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ブラオケ的民族音楽名曲名盤紹介 #6「極北の民族音楽2:チュクチ自治管区 )

 極北の民族音楽1「ヌナブト準州及びグリーンランド」に続き、今回はロシアのチュクチ自治管区の民族音楽について触れたい。

チュクチ自治区

チュクチ自治管区は、ロシア極東連邦管区の北東端に位置する人口約53,000人の自治管区であり、ロシアの中でも厳しい大自然の土地として知られている。冬の寒さは1月が零下15度~35度と極めて厳しく、夏は短い。7月の気温は5度~14度。年間降水量は200~400mmと少なく、海岸部はロシアでもっとも風の強い地域となっている。

チュクチ自治管区の民族音楽は、私の知る限り、1997年にプラヤサウンド社から出版された「GRAND NORD RUSSE」のみであり、今や廃盤となっているため、入手困難であるまた、YouTubeでも録音が見つからないため、チュクチ自治管区の民族音楽を聴くためには、本CDを持っている人から借りるか、ヤフオク等で奇跡的に出品している人から購入するしか手段は無いだろう。本CDには全部で47曲が収録されており、前半がChants(Songs:歌)、後半がChant De Gorge(Throat Singing:喉遊び)である。収録曲は以下の通り。


  • Chants(Songs)

  1. Shell Dance

  1. Necklace Dance

  1. My Fine Plait

  1. The Bering Strait

  1. The Walrus Hunt

  1. The Wave

  1. Kigikouy

  1. Waiting

  1. The Sea-Bell

  1. The Seagulls

  1. The Aurora Borealis

  1. You Have Gone

  1. We Want Peace

  1. The Leader of the Reindeer

  1. Departure for the Hunt

  1. Song of Nounligranskaia

  1. The little Reindeer

  1. Melody

  1. Melody

  1. Melody

  1. Veronika

  1. Lullaby

  1. Spring is Here

  1. My Village

  1. River Mainechne

  1. Untitled

  1. The Wild Berries

  1. Song of the Arctic Orane

  1. Bird Cries

  1. Melody

  1. Melody

  1. To My Mother

  1. To My Husband

  1. To My Dog

  1. Chikchi

  1. The Crow

  1. The Cry of Seagull

  1. Bird Cries

  1. The Reindeer Herdsmen


  • Chant De Gorge(Throat Singing)

  1. My Little Housewife

  1. Take Some Tea

  1. Untitled

  1. Untitled

  1. Anaina

  1. Animal Cries

  1. Improvisation

  1. I Light the Fire



海洋民族であるチュクチ族は、常に自然と調和して暮らしており、その自然は、チュクチの歌と踊りの主要テーマとされる。チュクチ族の歌は、主に海の哺乳類に関するものが多く、また、狩猟の場面を想起させることが多い。狩猟の場面は、想像上の銛や弓を使って模倣され、波・鳥・氷山・太陽は、彼らの伝統的な踊りの中で大きく取り上げられている。リズミカルな踊りは、海洋民族チュクチが狩猟民族であることを想起させる。Viktor Tymnevye氏は、チュクチ族の音楽について、次のように述べている。「優雅な踊りはツンドラに生える地衣類の春らしさを反映している。ツンドラ地帯を歩くと、足元の植物はシャキッとしていて柔らかく、まるでクッションの上を歩いているようだ。町へ移ったツンドラの老女たちは、硬すぎるアスファルトの上を歩くことに慣れることが出来ない。しかし、ツンドラではチュクチ族は自然と調和しながら軽やかに歩く。チュクチの歌や踊りは、足元の植生の春らしさを反映している。」

ところで、29曲目に収録されている「Bird Cries」などの鳴き声は、動物の鳴き声ではなく、チュクチ族の鳴き声の真似である。録音を聴くと、動物の鳴き声を録音しただけかと勘違いするが、実はチュクチ族の真似なのだ。このように、鳥や動物の鳴き声を真似ることで、彼らはツンドラの中心へと入っていくと考えられているのである。一方で、40曲目以降で収録されているThroat Singing(喉遊び)は、ツンドラ地帯のトナカイの呼吸を表現したものであり、通常は女性によって演じられる。子守唄のような歌(例えば22曲目)は、子供の誕生のために作られることが多い。この歌は、その子の一生に寄り添い続けるものとされる。また、チュクチの歌や踊りは、ハランガ(伝統的な住居)を囲む女性たち、トナカイの屠殺、宗教的な場面(シャーマンのトランス状態など)など、日常生活の場面を表現することもあるとされる。なお、多くの録音で聴ける太鼓のような音は、木の枠に皮を張った打楽器であり、チュクチではヤラールと呼ばれている。

 このように、チュクチ族の音楽は自然との調和を前提としたものが多く、現在主流の人間が作り出した人工的な音楽とは大きく異なるものである。当然ながら、オーケストラで使われるような弦楽器、木管楽器、金管楽器などは無く、自然の産物から得られたものを打楽器として使い、そこに歌を重ねることでチュクチ独特の音楽を生み出している。興味深いのが、前回ご紹介したヌナブト準州やグリーンランドの民族音楽とは違い、ロシアらしい力強さが垣間見れるのだ。最初の方の録音では、チュクチ自治管区アナディリ市の小学校教師Sveta Tchouklinova氏が歌っているのだが、最初に聴いたとき、打楽器の存在感と歌手のストレートな歌い方がロシアっぽいという印象を受けた。この感覚は実際に聴いてみないと分かりにくいと思うので、是非機会があれば聴いてみて頂きたい。


文:マエストロ

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