと成り立たないのですが、寄付を承諾頂いている企業さまや、連携団体の候補になって下さっている地方行政さんにも、QWSで出会いました。
ー QWSの皆さんはオープンで、積極的に色々な人を紹介してくれますよね。TokyoDexとはこの企業が合うんじゃないか、みたいな。このような場所は他では中々ないし、毎回楽しんで来れますよね。
そうですよね。今まで沢山与えてもらったので、今後は提供する側としてQWSに少しでも恩返しをしていきたいな、と思っています。
アート・文化支援の現状を変えたい
ー 今後やってみたいことはありますか?
南條さんにインタビューさせて頂いた時に、「海外だとアーティストとして売れるサクセスルートがあるが、日本はそれがない」とおっしゃっていて、本当にそうだなと思いました。海外は力のある評論家がいて、アーティストが価値を高めていけるルートが整備されています。でも日本にはそれがないので、今売れているアーティストはまず海外で、海外からの目線で評価されてから、日本に逆輸入されていることが多いと思います。
まず日本国内で評価されてから、「これが日本の表現です」と海外に示していけるような基盤作りやビジネスを作っていきたいと思っています。そして今、実際それに向かって動いています。
ー 楽しみですね。5年後のKAMADOはどうなっていると思いますか?
来年度中に、アジア圏でサービスを展開したいと思っています。5年後はヨーロッパぐらいに展開出来てるといいですね!やりたいことが沢山あって、今はそれに向かって少しずつ前進している感じです。
ー KAMADOがどう進化していくのか、とてもワクワクします。柿さん、今日はありがとうございました!