ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論20『007/ダイ・アナザー・デイ』
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第20作『007/ダイ・アナザー・デイ』
40周年20作目のこの作品は、15周年10作目の『私を愛したスパイ』同様、過去の「総集編」的な印象が強い。ガンバレルシークエンスからして「遊び心」に溢れている。
プレタイトルは前作同様かなり長めで、本編との関わり方はより深くなっている。サーフィンで北朝鮮の海岸に潜入する冒頭の「誰かがやっている感」を憶えておいてほしい。
そこからはホバークラフト(本当にそれが地雷原に有効なのかどうかはよくわからない)アクションが展開。最後に鐘にぶら下がって命拾いして「ついてた」の名言を発する。
今回のアクションの構成は前半が割と「単発」で、後半は連続して配置される折衷案になっている。キューバのクリニックでのアクションはジンクスのキャラを立てることの方が主眼で、ボンド自身はまだ「リハビリ」状態。どちらかというとボンドと「クラシックなアイテム」(車や銃)の組み合わせを楽しむシーンかもしれない。
中盤になって「ユニオンジャック」のパラシュートでロンドンに降下するのもボンドではなく敵のグレーヴスだ。フェンシングで“大人げない対決”をするシーンまでは「ボンドの鏡像」感があるのだが、身体能力ではザオの方が上だろうし、前作に引き続いて親にコンプレックスを抱えているキャラクター造型なのがちょっと弱いところだ。
“消されたライセンス”状態から復帰し、VRを使ったリハビリを終えて、2代目Qからアストン・マーチンの取り扱い説明を受ける。ロータス・エスプリとは違って、さすがに今回の装備は事前に見せておかないと、いざ使ったときに観客が混乱しただろう。個人的にこのアイディアは「あり」なのだが、さすがにタイヤまでは消えないのではないかと思う。
舞台をアイスランドに移してからようやく通常営業という感じになる。オメガと酸素ボンベではじまり、指輪で脱出するという「秘密兵器」を起点と終点に置くシーンの構成はブロスナン=ボンドのお家芸である。好き嫌いが分かれるのは、そのあとボンドがアイスヨットを奪って逃走するシーンだろう。問題点はいくつか挙げられそうだ。
アクション構成面からいうと、このあとに「カー対決」があり、そこで衛星イカロスが再び起動するので、似たような危機がダブってしまったことが挙げられる。
アイスランドのアクションシーンは連続25分間にも及んでちょっとまとまりとして大きすぎることからも、このアイディアに近いものをキューバで使っておけたらバランスがよかった。
さらに何かとやり玉にあがるカイトサーフィンのシーン。この期に及んで『ゴールデンアイ』冒頭以来の「CGを使ってボンドがやっている感を出すこと」の負の側面が目立ってしまった。
しかも、なまじ今作の冒頭でリアルなサーフィンシーンをやっているだけに余計チープに感じる。アイディアは悪くないが、ちょっと欲張りすぎた感がある。
一方、それにつづくアストン・マーチンとジャガーの対決は「40周年」に免じてよしとしたい。確かにこれまでありそうでなかった。ここではザオと決着をつけるのだが、やはりグレーヴスに乗っていてほしかった気もする。
メインの敵なのだからここで死ぬわけにはいかないが、結局ボンドの「好敵手」はどっちだったのかわかりにくくなった。
クライマックスの対決は、ボンドVSグレーヴスとジンクスVSミランダの闘いが並行して描かれる。女性エージェントがボンドと“対等”に活躍するという意味で一つの完成形かもしれないが、その分、シリーズ史上一番辛い状態からはじまったボンドの「完全復活」の描写がかなり薄まってしまったことも残念だった。