ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論22『007/慰めの報酬』
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第22作『007/慰めの報酬』
『慰めの報酬』は、いかに前作を「補完」しているかに注目しないと正当な評価ができない。
プレタイトルのカーチェイスはカット数は多いが尺が非常に短い。本来ならタイトル後のシエナでのアクションと合体させてもよかったのかもしれないが、前作での時間配分と合わせたのだろう。
正直なところ激しいカット割りに動体視力がついていけず、未だにもうちょっとテンポの遅いバージョンを作ってほしいと思っている。
タイトル後、シエナで裏切り者を追うシーンでは、例によってクレイグ=ボンドの「肉弾」はよくぶつかるし、よく落ちる。ジェイソン・ボーン・シリーズのアクションの流れを汲むカメラワークで、被写体を追いかけてカメラが動いていくのは悪くないのだが、どこか“ボーンの専売特許”を侵害している感じもあった。
同じカメラワークは中盤のバイクとボートを使ったアクションでも使われる。このシーンもかなり激しいものだが、プレタイトルのカーチェイスより実質の尺はさらに短いはずだ。ここも「もうちょっとじっくり見せるバージョン」がほしい。何しろ全体の上映時間はシリーズ最短なのだから。
さらにもっと短いアクションシーンが多々出てくる。「秒殺」とまではいかないが1分以内の「分殺」──その最初がハイチのホテルでナイフを使った殺し。
前作のディミトリオスの時と同様、クレイグ=ボンド独特の「敵の死を待つ表情」がさらに冷酷に描かれる。ここでも「スマートに殺して一言」スタイルにはならないのだ。
オペラ会場から抜け出すアクションも実質1分しか使っていない。トーンこそシリアスに描いてはいるが、実はこの辺りから「奇数代目ボンド」へのオマージュがはじまるのが面白い。闘いをあえてきちんと見せない演出は『トゥモロー・ネバー・ダイ』にもあったし、敵の突き落とし方は完全に『私を愛したスパイ』だ。
ボリビアのホテルでのフィールズの死に方は『ゴールドフィンガー』で、その後のエレベーターの闘いも、少々強引に例えれば『ダイヤモンドは永遠に』の「分殺」版だった。
『慰めの報酬』が行った「補完」の一つは「偶数代目」であるクレイグ=ボンドに「奇数代目」をも引き継いでいる正統性を加えることだったのかもしれない。
そう考えると、その直前のDC3を使った航空アクションが、前作での理想的な使い方に比べ、多少CGが前に出過ぎているのもやむなしと思えてしまう。これはいわば「奇数代目」ブロスナン=ボンドの『トゥモロー・ネバー・ダイ』や『ダイ・アナザー・デイ』のアクションの撮影スタイルの発展形なのだ。
ラストの砂漠のホテルでは、ボンドとカミーユそれぞれの闘いが描かれる。重要なのはカミーユが将軍を殺して復讐を果たしたのに対して、ボンドはグリーンを直接には「殺さない」(もっと酷い扱いともいえるが)ことだ。だからこそ、違う道を行くカミーユとは結ばれず、他方、Mとは「関係修復」に向かっていく。
エピローグともいえるロシアのシーンで、ボンドはヴェスパーを騙した男さえも「殺さない」。『カジノ・ロワイヤル』冒頭の白黒シーンと実に対照的な構図が出てくるが、以前は左(過去)にいた彼がここでは右(未来)の側に立っている。つまり、このシーンを以って『慰めの報酬』による『カジノ・ロワイヤル』の「補完」は完全に終わったのだ。