ブラオケ的ジャズ名曲名盤紹介 ~これを聴け~ #10 Steps Ahead
0.はじめに
投稿される日には2月になっているが、ジャズ編は2023年初投稿になる。本コラム「ジャズ名曲名盤紹介」と謳っているが、コテコテのスウィングジャズだけではなく、他にもいろいろなジャンルを紹介したい!と思った。
まず頭に浮かんだのはフュージョン。
ただ、フュージョンを紹介しようと思っても、何から紹介しようか。
やっぱりT-SQUAREか、カシオペアか…うーん…と悩んでいたある日、ふとSteps Aheadが脳裏によぎった。
筆者は数ヶ月に一度、無性にSteps Aheadを聴きたい欲に駆られる。
ちょうどその欲が湧き上がったなら、取り上げるベストタイミングだと思ったので、
今回はアメリカのフュージョングループ、Steps Aheadを取り上げる。
ただ、「フュージョン」と言われても「?」という読者もいるかもしれない。
そこで#1と同じく、前半は「フュージョン」そのものの紹介、そして後半は「Steps Ahead」の紹介をしようと思う。
フュージョンについてご存知の方は前半は読み飛ばしていただいて構わない。
1.「フュージョン」とは?
フュージョンとは、1970年代頃から出てきた、「ジャズ×ロック/ラテン/電子音楽/クラシック音楽etc…」といった、ジャズをベースに他の音楽と掛け合わせていくスタイルである。
Wikipediaで調べるとマイルス・デイヴィスの『In A Silent Way』と『Bitches Brew』がターニングポイント的作品に挙げられている。
確かに学生の頃、このアルバムを初めて聴いた時に「!?」となった記憶がある。
専らスウィング、ビバップを聴いていた私の耳には相当衝撃的だった。
(確か、先輩に「ジャズやるならマイルス・デイヴィスを聴いておかないと」と言われて聴き漁っていた時に飛び込んできたんだと思う。)
思い出話はそこそこに、お聞きいただいた通り、フュージョンの曲は、電子的でイカつい曲が並ぶ。
エレクトリックベース、ギター、ハモンドオルガンやキーボードはもちろん、トランペットやサックスにもエフェクターを付けたり、ウィンドシンセサイザーを使ったりと結構何でもやる。
プレイヤーもビバップ時代を経たプレイヤーが多いので、テクニカルで派手なプレイが多い。
ただ、現代のEDMと異なり、打ち込みではないのでめちゃくちゃグルーヴ感がある。電気的なかっこよさと人間らしいかっこよさが存分に発揮された世界が混ざってワクワク感を生み出す、それがフュージョンの世界である。
2.Steps Aheadについて
Step Aheadは1979年に結成された。
リーダーはMike Mainieri。なんとヴィブラフォン奏者である。
ジャズというと、ピアノやトランペット、サックスというイメージが強いかもしれない。だが、ビブラフォンもジャズの世界では重要な位置を占めている。Lionel HamptonやGary Burtonなど、有名な奏者は多いが、紹介はまた別の機会に。
グループ結成当時のメンバーは彼に加えてMicheal Brecker (T.Sax.),Steave Gadd(Drums),Eddie Gómez(Bass),Don Grolnick(Piano)と、名だたるプレイヤーの顔ぶれである。当初は「Steps」として活動を始め、数枚のCDを出したが、別のバンドが既に使っていたようで「Steps Ahead」に改名した。改名した時のメンバーはMike MainieriとMicheal BreckerとEddie Gómezはそのままに、DrumsはPeter Erskine、PianoはEliane Eliasになった。
決まったメンバーというわけではなく、多数のゲストメンバーとコラボレーションを行っており、先鋭的な音楽制作を行っている。
3.名盤① 『Magnetic』
1枚目にご紹介する『Magnetic』は、1985年にリリースされたアルバム。
Mickeal Breckerがテナーサックスに加え、EWIで有名なウインドシンセサイザーやエフェクターを使っていたり、電子的要素が強いアルバム。
だが、各曲のブレッカーのソロがたまらないのである。
特に1曲目の『Trains』と4曲目の『In a Sentimental Mood』が最高のソロが最高に素晴らしい。
1曲目の『Trains』はキャッチーなメロディーラインとまさに鉄道が走るような疾走感のあるリズムラインが特徴的な曲。
2:19あたりから始まる彼のソロ。
序盤はゆったりとしたフレーズで始まる。ベースラインとのアンサンブルが心地よい。
彼のしゃくり上げるような奏法がいわゆる「エモさ」をさらに掻き立てる。
中盤に向かって音域も徐々に高くなっていき、いよいよピーク。(3:18)
彼の得意技の一つである超高音域を出す「フラジオ奏法」が繰り出される。まさに「魂の叫び」のような心地がしてくる。ここで筆者は毎度心がグッとなる。
その後はエフェクターを使ったエレクトリックなソロ、これもまたかっこいい。
4曲目の『In a Sentimental Mood』では、彼のウインドシンセサイザーのソロが楽しめる。
バッキングのハーモニーの中で自由に動き回るフレージングは、決してテクニカルに走り過ぎることなくエモーショナルなフレーズが続く。
ウインドシンセサイザーでも、テナーサックスと同じように彼の歌心、息遣いをはっきりと感じられるのが最大の魅力である。
4.名盤②『Live in Tokyo 1986』
2枚目に紹介するこのアルバムは、タイトル通り1986年に東京で開催されたライブの音源。
1枚目に紹介した『Magnetic』のリリース翌年なので、発売後のリリースライブにあたるのだろう。
ただ、メンツは録音のメンバーと異なり、ベースはDarrl Jones、ドラムスはSteive Smith、ギターはMike Sternに変わっている。ロックの分野で活躍している名手が多い。こういうクロスオーバーが出来るのも、フュージョンの魅力の一つ。
レコーディングにはない曲の一つに『Oops』がある。この曲は、細かいフレーズが並んでいて思わず「おっと」と言いたくなる曲調である。
このアルバムは是非全曲聴いてもらいたいが、せっかくなのでライブ盤とレコーディング盤でソロフレーズが違うというのを感じでみてもらいたい。
というのも、吹奏楽でもジャズやポップスで度々登場する「Solo(ad lib)」のためである。
アドリブと書いてあっても、実際は譜面に書き起こされたものをずっと演奏している人が多いのではないだろうか。
参考音源を聴いていたとしても同じ演奏しか聴いていないと、アドリブで違うフレーズを演奏しているのを耳にする機会は無くなってしまう。
これは実に惜しい。アドリブがいかに行われるかは同じ曲をさまざまな音源で聴いてみる他ない。
ただ、まるっきり違うわけではなく、同じ奏者のソロなので、基本的なソロの組み立て方や音楽の解釈みたいな、大きい部分は変わっていない。
『Trains』を例にすると、ソロの冒頭は音こそ違えど、長いフレーズから始まっている。
盛り上がりのピークでは、ライブ盤とレコーディング盤で同じフレーズが出てくる。このフラジオフレーズはブレッカーの他の曲のソロでも度々出てくる。彼にとっていわゆる「キメフレーズ」なのだろう。いや〜かっこいい。いつかは筆者もこういう「キメフレーズ」を持ってみたいものである。
Youtubeに当時のライブ映像があった。
CDの元になったライブなので演奏は同じだが、どんなプレイヤーがどのように演奏しているのかを楽しみたい場合はこちらを見ていただきたい。
ライブの熱量は映像からの方が伝わってくるなと思う。
ちなみに『Oops』は動画の9:57〜、『Trains』は1:14:58〜である。
5.名盤③ 『Steppin’ Out』
最後にご紹介するのは2016年に発売されたアルバム『Steppin’ Out』。
マイケル・ブレッカーが若くして亡くなった後、アルバムは制作されていなかったが、サックスにBill Evans(名前を見て「あれ、ピアニストだし、時代違うじゃん」と思った貴方はなかなか鋭い。ただ、同姓同名のサックスプレイヤーもいる。)を迎えて制作された。
このアルバムでは、ドイツのビッグバンドであるWDR Big Bandとコラボして録音している。
収録曲はどれも過去に演奏された曲たち。
ビッグバンドアレンジがされているが、決して曲の雰囲気を損なわないとてもいいアレンジだと思う。
過去の曲と比較しながら聴くと、アレンジの違いやプレイヤーの違いを感じることができて面白いかもしれない。
6.おわりに
3回目となる今回は、フュージョンを紹介した。いかがであっただろうか。
「ピアノ、ベース、ドラムス=ジャズ」という人にはショッキングだったかもしれないし、ロック好きの人には思いの外、近しいものを感じて頂けてたかもしれない。
フュージョンという選択肢も、ぜひ貴方の音楽ジャンルの一つに加えてみてほしい。
また、吹奏楽団員として、あえて同じ曲が収録されているアルバムを紹介することで、(もしかすると苦手かもしれない!)アドリブを比較する面白さもシェア出来ればこの上ない喜びである。
「アドリブって書いてあると何やっていいか分からない!」という声を吹奏楽界隈では良く聞く。
その答えの一つは「その曲の演奏を色々聞いて真似してみる」かもしれない。