名曲名盤紹介コラム ~ クラシック#14 プーランク:生誕 100 年記念 室内楽全集
フランスの作曲家「フランシス・プーランク」の作品を聴くと、非常に独特且つ簡素な旋律で、どことなく心地良さを感じざるを得ない。オペラやバレエのような舞台音楽から、管弦楽曲、室内楽曲、合唱曲、教会音楽など、多岐に渡る作品を残しており、「プーランクの作品と言えば?」と聞かれたら、三者三様の回答が返ってくるであろう。その中で、今回ご紹介する室内楽全集は、プーランクの生誕 100 年を記念して 1999 年にリリースされた CDであり、木管奏者であれば必聴の CD である。…と言うのも、実はこの CD の演奏者が凄すぎると言わざるを得ないからである。収録されている作品と演奏者は以下の通り。
ディスク 1
フルートとピアノのためのソナタ FP164
フルート :マチュー・デュフォー ピアノ :エリック・ル・サージュヴァイオリンとピアノのためのソナタ FP119
ヴァイオリン :コーリャ・ブラッハー
ピアノ :エリック・ル・サージュオーボエとピアノのためのソナタ FP185
オーボエ :フランソワ・ルルー
ピアノ :エリック・ル・サージュホルン、トランペットとトロンボーンのためのソナタ FP33
ホルン :アブ・コスター
トランペット :フレデリック・メラルディ
トロンボーン :ニコラス・ヴァラーデクラリネットとファゴットのためのソナタ FP32
クラリネット :ポール・メイエ
ファゴット :ジルベール・オダン管楽器とピアノのための六重奏曲
フルート :エマニュエル・パユ
オーボエ :フランソワ・ルルー
クラリネット :ポール・メイエ
ホルン :アブ・コスター
ファゴット :ジルベール・オダン
ピアノ :エリック・ル・サージュ
◼ ディスク 2
チェロとピアノのためのソナタ FP143
チェロ :フランソワ・サルク
ピアノ :エリック・ル・サージュクラリネットとピアノのためのソナタ FP184
クラリネット :ポール・メイエ
ピアノ :エリック・ル・サージュ2 本のクラリネットのためのソナタ FP7
クラリネット :ポール・メイエ、ミシェル・ポルタルホルンとピアノのためのエレジー FP168
ホルン :アブ・コスター
ピアノ :エリック・ル・サージュピアノ、オーボエとファゴットのための三重奏曲
オーボエ :フランソワ・ルルー ファゴット :ジルベール・オダン
ピアノ :エリック・ル・サージュ「城への招待」 ~ クラリネット、ヴァイオリンとピアノのための三重奏曲 FP138
(ジャン・アヌイの戯曲に基づく劇付随音楽)
クラリネット :ポール・メイエ
ヴァイオリン :コーリャ・ブラッハー
ピアノ :エリック・ル・サージュ
見ての通り、超絶豪華メンバーだ。中でも、木管奏者の顔ぶれは、ほぼレ・ヴァン・フラ
ンセと言っても過言では無い。全体的に超豪華メンバーであり、プーランクの室内楽を演奏
するプレイヤーにとっては貴重な参考音源とも言えるだろう。その中で今回は、2 曲ほどピ
ックアップして一言添えたい。
◼️フルートとピアノのためのソナタ FP164
本作品は、様々なコンクールの課題曲としても取り上げられる、フルート奏者にとっては
超絶有名な作品である。フルート奏者は、2015 年から 2022 年までベルリン・フィルハーモ
ニー管弦楽団の首席奏者を務めたマチュー・デュフォー。非常に心に染みる演奏であり、
元々叙情性ある雰囲気の作品とマチュー・デュフォーの組み合わせは、本当に素晴らしい。
このフルート・ソナタは、急-緩-急の形式を取っており、以下の楽章から成る。
第 1 楽章 :Allegretto malincolico
第 2 楽章 :Cantilena
第 3 楽章 :Presto Giocoso
第 1 楽章は、ホ短調の主和音 E-H-G-H で始まる 4 音の分散和音のアウフタクトが印象的
だ。このモチーフは、クラリネットソナタでも使われている。第 2 楽章は、極めて叙情的な
作品であり、初演時にこの楽章だけアンコールが来たほどである。ピアノを追いかけるよう
な冒頭のフルートの独特な雰囲気は、まさにプーランクらしさとも言える。最後の第 3 楽
章は、華麗な高音域を活用したエスプリ感たっぷりの楽章である。全体的に非常に聴き応え
のある作品であり、是非聴いて頂きたい。
⚫ ヴァイオリンとピアノのためのソナタ FP119
本作品は、1936 年に殺害されたスペインの詩人「フェデリコ・ガルシア・ロルカ」に捧
げられた曲である。プーランク自身は、弦楽器よりも木管楽器の方が好きだったと言ってお
り、中でもヴァイオリンは苦手と言っていたらしいが、本作品の興味深い点は、敢えてヴァイオリンを使いつつも、他のプーランク作品と比較して、非常にストレートな感情表現が見
られるという点である。このヴァイオリン・ソナタは、以下の楽章から成る。
第 1 楽章 :Allegro con fuoco
第 2 楽章 :Intermezzo
第 3 楽章 :Presto tragico
第 1 楽章は、con fuoco とあるだけあって、非常にストレートな表現が見られる。何も知
らずに聴いたら、プーランクということが分からないだろう。第 2 楽章は、冒頭にロルカの
詩の一節が引用されている。元々、このヴァイオリン・ソナタの作曲は第 2 楽章から着手さ
れているが、それは、ロルカを偲んで作曲したいという想いから、結果としてこの楽章から
作曲することになったのである。最後の第 3 楽章は、まさに tragico(悲劇的)である。こ
ちらも全体的に非常に聴き応えのある作品であり、是非聴いて頂きたい。
なお、本作品については、鈴村氏による興味深い考察が発表されている。東京芸術大学音楽
学部附属音楽高等学校の研究紀要(下記 URL)で読めるため、是非こちらも参考にして頂
きたい。
https://geidai.repo.nii.ac.jp/records/525
以上、今回はプーランクの「生誕 100 年記念_室内楽曲集」をご紹介させて頂いたが、プ
ーランクと言うと吹奏楽の人たちにとってはあまり馴染みのない作曲家かも知れない。し
かし、室内楽を知るという意味でも、本 CD は非常に良い名盤であり強くオススメしたい。
文)マエストロ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?