お婆さんとオリンピック選手の勝負(人間の強さとは)
うちのまわりには特徴ある人とすれ違うことが多い。腰が90度曲がった、頭ぼさぼさで、いつもイオンのビニール袋を片手に裸足サンダル姿の小柄なじいさん、落ち武者のような髪の毛ボサボサ、上下が揃っていない毛玉ばかりのジャージ姿でスニーカーのカカトを踏み潰してぼーっと歩く、30代の青年。そして、あのお婆さん
あのお婆さんを見たのは、2年くらい前。早朝、6時過ぎにあのお婆さんとすれ違った。
深く被った帽子から白髪が少し見え、痩せこけて、頭と肩と腰が殆ど同じ幅でマッチ棒のような体躯。年齢は70歳くらいか。おそらく体重は30キロぐらいしかないだろう。さらに、乳母車のような歩行器を両手で掴み歩いている。この痩せすぎのお婆さんが一人で外にいることもそうだが、気になったのは、その歩く歩幅とその速度。歩幅は自分の足の長さ分も前に出ていない、20センチ程度を前にちょと出し、次に反対の足を前に少し、遠くから見たら、進んでるかどうかもわからない。普通の人が20秒くらいで行ける距離をおそらく10分はかかるだろう。さらに両手で押している歩行器がなかったら歩くことはおろか、立ってられないだろう。このような人が歩いているのを見たことがある、そう、病院で。病院でリハビリしているような感じだ。さらに、その痩せ方が激しいので、もう、なぜ、ここにいるのかもわからない。思わず声を掛けようかと思ったが、近くに老人ホームがあるので、そこから歩いてきているのではと思い、とりあえず、声をかけるのをやめた。
それから、、、たまに、朝見かけるようになった。相変わらずのスピードで歩いている。さすがに、あの姿と歩くスピードでは目につくし、遠くからでも直ぐにわかった。
何回か見かけるうちに、公園の周りの公道を一周するのを歩くコースとしているんだなということがわかった。しかし、相変わらずのあのスピード、さすがに自分があの歳で、いかに歩くことが大切だとわかっても、嫌になるだろうな、やらないだろうなと思った。大分失礼な憶測だが、たぶん、大変な病気をされて療養中で、余命いくばくもなく、外に出ることだけが楽しみの一つとして、毎朝歩いているんだろうと勝手に思っていた。
その後も、なんか忘れたころに見かけることがあったが、正直、まだ生きているのかと驚くぐらいだった、あれでは、いつか見かけなくなり、お亡くなりになったんだろうなと思う日がすぐくるだろうと。
去年の暑い夏、夏用の帽子を被り、ゆっくりと歩くお婆さんを見た。すごく暑い日だったので、夏こせるのかな。。と気にしながら、すれ違った。
そして、冬。毛糸の帽子を被り、寒い中歩くお婆さんが。。。。
んっ!?若干、早くなった?わずかだけど、少しだけ、歩くスピードが早くなったような。。。
次の次の日、大雨。外に出るのも嫌になるような。朝食がないので、仕方なくコンビニに出かけるため、外に出て歩いていると、向こうから・・・・
げっ!?マジか!!!
そう、あのお婆さんが、合羽来て、いつものとおり歩いている。
大雨と朝の暗闇でモヤがかった中、向こうからゆっくりくるお婆さんの姿は、さすがにお化けかと思った。
この時、初めて、この婆さん、すげぇな。。と感じた。
あんなにゆっくり歩くのに、普通ならイヤになるようなことなのに、欠かさずやっている、あのお婆さん、さらに、歩いたところで、先がそう長くないのに(失礼、すいません)、でも、継続して頑張ってる。一度、そう感じると、今度は、お婆さんを見かけるたんびに、心の中で頑張って!って応援するようになった。
こう書きつつ、上から目線もいいとこだよなー
自分は健康で、普通に歩いているし。でも、そんな上から目線もね。。恥ずかしいね!
話を戻して。
あのお婆さんを初めて見かけてから、2回目の夏。相変わらず歩いていたあのお婆さん。暑いのか、骨しかない脚があらわにだした短パン姿。いつもの歩行器をつかんで。
もう、この頃は、このお婆さんを見かけるたんびに、自分も頑張らなくてはと、勇気をもらうようになっていた。
そして、2回目の冬、本当に寒くて、自分の朝の日課をさぼって(実は朝ジムに行っていた)、会社に出かけると、あのお婆さんとすれ違った。
俺よりすごいかも、このお婆さん。
それから、半年くらいすぎて、車で出かける時、あのお婆さんを見かけた。まだ、歩行器を掴んでいたが、確実に歩くスピードが早くなっていた。
人間ってすごいな。やればできるんだな。そう思った。
そして、昨日、あのお婆さんを見かけた。
一瞬、わからなかった。
なぜか。痩せてて、あの独特なマッチ棒のような体型はかわっていない。しかし、歩く姿が、もう普通の感じ。さらに、手に持っているのは杖だけだった。
だから、あのお婆さんかどうか、わからなかったのだ。
その時、思った。
人間がすごいんじゃない、この婆さんがすごいんだ。
この婆さんの意志の力が凄いんだ。
もしかしたら、このお婆さん、若い頃、とてつもない人だったのかも。だって、これだけの意志の強さをもってるんだから。
声をかけて見ようかと思ったけど、やめた。。
あの2年前に初めて見かけた時から、ここまで来る道のり、誰にも応援されることもなく、自分だけの、自分自身との戦い、それはこっちが勝手に思ってることかもしれないけどね。
でも、この意志すごいよ。この意志があれば、オリンピックで金メダルもとれるんじゃないかなと思うくらい。
もし、この婆さんとオリンピック選手を分けるとしたら、分ける差は、本来持っている能力と運ぐらい。意志の強さ選手権があれば、この婆さんは間違いなく金メダルとれるのでは。
だって、この先の人生がどれくらい残っているかどうかもわからない中、歩くことにあれだけ時間かけて、自分の能力を信じて、そこまで辿りついたんだから。。生理学の本とかに書かれていることが本当なら、普通ならあの歳だと、骨とか筋肉は衰えるだけか、現状維持だけなのに。。。
最初、そう先長くないだろなと勝手に思っていたお婆さんに、平伏すまでの2年間でした。まだ、あのお婆さんとは話たことありません。いつか、声かけてみようかな。。。