ブラオケ的クラシック名曲名盤紹介 〜オケ好きの集い〜 #13 スーザン・ニグロ「ザ・ビッグ・バスーン」他
コントラ〇〇という名前が付いた楽器の魅力を考えたことがあるだろうか?管楽器に限定した場合、オーケストラプレイヤーであればコントラファゴット、吹奏楽プレイヤーであればコントラバスクラリネットあたりがパッと思い浮かぶだろう。極稀にコントラバストロンボーンも登場する。
これらの楽器は、非常に低い音域を担当する楽器であり、また、フォルテで鳴らす場合は、地響きが起きているような錯覚に陥るほどの低いサウンドがバリバリ鳴っており、個人的には非常に心地が良い。しかしながら、これらの楽器が目立つような場面は極めて少なく、飽きるまで聞いていたいという願望があったとしても、自分で吹くか、もしくは、超絶な忍耐力を有するコントラファゴット奏者の友人に隣でずっと吹き続けてもらうなどの余程な環境に置かれない限り、なかなかその願望は叶え難いというのが現状であろう。
ところが、実はコントラファゴットにフォーカスを当てた音源というのが存在するのを御存知だろうか?収録されている楽曲全てがコントラファゴットで演奏されており、まさにコントラファゴットのサウンドを堪能したい人には最高のCDである。本日は、その音源についてご紹介したい。
そもそも、コントラファゴットにフォーカスを当てたCDとは言いつつも、誰がコントラファゴットを吹くのだろうか?それは、アメリカの唯一のコントラファゴット・ソロイストとも言われる「スーザン・ニグロ」という女性ファゴット奏者だ。多くの人が狙わないポジションをスーザン・ニグロは勝ち取っており、今回ご紹介する2つのCD「ザ・ビッグ・バスーン」に収録されている作品においても、全ての作品がスーザン・ニグロのために書かれたもの(アレンジ含む)であるから驚きである。
さて、この「ザ・ビッグ・バスーン」はパート1とパート2の2つのCDが発売されており、それぞれの収録曲は以下の通り。
ザ・ビッグ・バスーン1
ヴァツゲン・ムラディアン :コントラファゴット協奏曲 作品86
ドナルド・ドラガンスキ :心の欲望(ザームエル・シャイトの旋律による幻想曲)
アラン・パリダー :イッカク(一角鯨) 作品11
ラルフ・ニコルソン :ミニチュア組曲
フランク・ウォーレン :コントラファゴットとピアノのための音楽 作品28
マット・ドラン :4つの楽章
コントラファゴット :スーザン・ニグロ
ピアノ :マーク・リンドブラッド
ザ・ビッグ・バスーン2
ルイージ・ケルビーニ :ファゴットのための小品
アルカンジェロ・コレッリ :タルティーニの主題によるヴァイオリンのための変奏曲 – 組曲(ディシンガー編)
フランチェスコ・ジミニアーニ :合唱協奏曲 作品3-2(ディシンガー編)
クロード・ドビュッシー :像の子守唄(フィッツジェラルド編)
ウジェーヌ・ボッツァ :ファゴットとピアノのためのブルレスク
ルース・ギップス :蜂蜜色の雄牛 作品3-d
ルース・ギップス :リヴァイアサン
ルース・ギップス :雄牛と尻、序奏とキャロル 作品71
バリル・フィリップス :ファゴットと弦楽器のための演奏会用小品
ハロルド・ローデンスレイガー :小組曲 作品23(フリードマン編)
ロバート・オーガン :ロマンス
ポール・デズモンド :テイク・ファイヴ(ケラー編)
アール・ハーゲン :ハーレム・ノクターン(ハリング編)
ヘンリー・マンシーニ :ピンク・パンサー(フラッケンポール編)
ウィリアム・デイヴィス :ロベルト・シューマンの主題による変奏曲
フェルディナド・デル・ネグロ :深い地下室へ(マーゴリス編)
ユリウス・フチーク :年寄りの不平 – コミック・ポルカ 作品210
トラディショナル :クラリネット・ポルカ(フンメル編)
トラディショナル :タランテラ(ニグロ編)
コントラファゴット :スーザン・ニグロ
ピアノ :マーク・リンドブラッド
双方の収録曲を比較すると、1はクラシカルな作品で集められ、2はポップス要素を含む作品も盛り込まれている。クラシックを全く聴かない人であれば、2の方が聴きやすいであろう。ここで、2曲ほどピックアップして一言添えたい。
ムラディアン:コントラファゴット協奏曲(ザ・ビッグ・バスーン1)
私がスーザン・ニグロの存在を知るきっかけとなった作品である。軽快なピアノ伴奏とコントラファゴットとの絡み合い、初めて聴く絶妙なマリアージュに衝撃を受けたのを記憶している。低音域の重厚さもさることながら、高音域の豊かなサウンドもふんだんに使われており、コントラファゴットのサウンドを知る上では非常に勉強になる。楽曲構成は以下の通り。
第1楽章 :Adagio - Allegro
第2楽章 :Adagio
第3楽章 :Moderato - Presto - Moderato
第1楽章は、コントラファゴットによる30秒ほどのソロから始まり、ピアノが登場してからは軽快な音楽が始まる。全体的に楽しい雰囲気であり、コントラファゴットとピアノとの掛け合いが聴きどころである。第2楽章は、ゆったりとした楽章であり、叙情的な雰囲気が魅力的だ。第3楽章は、場面の移り変わりが聴きどころであろう。本作品をオーケストラバックで演奏した場合、どのようになるかが非常に興味深いが、残念ながら、まだ本録音しか無いのが実情である。
フチーク:年寄りの不平 - コミック・ポルカ(ザ・ビッグ・バスーン2)
ファゴットでは良く取り上げられる作品だが、コントラファゴットでの演奏は極めて珍しい。疾走感あるピアノから始まり、突然の超低音域のコントラファゴットが登場する。最低音付近の音域が十分に楽しめる録音だ。全体的に軽快なサウンドであり、ピアノとの絡み合いが聴きどころである。
さて、上記では2つの「ザ・ビッグ・バスーン」をご紹介させて頂いたが、実は、2本のコントラファゴットによる録音もあるのだ。勿論、片方の奏者はスーザン・ニグロである。そのCDは「The 2 Contras」であり、収録曲は以下の通り。
ダニエル・ドーフ :ソナティナ・ダモーレ
エティエンヌ・オジ :2本のファゴットのためのソナタ 第1番
アーサー・ワイスバーグ :深き淵より
W.A.モーツァルト :ファゴットとチェロのためのソナタ
J.B.ヴァンハル :協奏曲 ヘ長調
マイケル・カーティス :インピッシュ・インプ
コントラファゴット :スーザン・ニグロ & バール・レイン
ピアノ :ウィリアム・エディンス
ただでさえ珍しいコントラファゴットを、デュオとして聴けるのは非常に珍しく、極めて貴重な録音と言えよう。コントラファゴットの豊かなサウンド2本が絡み合う絶妙な響き、そして、極めて珍しいコントラファゴットによる和音は、恐らく本CDでしか聴けないと思われる。実際に聴いてみると、真の意味で聴き応えのある録音だ。現在では入手しにくいCDではあるが、是非とも聴いて頂きたい録音である。
以上、今回はコントラファゴット・ソロイストのスーザン・ニグロに焦点を当てて録音を紹介させて頂いたが、通常は表に殆ど出てこない楽器であっても、じっくりと聴いてみると非常に奥が深い楽器ということを感じさせる音源であるため、是非とも聴いて頂きたい。
文)マエストロ