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『ダーティハリー』/世文見聞録96【5部作映画談】

「世文見聞録」シーズン2。おなじみ川口世文と木暮林太郎が『午後のロードショー』での「ダーティハリー」シリーズ全作連続放送に気をよくして、1作ずつ語っていきます。

○『ダーティハリー』について(ネタバレ注意!)

川口世文:『インディ・ジョーンズ』シリーズから遡ること10年。「5部作アクション映画」の典型が、この作品だといっていい。

木暮林太郎:その“こころ”は?

川口:重要なのは“連続性の無さ”かな? シリーズを経て徐々に“悪名”こそ高まっていくけど、つながっているのはそれぐらい。

木暮:一つ気がついたんだけど、ハリーの奥さんって交通事故で亡くなっていたんだな?

川口:そうそう。単なる追突事故かなんかでね。しかし彼はすっかり吹っ切れているように見える。

木暮:そこを深掘りしたのが、のちの『リーサル・ウェポン』シリーズってことか……。

川口:そういうことになるね。奥さんを無事“救った”『ダイ・ハード』も影響を受けているかもしれない。

木暮:ハリーの強引な捜査方法に、奥さんの死の影響がないとはいい切れないけどな。

川口:そういうバックグラウンドはしっかり設定されている気がするね。それが表に出てこないだけで……いかにも70年代アクション映画らしい。

木暮:いったいどんな奥さんだったんだろうな?

川口:殺さないでおいてくれれば、テレビドラマできっと『ミセス・ダーティハリー』をやったんじゃないか?

木暮:一方で“さそり”のことも十分に深掘りされてはいない。あの時代の底辺で生活して、一獲千金を狙いたい気持ちはわかるけど、あそこまでの犯罪に走る心理は描かれない。

川口:彼は残酷で卑怯な犯罪を繰り返すけど、ハリーの“好敵手”として設定されていないところが面白い。

木暮:市長が四の五のいわずに「ハリー、とっ捕まえてこい!」って命令したら、ホットドッグを食べながら銀行強盗を捕まえるより早く、“さそり”を見つけていたような気もするな。

川口:最後の最後まで“さそり”はハリーの敵じゃなかったという展開が、この作品を頭一つ飛び抜けさせたといっても過言じゃないかもね。“ジョン・ウェイン”的なヒーローは50年も前からすでにいなくなっていた。

木暮:“さそり”が怪しげな黒人のところを訪れたのは絶対に「ハリーを殺してくれ」って依頼しに行ったんだと思ったもんな。あんな風にして権利主張するなんて。

川口:自分の顔を200ドル分も殴らせるなんてどうかしているよ。「店のおごり」で余計に蹴られているし。

木暮:でも、あれで完全に風向きが変わる。“さそり”は相当に頭がいいぞ。カレッジぐらいは通っていたか、独学で弁護士の勉強なんかしていてもおかしくない。

川口:そうなんだよな。公衆電話を使ってハリーを街中振りまわすところなんか、尋常な密度の計画じゃない。

木暮:ここまで頭のいいおれが、どうしてこんな生活をしなきゃいけないんだ?──ねじれた怒りが伝わる。

川口:伝わってくるけど背景を深掘りはしない。だからこそ余計に記憶に残ったのかもな。

木暮:何となく現在の日本でリメイクしたら妙なリアリティが出そうで怖いよ。

川口:いよいよ邦画でも、あの冒頭の“青いプール”が描けるようになってきそうだしな?

木暮:え、どういうこと?

川口:いや、とにかくあのプールの色があんなに鮮やかだったことに驚いてさ……途中、ハリーが黄色いバッグで金を運んだり、“さそり”が真っ赤な目出し帽をかぶっていたり、徐々に「信号」が危険な色になってくる。ああいう「原色」が日本映画ではっきりと描けるようになってくると、いよいよ危ない時代なのかもなぁ。

木暮:おまえ、この夏の暑さのことをいっているだろ?

この鮮やかな「青」

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