ブラオケ的民族音楽名曲名盤紹介 #4「リビア ~ サハラ砂漠の伝統音楽」
砂漠、氷原、密林のように、日本人にとって馴染みのない自然環境に住む民族の音楽が、どのような音楽なのか、気になる人は多いであろう。今回は、世界最大の砂漠であるサハラ砂漠のフェザン地区の伝統音楽をご紹介したい。
さて、フェザン地区とはそもそもどこなのか。フェザン地区は、アフリカ北部に位置するリビアにある地域のひとつである。リビアは、首都トリポリがあるトリポニタニア、南部のフェザン、東部のキレナイカの3つの地域で構成されており、今回の主役であるフェザン地区は、地中海沿岸から内陸に600 km離れたところに位置する。フェザン地区の約95%が砂漠であり、主要都市としてムズルクやセブハが挙げられる(下地図の赤い部分がセブハ)。
御覧の通り、広大な砂漠の内側に位置しており、どのような生活環境なのかが気になるであろう。元々、この地域で自発的に草木が成長することはなく、定住者の5分の1にあたる遊牧民たちは、以前はフェザンの町外れでしか生活が出来なかった。しかし、現在ではかなり開拓されており、交通も容易になったため、地中海沿岸地域とサハラ砂漠以南地域の交易において、重要な役割を果たしている。
さて、今回ご紹介する名盤は、Musique du monde社から発売された「リビア ~ サハラ砂漠の伝統音楽」である。フェザン地区に住むトゥアレグ人のウード(アラブのリュート)や、様々なパーカッション、ハンドクラップ、コーラスなどを交えて奏される伝統音楽が収録されており、CDの帯には「砂漠のブルースのルーツが垣間見れる貴重な音源」とまで記載されている。収録されている楽曲は以下の通り。
1. Tassaloft
2. Chetma
3. Tassile
4. Tadzi-out
5. Illok-Illok
6. Analla
7. Tanakalouit
8. Tara Torna
興味深いことに、3拍子の曲が非常に多い・・・というより、ほぼ全てが3拍子だ。もしくは、アフリカ音楽に多いポリリズムを作るための6拍子かも知れない。また、男性がウードの弾き語りをした後に、複数の女性コーラスがユニゾンで同じフレーズをレスポンスする形式も非常に興味深い。全体的に、トルコ系のアラビア民族音楽を彷彿とさせる印象があるが、そもそもこの地域は、16世紀頃から長い間、オスマン帝国の支配下にあったため、納得感はある。ただ、そこにパーカッションの独特のリズムが合わさることで、アフリカに存在するアラビア音楽といった独特の音楽観が出来上がっているのが面白い。どことなく、ハンドクラップがフラメンコを彷彿させる。一度聴けば、その独特の音楽観は理解出来るであろう。なお、本CDの6曲目に収録されているAnallaはYouTubeでも聴けるため、興味ある人は是非聴いて頂きたい。
今回はサハラ砂漠の北部に位置するフェザン地区の伝統音楽を紹介したが、日本人にとって馴染みのない地域の音楽というのは、西洋音楽ばかり聴いてきた立場からすると非常に斬新で、固定観念から脱却する上では、大変勉強になる音楽が多い。このような録音というのは、録音環境が過酷だからなのか、そもそも売れると思ってないから作らないのか、理由は定かでは無いが殆ど見かけない。そういった意味でも、本CDは非常に貴重なものと言えるだろう。新しい音楽観を知りたいという人には是非強くオススメしたい1つである。
(文:マエストロ)
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