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ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論16『007/消されたライセンス』

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第16作『007/消されたライセンス』

 ダルトン=ボンドの「B面」といえるのが『消されたライセンス』である。タイトルからしてボンド自身が英国情報部の「外」にいることを示し、全体のトーンをこれまでのシリーズと一線を画したものにしている。

 面白いことにこの作品では主要なアクションシーンに必ず小型飛行機が出てくる。まずはプレタイトル。ここで重要なのは、敵の小型飛行機を追いかけるヘリに乗ったボンドがいったん「外」に出てから一切「内」に戻ってこないことだ。前作における適度な「内」と「外」のバランスを崩してまで、ここでは「外」に徹している。

小型飛行機その1

 ただし、まだプレタイトルは前作のトーンを踏襲していた。メインタイトルのあと、話全体が大きくひっくり返るとは(事前情報で、ある程度想像がつくとはいえ)思えない。個人的に好きなのは、ボンドとライターがパラシュートを“ヴェール”のように引き摺って結婚式に向かうシーン。こういうユーモアはボンド映画以外ではありえない。

 中盤はウェーブクレスト号を巡るアクション。手作りの“マンタ(イトマキエイ)”の偽装で潜入。いったん船内に入るものの、すぐに「外」(この場合は海である)に逃げ出し、小型飛行機を乗っ取るぎりぎりまで「外」にいる。途中の海中での孤軍奮闘・絶体絶命の状況はこれまでにないシビアさで、それだけにそのあとの形勢“大”逆転が引き立ってくる。

小型飛行機その2

 クライマックスはコカイン満載のタンクローリーの追撃。ここでもボンドは小型飛行機の「外」からタンクローリーの「外」に飛び移り、いったんは「内」(運転席)に入るものの、すぐにまた「外」に出ていく。主要な3つのアクションすべてが徹底してボンドを「外」に置いているのだ。ボンドカーの「無双」アクションを中盤に挟みこんだ前作とはまったくアクションの“構成”が異なっている。

小型飛行機その3

 さらに「殺しの許可証」を剥奪されたボンドによる「殺しの場面」も観ていく必要がある。主要なものが合計3回。最初のキリファーからして“処刑感”が強いが、ミルトン・クレストをサンチェス自身に「殺させる」シーンもなかなかエグい。この作品ではまるでボンド自身が、かつての『ロシアより愛をこめて』のグラントのように“暗躍”している。

 そもそも今回の敵サンチェスは、残忍ではあるが「忠義を大切にする」タイプで、出会い方が違えばケリム・ベイやコロンボのようにボンドの側に立ってもおかしくなかった。なまじボンドの逆鱗げきりんに触れてしまったがための“災難”でもあった。その彼を、ボンドは自らも血塗ちまみれになりながら容赦なく追いつめていく。

 だからイスマスシティでのサンチェス「狙撃」のシーンも『リビング・デイライツ』とはまったく異なる。前作のように「直感」で狙いを外すことはなく、ガチでサンチェスを殺そうとし、それが失敗すると逆利用して敵の懐に入る。これこそがまさにボンドの「B面」であり、ライセンスがない彼は本当の「殺し屋」になってしまうことを描いている。

 ムーア=ボンドの名残があった前作に対して、今作のハード路線のままずっとダルトン=ボンドが進んでいったとは思えないが、『女王陛下の007』の直接の続編があったらボンドはどう動いたのか? 『慰めの報酬』でのボンドの異常なまでの残酷さの根源は何か?──などといった問いの答えがここに隠されている気がする。


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