ブラオケ的吹奏楽名曲名盤紹介~吹奏楽の散歩道〜#11「イギリス民謡組曲」〜吹奏楽の古典を訪ねて〜
日本の吹奏楽の歴史は150年といわれており、いわゆるオーケストラ(管弦楽)作品と比べてしまうと、まだまだ歴史も浅い文化なのかもしれない。
昨今の吹奏楽オリジナル曲のチャレンジっぷりは、管弦楽の歴史のそれとはまた違った発展を辿っており、今後管弦楽の文化のように体現化されるにはまだまだ時間がかかるであろう。
そういう意味ではまだまだ発展途上な“吹奏楽”という分野であるが、そんな中でも例えばクラシック音楽(ということにしよう)の歴史で“バッハ”や“ハイドン”が作曲した曲のようないわゆる“古典”と位置付けられる曲が存在する。
最も有名なところで言えば、G.ホルストが作曲した「吹奏楽のための第1組曲」が挙げられる。
本作品は、1909年に作曲され、初出版は1921年だそう。
G.ホルストといえば、管弦楽曲の「惑星」で大変有名であるが、管弦楽のみならず、軍楽隊(現代の吹奏楽の前身の編成)向けの作品も遺しており、現代では「第2組曲」と合わせて、いわゆる“吹奏楽の古典的作品”として評価され、演奏され続けている作品の一つである。
それに並ぶ作品として今回ご紹介したいのが、
レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ作曲の「イギリス民謡組曲」だ。
この曲は1923年に王立軍楽学校の司令官ジョン・サマヴィル大佐の依頼で作曲され、同年7月にヘクター・A・アドキンズ中尉指揮の王立軍楽隊により、トゥイッケンハイムで初演された。
なお、初演時の版は4曲から構成されていたが、その第2曲は後に独立した吹奏楽作品・行進曲『海の歌』とされ、現代演奏されている組曲は短調と長調の2つの行進曲の間に間奏曲をはさむ構成になっている。
現代の3曲版は、全曲で約11分。
第1曲 行進曲「日曜日には十七歳」(March - "Seventeen Come Sunday")
アレグロ、ヘ短調、4分の2拍子。「日曜日には十七歳」、「可愛いキャロライン(Pretty Caroline)」、トリオで「富める人とラザロ(Dives and Lazarus)」の3つの民謡が奏される。A-B-C-B-Aの形式。
基本短調ではあるが、“民謡”をベースにしているためかどこか牧歌的な、どこか懐かしい感じの曲調で、トリオでは曲調も変わり、勇ましさを感じる部分も出てきて、どこかG .ホルストの「吹奏楽のための第2組曲」にも似たような曲調になっている。
第2曲 間奏曲「私の素敵な人」(Intermezzo - "My Bonny Boy")
アンダンティーノ、ヘ短調、4分の3拍子。三部形式で、オーボエとコルネットの独奏で現れる「私の素敵な人」と中間部の「緑の茂み(Green Bushes)」の2つの民謡からなる。
この楽章の面白いところは2つの民謡でテンポが違うところである。
「私の素敵な人」部分はアンダンティーノよろしく、極めて遅いテンポで、暗いイメージの曲調になっている反面、中間部「緑の茂み」では同じ4分の3拍子でもワルツのようなテンポ感である意味軽快に進んでいく。
組曲の中間楽章、特に行進曲の合間にある曲部なので、短調の雰囲気を大事にしながら、あまり雰囲気を明るくしなように気をつけたいところである。
第3曲 行進曲「サマセットの民謡」(March - "Folk Songs from Somerset")
アレグロ、変ロ長調、4分の2拍子。複合三部形式で、「朝露を吹き飛ばせ(Blow Away the Morning Dew )」、「高地ドイツ(High Germany)」、「とても高い木(またはWhistle, Daughter, Whistle)」、「ジョン・バーリーコーン(John Barleycorn)」の4つの民謡が主部と中間部にそれぞれ2つずつ奏される。
さながら「イギリス民謡メドレー」と言ったところであろうか。
ヴォーン=ウィリアムズは、親友のホルストやバターワースらと共に、イギリスの民謡を収集して回っていたそうだ。彼の作品は、民謡の主題を独特の方法で処理しているものが多いそうだが、今回の「イギリス民謡組曲」のように、ほとんどそのままの形で民謡の主題を用いている音楽もある。
それはそれで、美しい旋律の魅力にあふれているし、さらには、単なるアレンジやメドレーを越えた、ヴォーン=ウィリアムズの作曲家としての懐の深さも「ちょっとだけ」見ることができる。
なお第1曲に用いられている「富める人とラザロ」は、ヴォーン・ウィリアムズの『富める人とラザロの5つの異版』にも用いられているほか、第2曲「緑の茂み」はパーシー・グレインジャーの「リンカーンシャーの花束」の一節にも使われている。
全体的に難易度も高くなく、演奏しやすいということもあり、現代では“吹奏楽の古典的作品”として、先の「吹奏楽のための第1組曲/第2組曲」と共に並んで演奏され続けている曲だ。
よもすれば評価によっては「簡単な曲だけでなにも面白くない曲」となっていたかも知れないが、取り上げている題材、ヴォーン・ウィリアムズならではのオーケストレーションが長年、広い世代に受け入れられたからこそ現代まで演奏され続け、そして“吹奏楽の古典的作品”として評価されている。
まだ150年の歴史の吹奏楽の歴史の中で、まだまだ発展途上の中、“吹奏楽の名曲”として後世に伝えられていく曲であることは間違いないであろう。
そして、我らが東京ブラスオルケスターは今回この「イギリス民謡組曲」を演奏することになっております。
各曲の民謡をブラオケはどのように料理するのか。
乞うご期待!
(文:@G)