ブラオケ的クラシック名曲名盤紹介 〜オケ好きの集い〜 #7 ニルス・ゲーゼの作品
今回は、デンマークの作曲家、ニルス・ゲーゼの作品をご紹介したい。
ゲーゼ(1817-1890)は、北欧諸国の音楽界の近代化に貢献したと言われる、音楽史上、非常に重要な作曲家のひとりである。ゲーゼと聞いてピンと来る人は相当なマニアだが、グリーグやニールセンなどに影響を与えた作曲家であり、北欧音楽における功績は大きい。なお、グリーグのピアノ作品集『抒情小曲集』のゲーゼという小品があるが、これは作曲の3年前に没したゲーゼへの回想のために作曲された楽曲である。
そもそも、ゲーゼはコペンハーゲンの楽器職人の家に育ち、若い頃はヴァイオリン奏者として活動していた。作曲はほぼ独学と言われているが、最初に提出した『オシアンの余韻』で作曲コンクール1位を獲得するという時点で、相当な才能に恵まれた作曲家とも言える。その後、1842年に作曲した交響曲第1番がメンデルスゾーンの目に留まることで、音楽家としての更なる地位を確立していった。メンデルスゾーンとの関係は深く、1847年にメンデルスゾーンが亡くなられた後は、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスの首席指揮者の地位をメンデルスゾーンから引き継いだり、デンマークに戻った後はコペンハーゲン音楽協会の終身総裁に就任したり、コペンハーゲン音楽院院長に就任するなど、デンマークに果たした貢献も大きい。
作品としては、8つの交響曲、幾つかの室内楽曲や管弦楽曲、バレエ、カンタータなど、多岐に渡るが、その多くはメンデルスゾーンやシューマンの影響を受けたものが多く、全体的に甘口のメロディに溢れている。ゲーゼのCDは幾つか出版されているが、その中でも、今回は下記2つのCDをオススメしたい。
一枚目のCDは、BIS社から発売された『交響曲全集』であり、8つの交響曲に加え、ヴァイオリン協奏曲、カンタータ『十字軍』が収録されている。うち、8つの交響曲は、ネーメ・ヤルヴィ(指揮)とストックホルム・シンフォニエッタによる演奏となっている。一方、二枚目のCDは、CPO社から発売されたものであり、ホルベルギアーナ、田舎の夏の日、オシアンの余韻、序曲『ハムレット』が収録され、オーレ・シュミット(指揮)とラインラント=プファルツ州立フィルハーモニー管弦楽団による演奏となっている。恐らく、二枚目のCPO社のCDは廃盤になっていると思われる。今回は、その中から、交響曲第1番とオシアンの余韻について一言触れたい。
■交響曲第1番 ハ短調 作品5
交響曲第1番は、1841年から1842年にかけて作曲された最初の交響曲であり、メンデルスゾーンの指揮で初演された作品である。当初は、コペンハーゲンに自作譜を提出したところ演奏を拒否されたが、メンデルスゾーンに送ったところ、積極的に受け入れられ、初演に至ったという背景がある。楽章構成は下記の通り。
第1楽章:Moderato con moto - Allegro energico
第2楽章:Scherzo: Allegro risoluto quasi presto
第3楽章:Andantino grazioso
第4楽章:Finale: Molto allegro ma con fuoco
第1楽章はヴィオラにより提示され、全楽章を通して登場する重要なフレーズとなっている。やがて、エネルギッシュなアレグロへと移り変わり、力強く締められる。第2楽章はメンデルスゾーンの影響を大きく受けたと言われるスケルツォ。第3楽章はオーボエによる北欧風の雰囲気が醸し出され、第4楽章は金管群による第1楽章の変奏主題が提示される。実は、本作品の第1楽章は弊団でも私の編曲版で演奏したことがあるのだが、その意図は、ゲーゼ自体が日本ではほぼ知られていない作曲家であり、且つ、交響曲第1番はもっと評価されるべき作品だと考えていたため、吹奏楽という形で発信したく演奏したというのが背景である。是非とも読者の皆様には聴いて頂きたい。
■オシアンの余韻 作品1
オシアンの余韻は、1840年に作曲された管弦楽曲であり、コペンハーゲン音楽協会の作曲コンクールで1位を獲得した作品である。驚きなのが、この作品が作品1とは思えない完成度の高さだということである。冒頭の弦楽による沈鬱なテーマの美しさ、トロンボーンによる堂々たるテーマの再現、その後の金管による勇ましい提示など、非常に聴き応えのある作品となっている。もっと評価されるべき作品だと考えているが、日本ではここ20年で数回しか取り上げられておらず、演奏実績や録音が極めて少ないのが個人的には残念に感じている。
そもそも、オシアンというのは、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』で登場するスコットランドの伝説の英雄詩人のことであり、『オシアンの余韻』という題名は、ゲーゼがステーン・ステーンセン・ブリッカーのデンマーク語版で読んだ、ジェームス・マクファーソンのオシアンの誌に因んだものである。なお、冒頭と後半に登場するテーマは、中世後期のデンマーク民謡『Ramund var sig en bedre mand 』に由来しているとされる。
非常に耳に残る印象深い作品なので、是非聴いて頂きたい。
(文:マエストロ)