ジャズ名曲名盤紹介 ~これを聴け~ #2 AKBB 『ビッグバンド★ジブリ』
0.はじめに
前回の#1でビッグバンドについて紹介した。
ビッグバンド×スウィングということで、Count Basieを取り上げたが、
ひょっとすると「いや、まだ難しい!ジャズっぽ過ぎてハードルが高く感じてしまう!」といった方もいるかもしれない。
続く#2では、老若男女に愛されているスタジオ・ジブリの映画に出てくるナンバーをアレンジしたビッグバンドの名盤を紹介する。
「はいはい、またテキトーなアレンジのコンピレーションアルバムでしょ…」と思ったジャズ通の貴方!
このアルバムはジャズ通もニヤリとしてしまう箇所がたくさんある。
ジャズを全く知らない人も、ジャズをこよなく愛する方にもオススメしたい、そんな1枚である。
1.オススメポイント① 〜色々なジャンルが盛り沢山〜
このCDを紹介する理由の一つは「とにかく盛りだくさん」であること。
いわゆるSwing の4ビート (アップテンポもミディアムテンポもある)、シャッフル、ディキシーランド、カリプソ、ボサノバ、ワルツ、フュージョンにもう好き放題に楽しんでいる。
これはバンドの実力が高くないと出来ない技。
特に「となりのトトロ」のアレンジは#1で紹介した「Count Basie」のサウンドを彷彿とさせる。
ピアノの入り方、サックスのメロディのハーモニー感、ブラスの決め方、どこを取ってもベイシーのサウンドに近しいものを感じる。
こういうアレンジが出来るのも、色々なジャズのスタイルを知っている人がアレンジしたからである。なんちゃってアレンジではここまでいいアレンジには出来ない。
吹奏楽の合奏中で、特にポップス曲のイメージを伝えるときに「ここはシャッフル気味に」とか「ディキシーのノリで」などと指揮者が言ったり、譜面上で表現することがある。
言われた以上一応分かったような顔をするが、実際は「…?」となっている人もいるかもしれない。
こういう曲を聴きながらいろいろなビート感を知っておくと、その指示が自然に伝わってくるし、自分の表現のバリエーションもぐっと広がってくる。
2.オススメポイント②〜散りばめられたパロディー〜
オススメする理由の2つ目は、パロディーが大いに笑えるところ。
1曲目からいきなりパロディーなのだ。
冒頭の華々しいオープニング、元ネタはJaco Pastorius(ジャコ・パストリアス 通称「ジャコパス」)のアルバム The Birthday Concert の 1曲目 Soul Intro/The Chicken(ソウル・イントロ~ザ・チキン)。
これを聴けば、冒頭の T.Sax の雄叫びは Michael Brecker(マイケル・ブレッカー ブレッカーブラザーズの弟の方。兄の Randy はトランぺッター)にしか聴こえなくなる。
他には、8曲目の『崖の上のポニョ』のアレンジ。
原曲とは大きく異なる、かっこいい曲調になっている。このメロディーライン、実はT-SQUARE の Megalith(メガリス)のパロディー。
T-SQUARE といえば、吹奏楽界でも人気の「宝島」や「Omens of Love」の原曲をレパートリーとしてもつフュージョンバンド(発表当時のバンド名は The Square)。
もちろんメインはジブリの曲なので思う存分ジブリの音楽を楽しんでもらいたいが、こういう「遊び」がジャズ通をニンマリさせる。
ジャズのアドリブの中でもコードが似ている曲のフレーズを取り入れたりする「パロディー」を行うことは頻繁にある。
「あれ、あの曲とこの曲雰囲気似てない?」と思ったら是非パロディーネタとして引き出しに入れておくことをオススメする。
3.赤塚謙一ビッグバンド(AKBB)について
こんな素晴らしい演奏をしているバンド、AKBBのご紹介。
名前から結び付けられてしまうが、別にAKBグループと関係がある訳ではない。
2009年、トランペット奏者である赤塚謙一氏がリーダーを務める《AKBB (Akatsuka Kenichi Big Band)》が結成され、2010年にこのCDが発売された。
当時のメンバーはなんと全員20代。たしかにフレッシュでエネルギッシュな演奏だが、とても20代の演奏とは思えないクオリティである。
Pianoのクレジットには世界中で大活躍している作曲家、狭間美帆氏の名前も。
他のメンバーもビッグバンドやスタジオミュージシャンとして現在も第一線で活躍している方々である。
個人的には、AKBBとしての作品がこれしかないことが非常に惜しい。もっと色々なナンバーやアレンジを聴いてみたいものである。
4.おわりに
#2では『ビッグバンド・ジブリ』を紹介した。
スタジオジブリの音楽作品は吹奏楽の世界でもかなりの頻度で取り上げられやすい。
もちろん純粋に聴いて楽しむのが一番だが、ジャズアレンジになるとどのようになるのか、いわゆる「なんちゃって」ではなく真剣にアレンジされるとどんな世界観になるのか、そういったところを楽しんでもらうのも楽しみ方の一つかもしれない。
最後に、このアルバムを恩師から借りてPCに取り込んだ際、当時のiTunesは「AKBB」を「AKB48 TeamB」と認識したという小話を添えて。
(文:もっちー)