水源の森を守る公務員 ~「水道水源林」で働く水道局林業職の仕事紹介~
■■ 東京都水道局が管理する水源の森 ―「水道水源林」
みなさんは東京の水道水がどこから来るか知っていますか?
都内に供給している水道水は、その大半が河川水を利用しており、利根川・荒川系の水が約8割、多摩川系の水が約2割となっています。では、その河川にはどこから水が流れてくるでしょうか…? そうです、森林から流れてきます。東京都水道局では、多摩川に安定して水を流し、都民の重要な水がめである小河内貯水池(奥多摩湖)の保全を図るため、多摩川上流の森林を「水道水源林」として所有し、120年以上にわたって管理しています。
◆ 東京都から山梨県にまたがる広大な森林
水道水源林は、東京都の奥多摩町、山梨県の小菅村、丹波山村及び甲州市に位置し、その面積は約25,000ha(1ha=10,000m2)に及びます。東京ディズニーランドとディズニーシ―を合わせた面積がおよそ100haですので、その250倍の広さに相当します(あまりピンとこないですよね…)。水道水源林には、東京都最高峰の雲取山、大菩薩嶺、三頭山、笠取山など、多くの方に親しまれている山もありますので、もしかしたら皆さんも一度は訪れているかもしれません。
下の地図の緑色の場所が、水道水源林を示しています。東京都が、都内だけでなく山梨県内にも広大な面積の森林を所有しているというのは、少し不思議な感じもしますね。
◆ かつては飲み水に深刻な影響が出るほど水源地は荒廃していた
では、なぜ多摩川上流の森林を東京都水道局が管理しているのでしょうか?これには歴史的な背景があります。
江戸時代、多摩川上流域一帯の森林は徳川幕府の領地とされ、良好に管理されていました。しかし、明治時代に入ると、世の中の混乱もあって秩序なく森林が利用され、さらに台風災害や山火事などの影響も重なり荒廃が進みました。
当時、人口が増えつつあった東京の中心部へは、主に多摩川から玉川上水を経て飲み水を供給していましたが、大雨が降ると土砂が川に流れ込んで水が濁り、飲み水に深刻な影響を与えていました。このため、明治34年(1901)に多摩川上流の御料林(皇室が管理していた森林)を当時の東京府が譲り受けて自ら経営することとした、というのが水道水源林の管理の始まりです。下の写真は大正2年の多摩川上流部の集落とその周辺の森林の様子ですが、周囲にはほとんど樹木がなく地肌がむき出しとなり、荒廃していたことがわかります。
その後、多くの方々の手によって計画的に樹木が植えられました。これは一列に並んで植栽している様子です。
そして現在、多摩川上流の水源地一帯は、そのむかし樹木のない裸山だったと思えないほど、立派な森林に成長しています。
◆ 水道水源林を将来へつなぐために
東京都水道局では、今まで多くの先輩方が植え育ててきた水道水源林を受け継ぎ、森林の持つ水源かん養機能(森林に降った雨が土壌に浸透し、ゆっくりと川に流れ出ることにより、川の増水や渇水が緩和されること)などを将来にわたって十分に発揮できるよう、森林の生育状況に合わせて、間伐(木を間引く)や枝打(ある程度の高さまで枝を切り落とす)といった手入れを行っています。そのほか、台風などの災害によって森林内に大きな崩壊が発生した場合、そのままにしておくと崩壊が進み土砂が流れ出てしまうので、それを防ぐために大きな治山ダムを入れる工事を行ったり、森林を管理するための道路(林道)を新たに開設したり、補修したりする工事も行っています。
もっとくわしく水道水源林について知りたい方は、水道水源林ポータルサイト「みずふる」をご覧ください。このサイトには水道水源林に関する各種事業の紹介、気軽に散策できるハイキングコースの案内、水源林の働きを説明した動画や水源林を散策した動画など、たくさんのコンテンツがあります!
■■ 東京都水道局における林業職の仕事
◆ 水道水源林は誰が守っている?
水道水源林の管理には多くの人々が携わっています。東京都水道局の林業職職員をはじめ、水道局のグループ企業である「東京水道株式会社」の林業職職員、間伐など実際に森林の手入れ作業を行う林業のプロである造林業者の方々、治山工事や林道工事に携わる土木業者の方々、そして、水源地に住んでいる地元の方々の協力もいただきながら管理を進めています。
水道局には現在50名弱の林業職職員が在籍しています、大半が水源管理事務所(青梅市に所在)に勤務し、森林管理の全体計画策定や、工事や作業の設計・監督業務、広報・PR業務、などに従事しています。このほか新宿の都庁本庁舎に勤務している林業職の職員もいますし、東京水道株式会社に派遣され、より現場に近い調査業務を行っている職員もいます。
◆ 特別座談会 ―水源の森を守る公務員―
ここからは、現在、水源管理事務所に勤務している4名の林業職職員が登場します。普段どんな仕事をどんな想いで行っているかなど、座談会形式でいろいろと話を聞いてみました!
―― 司会:Hさん(32歳 男性 入都7年目 埼玉県出身 民間企業での勤務経験あり)
それではさっそく始めましょう。まずは、みなさんの今の担当業務について教えてください。
Kさん(28歳 男性 入都6年目 東京都出身):私は治山担当に在籍しており、治山工事を発注するための調査、設計、積算を行い、工事発注後は現場監督も行います。治山というのは、文字どおり「山」を「治める」ということで、台風などで崩れた森林にコンクリートや鋼材を使ったダムなどを設置し、土砂が流れ出るのを防ぐものです。現地では、自分たちで光波測量を行ったり、ドローンを活用した調査も行っています。
Tさん(25歳 女性 入都3年目 三重県出身):私は水源林保全担当に在籍しています。水源林保全担当では、森林の間伐や枝打などの手入れについて、現場調査を行っていつどの程度行うかを決め、設計や積算などを行っています。実際の作業は造林業者の方々が行いますので、発注後はその作業監督も行います。
Yさん(28歳 男性 入都3年目 東京都出身 民間企業での勤務経験あり):私はKさんやTさんとは少し違って、水道水源林のことをいろいろな人に知ってもらう仕事をしています。企画調整担当に在籍し、水源林ツアーなどのイベントを開催したり、小学校に出向いて水源林のことを直接生徒さんたちに説明するといった仕事をしています。
〇 仕事をしながら感じる自然の美しさ
―― Hさん:林業職の公務員を選んだ理由を教えてください。ちなみに私は、経済学部の出身で、木が好きだったこともあって木材を扱う会社に勤めましたが、働きながら公務員に林業職があると知り、転職しました。
Kさん:私は、小さいころ山でキャンプした経験などから自然の中で仕事したいと思うようになりました。学生時代は林業を学び、林業職の公務員を目指すようになりました。
Tさん:私は出身が田舎で緑の多いところだったこともあり、学生時代は緑地に関することを学んだので、その知識を活かせる仕事に就きたいと思っていました。学生の時に県庁の方と知り合う機会があり、とても魅力的にお仕事をされていた方でしたので、私も公務員を目指そうと思いました。
Yさん:私は動物が好きだったのですが、たまたま木材の利用や加工などを学ぶ林産系の学科に入り、そこで木に出会って興味を持つようになりました。卒業後は木材を扱う会社に入ったのですが、実際に山にかかわる仕事に就きたいと思い、公務員になった友達の話なども聞いて、自分も目指すことにしました。
―― Hさん:みなさんいろいろなきっかけで公務員になったことがわかりました。やはり学生時代に森林や緑地などを学んでいた方が多いですね。でも私のように経済学部出身の職員もいるんですよ~。
次に、水道水源林で働いてみて、うれしかったことや思い出深いことなどありますか?
Kさん:水道局に来る前は、環境局に所属し、新宿の都庁本庁舎に勤務していました。都庁勤務もよい経験でしたが、私が担当していた業務ではあまり現場に出ることはありませんでした。今の担当は現場に出ることも多く、現場への移動中に奥多摩湖の湖面がキラキラと輝いているのをみると嬉しくなります!
Yさん:水源林を紹介する動画を撮影するため雲取山へ行き、山頂で日の出を撮影したのですが、雲海の中から太陽が昇る様子は幻想的で、とても印象に残っています。
Tさん:私も、現場で四季の変化を感じることができるのはうれしいです!それとお昼の休憩時間に現場で食べる温かいカップラーメンがおいしいです。
Kさん:現場のカップラーメンおいしいよね!家で食べるより不思議と数倍おいしく感じます。
Yさん:え?そんなにおいしいんですか?現場で食べたことがないので今度食べてみます!
〇 苦労はあるけどその先には達成感が
―― Hさん:仕事で苦労していることなどについて聞かせてください。
Kさん:今は治山工事を担当していますが、今まで経験がなかったので、工事の設計や施工管理に関する基準など学ぶことが多くて大変です。また現場も遠く、事務所から現場まで片道2時間30分くらいかかる場所もありますし、忙しい時には残業をすることもあります。ただ、監督員として、自分の親と同世代くらいの受注者の方たちと、相談しながら一つの工事現場を無事に終わらせたことは自分にとって励みになり、自信もつきました。今も日々勉強中です。
Tさん:調査では傾斜が急な森林の中を移動することもあり、体力的にキツイことがあります。周りも男性が多いのでなかなかついていけなくて。ただ、気づかって声をかけていただいたり、休憩もとるので、そこまでスパルタではないです。おかげで少しずつ体力がつき、だいぶ歩けるようになってきました。また、苦労して調査した箇所が、造林業者の方々の手によって整備されたのを見ると達成感を感じます。
Yさん:林業職として入ったので、まさか自分が広報の仕事をするとは思っていませんでした。私は人見知りなところもあり、イベントで大勢のお客さまに説明することなどやったことがなく、苦手意識があります。ただ、少しずつですが、慣れてきたかなと思っています。水道局が水源地を守っていることを説明すると、お客さまから感謝の言葉をいただくこともあり、それは本当にうれしいです。
〇 仕事とプライベートのバランスのとり方
―― Hさん:「働きやすさ」という点ではどう感じていますか?
Yさん:この職場は、なんでも相談できて話しやすい職場だと感じています。また、有給休暇ですが、私が以前いた民間会社と比べて、1日単位だけではなく、午前・午後の半日単位や1時間単位でも取れるので、通院する場合など使いやすい制度だと思います。
Kさん:東京都の公務員は転勤の範囲が限られるのもよいと思います。私が環境局から水道局に来たように局をまたぐ異動はありますが、勤務地は東京都内です。とはいえ、林業職には伊豆諸島の各支庁や小笠原にもポストがあるので、そちらに異動を希望することもできます。この場合は東京都内といっても当然引っ越しをしないといけないですね。
Tさん:子育てをサポートする制度も充実していますよね。この職場にも産休や育休、部分休業をとっている先輩職員がいます。
―― Hさん:私も、都庁はどのライフステージでも活躍できる制度が整っていると感じています。実は以前いた民間会社では、有給休暇を全く取得できなかったんですよ(泣)…。でも、今は休暇をとれるようになり、実家の畑仕事や趣味の木材コレクションを楽しむなど、プライベートも充実できています。
みなさんは休日どんなことをしてリフレッシュしていますか?
Tさん:平日は自然の中に行くことが多いので、逆に休日は都会に出て買い物したり、好きなアーティストのライブに行ったりしています。職場が青梅市内なので青梅線の沿線に住んでいますが、新宿まで電車で1本で行けるのでわりと便利です。
Kさん:学生時代から趣味のラグビーを続けています。土曜日は休んで、日曜日は運動するというようにメリハリをつけています。今は昼休みに筋トレもしていて、筋肉もつけています!
Yさん:私も最近ジム通いを始めました。そのほか、ドライブで温泉に行ったり、都心に行ったり、キャンプに行ったり、いろいろです。でも、土日のどちらかは家でゆっくりしているかな。
―― Hさん:この職場は、登山やボルダリングなどアウトドアが好きな人が多いですよね。一緒にでかける話もよく聞きますし、仲が良い職場だなと思います。
さて、最後になりますが、水道局の林業職に興味を持ってもらった方へメッセージをお願いします。
Kさん:この職場は水道水源林というフィールドがあり、これを守るという明確な目的があります。業務で苦労してやったことが形として見えるのはいいなと思いますし、終わった時には達成感があります。ぜひ一緒に水源林で働きましょう!
Tさん:都民の財産である水道水源林を守るというのは、とても重要な仕事でやりがいを感じています。自然が好きな人にとっては天職と言えるのではないでしょうか。ぜひ東京都の林業職を選択肢の一つとして考えてみてください!
Yさん:水道局の仕事はライフラインを守るという重要な仕事で、水道水源林を守ることもその一つです。この職場では工事の設計・監督や森林整備、そして私が携わっている広報の仕事に至るまでいろいろな仕事があるので、自分のやりたいことが見つかるかもしれませんよ。
―― Hさん:水道水源林という都民の財産を守る仕事は、公務員だからこそできる仕事とも言えますよね。今日はみなさんのいろいろな話が聞けて楽しかったです。どうもありがとうございました!
◆ あなたも水源の森を守る職員になってみませんか?
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、東京都水道局で働く林業職の紹介をさせていただきました。少しでも水道水源林と私たちの仕事について興味を持っていただくことができたのであれば大変嬉しく思います。そして、この記事を読んでくれたみなさんと、いつか一緒に水道水源林で仕事できる日がくることを、今から楽しみにしています!
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