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『ダーティハリー3』/世文見聞録98【5部作映画談】
「世文見聞録」シーズン2。おなじみ川口世文と木暮林太郎が『午後のロードショー』での「ダーティハリー」シリーズ全作連続放送に気をよくして、1作ずつ語っていきます。
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○『ダーティハリー3』について(ネタバレ注意!)
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川口世文:いよいよ“コメディ化”が進行してきた。ハリーが強すぎて笑うしかなくなったんじゃないかと思っていたけど、むしろ周りが弱体化しすぎてきたんだ。
木暮林太郎:その象徴が「女性初の殺人課刑事」? 最初のうちこそ無理やりコンビを組まされて「やれやれ」を連発していたけど、案外、ハリーは彼女をフェアに扱っていた気がするんだけどな。
川口:よく観てみると、その点ではかなり脚本も気を使っていて、それが救いになっているとさえいえる。観客も含め、殺人課に放り込まれて悪戦苦闘する“ムーア刑事”を見てみんなは笑っていたけど、ハリーだけは真面目に“心配”していたんだ。
木暮:親密になりすぎるんじゃないかと逆に“心配”になってくると、今度は「相棒とは親しくなりたくない」ときちんと距離を取るしな。ハリーがいちばん大人で、いちばんまともに思えてくる。
川口:その前に起きた“相棒の死”が効いていたんだろうな。彼は1作目から出ていた老刑事だったんだよな。
木暮:よりによってハリーとコンビを組んでいない夜勤のときに殺された。でも、あれはかなり無謀な逮捕劇だったぞ。あんな老体に鞭を打たなくても、素直に応援を待てばよかったんだ。
川口:そう思うよ。この映画で本当に「笑われた」──今でも「笑える」──のは「女性殺人課刑事」なんかではなくて、サンフランシスコ市警察本部なんだ。笑っちゃうほど弱体化していたのは彼らなんだよ。
木暮:野放しの犯罪者たちを浄化しようとする暗殺集団も前作でいなくなってしまったしな。
川口:考え方は間違っていたけど、真剣に警察を改革する気骨があったブリッグスのような人間はもういなくなってしまった。いるのは無能な本部長と政治家だけ。
木暮:黒人過激派のムスタファの逮捕がいい例だな? 武器も出てきていないのに、あれでテロリストグループを捕まえたと思い込んで、市長に“感謝状”まで出させようというのはまったくどうかしている。
川口:市長の警護もいい加減だったしな。あそこをしっかり固めてくれないと、テロリスト集団の“怖さ”が描かれず、結果的にハリーの“好敵手”にはなりえない。
木暮:要求金額のインフレだけは進んだけどね。1作目は20万ドルだったのに、今回は最終的に500万ドル!
川口:バズーカ砲も途中で軍隊のデモンストレーションが行われるけど、さほどすごい威力には思えなかった。
木暮:普通だったら、ハリーが撃つ前に相手に一発撃たせるんだけどな。
川口:とにかくアルカトラズ島のシーンがあっさりしているので、後年の『アルカトラズからの脱出』や『ザ・ロック』を観たときに、そこまで“難攻不落”の島には見えなかったんだ。
木暮:ケイト・ムーア刑事も、これ以降の映画だったら死なずにすんだかもしれないな。
川口:むしろ生かしておいたほうが面白かったはずだ。
木暮:案外、出世して市警本部を“改革”してくれたかもしれない。「パート5」あたりでハリーの“上司”になっていたら面白かった。
川口:そういう“文脈”を持たせないのがこのシリーズの特徴だからね。何人か連続して出演している仲間たちもいるけど、あえて印象に残らせないようにしている。
木暮:ビデオで何度も観返せる時代じゃなかったしね。
川口:前作に出演したデヴィッド・ソウルは『刑事スタスキー&ハッチ』で出世して、今回のタイン・デイリーは『女性刑事キャグニー&レイシー』で主役を張った。
木暮:“ダーティハリー・バース”ができたのに(笑)。
川口:それはそれでハリーは「やれやれ」と愚痴るな。