『刑事コロンボ』第3話「構想の死角」/世文見聞録141
「コロンボが犯人と初対面するシーンまでしか観ない」──前代未聞の通好みの縛りを設けて、川口世文と木暮林太郎が、大好物の「ビッグストーリー」である『刑事コロンボ』シリーズについても語ります。
〇第3話「構想の死角」
川口世文:スティーヴン・スピルバーグ監督の才気に満ちた演出ではじまるシーズン1の第1話。サブタイトルのセンスがいい。子供心にも毎回印象的だった。
木暮林太郎:ここから正味75分の長さになるわけだよな? だけど、どこで区切っていいかわからなかった。
川口:結局、どこまで観た?
木暮:コロンボが犯人を確実に“ロックオン”したなとわかるまで観たら、ちょうど半分ぐらいまで来ていた。
川口:長さが短くなった分、冒頭の殺人も15分ぐらいで終わるような記憶だったけどそんなことなかったな。
木暮:コロンボが登場してからもまだ“犯行の仕上げ”が残っているんだよ。なるほどそう来たかと感心した。
川口:冒頭のオフィスのシーンが第1幕。ここで被害者に“リスト”に触らせたり、ライターを忘れたといって戻って事務所を荒らしたりする──しかも笑顔で!
木暮:「二人の離婚に」ってシャンパンで乾杯するけど、結局今回も動機は“離婚”だったってことだな?
川口:なるほど。男性同士で夫婦でもないけど、前2作と動機は同じ設定だったってことか。それは面白いな。第2幕ではサンディエゴの別荘に被害者を連れ出す。長距離電話ではなくて、02を回してLA直通で妻に電話をかけさせている途中で──ズドン!
木暮:途中で雑貨店の女主人に進呈する本が何と『殺人処方箋』……メルビル夫人版はどんな内容なんだろう。そういえば今回の犯人も『殺人処方箋』っぽかったな。
川口:ジャック・キャンディ──最多登板犯人の一人。やや“姑息”な感じがいいんだよな。レイモンド・バーを相手に75分で解決は無理だった気がする。
木暮:確かに少々胡散臭いイメージがあるな。“自分は一切書かない作家”らしいキャスティング。
川口:15作500万部の印税折半は納得いかないけど。
木暮:事務所で被害者が書いていた最新作はどうなったんだ? 最後まで書かせてから殺せばよかったのに。
川口:第3幕では犯人より先に被害者の妻にコロンボが出会う。この時点ではまだ夫の悪戯か誘拐か殺人事件かはわかっていない。
木暮:それなのに「殺人課のコロンボ」が登場してくるんだな? 勝手に奥さんを連れ帰って、そこでオムレツまで作って、しかもその出来上がりを見せてくれない!
川口:犯人が小説を一切書いていないという情報を先に知らせておいてから犯人と出会わせたかったんだろう。
木暮:この時点でコロンボが“ロックオン”したのか注目していたんだけど、よくわからなかった。
川口:むしろ犯人のほうがコロンボに“ロックオン”したんじゃないか? こいつなら“シンジケート犯行説“に飛びつくだろうと。
木暮:それで第4幕で“リスト”を見せるわけね。視聴者もそこでようやく意味がわかる。でも、コロンボは予想外に鋭かった。それが逆に優越感をくすぐったのか?
川口:大胆にも自分の家の前に死体を転がして、これがシンジケートの警告であることを匂わせる。犯人があえて車で帰ってきたこともそこでわかる。
木暮:その前にコロンボに「あたしだったら飛行機で帰る」といわせているんだよな。このあたり実にうまい。
川口:いわばそこは“仮ロックオン”状態。死体を“発見した”あと呑気に郵便物を開封していたことがわかってそこで完全に“ロックオン”される。
木暮:そこまで観たらちょうど話の折り返し点だった。とはいえ、今回もコロンボがこの犯罪を立証できそうなとっかかりがないんだよな。
川口:そこで例によって犯人をゆさぶるキャラが登場。
木暮:今回は“赤いドレスの女”ね。今回もコロンボは“挟み撃ち作戦”で犯人を追い込んでいく……のか?