2: 多様な家族が具体的に困っていること 知られていないその実情
東京レインボープライド2021、5月5日生配信した「多様な”かぞく” を考える 〜選択的夫婦別姓・特別養子縁組・同性婚〜」のトーク内容第二弾をお届けします。
夫婦同姓の精神的な負担と経済的な負担
杉山 次のテーマは、具体的に困ってることです。反対派の方々に言われることも含めて、青野さんから説明していただけますか。
青野 選択的夫婦別姓の話で困るのは、大きく分けるとまず精神的な負担。苗字が気に入ってて、名前とセットで決めますから画数もよくて、子供の頃からあだ名なんかもついて親しみを持ってたのに、ある日結婚を機に変えろと言われるんです。もう一つ、経済的負担と主張してるんですけど、改姓手続きどれぐらい大変だと思ってんねん、と。現代人、何枚キャッシュカード、クレジットカード持ってると思ってんねんとね。IDも含めて何個変えさせんねん、窓口の人も大変なことになる、とか。あと、使い分けです。仕事上、(旧姓を)使い続ける人もいるわけですけど、そうすると今度は苗字が2個あって、どこでどう使うのか本人確認で大変になる。海外出張行くとトラブルに巻き込まれることがあって。こういう経済的負担と精神的な負担、シンプルに言うと二つあります。
反対意見は色々あります。さっき言われたような、子どもかわいそう話もあります。どっちかの親と苗字が違うことになるのでかわいそうっていうのがありますけど、八村塁さんとか大坂なおみさんとか、国際結婚家庭だとどちらかの親と苗字が違うの当たり前です。あと、よく言われるのが伝統的な家族観が壊れて離婚が増えるとか。本当かどうか怪しく、しかも離婚するって別に悪いことじゃない。少なくとも、選択的夫婦別姓ができないから、結婚をためらうカップルがいっぱいいるのが確認されてるわけで、事実婚の一番の理由は苗字を変えないといけないことです。制度ができたら婚姻率が上がるって僕は主張しています。
杉山 青野さんもお子さん育ててるけれど、苗字で困ることってありますか。
青野 家の中で苗字使うことないじゃないですか。下の名前かもしくはパパママだから別に家で疎外感感じるはずもないし。しかも、今は旧姓で働く人が当たり前。自分の親が自分と違う苗字使ってるって子供は認識してます。子供も、私のこと青野慶久だと思ってます。それが何ってことで。母親の名前を引き継いだことだけ理解しておけば、問題が起きないことはもう確認されてると思います。
杉山 皆さんが「青野さん」で認識されていて、海外に出張行ったときにホテルが「青野」の名前で予約が入ってて泊まれなかったと言う話を伺ったことがあります。
青野 そう。本当怖くて。海外だとパスポートとクレジットカードがI D代わりじゃないですか。それと違う名前を使ったら怪しいってなるわけですよ。テロ後のアメリカに行ったときにホテルで怪しまれて、なかなか泊めてくれないみたいなことがありました。名前を2つ持とうと思っていない。一個でいいのに、その一個を無理やり変えさせられることが日本人にとってとても負担になってます。
同性婚裁判での「法の下の平等に反する」という違憲判決
杉山 逆に、同性婚に関しては苗字一緒にしたくてもできないカップルがいるんですけど、これはどうなんですかね。
寺原 法律婚をするという選択肢すら与えられていないので、長年一緒に暮らして愛し合っていても結婚ができない。結婚、法律婚ってものすごく守られてるんです。権利の数にしたら千個くらいになるのではと思うんですけど、いろんな権利・利益・保護があって、その全てが得られていない。例えば、片方が亡くなった場合の法定の相続権だったり、お子さんがいるときの共同親権だったり、あるいは片方が事故とか病気で意識がないときの手術の同意権だったり。あらゆることが配偶者として認められていないという日々の具体的な困りごとが一点。
もう一点、同性婚がないこと自体がセクシュアルマイノリティに対する差別偏見を助長してると思うんです。理解が追いついてないという話が聞こえてくるんですけど、それはなぜかと考えると、同性婚がないってことは、同性カップルは異性カップルとは違う特別な人たち、変わった人たちで、保護しなくてもいいと国が言ってるんだから、じゃあ我々だってそう扱っていいでしょと無意識に一人ひとりの中に差別・偏見の意識が入ってきてしまっている。法制度が整備されていないことの弊害はすごく大きいと思います。
杉山 憲法14条で、国民は法の下に平等と言ってるのに、結婚できる人とできない人がいるっておかしいと、それが札幌地裁判決で出たということなんですよね。
寺原 そうです。札幌判決では、結婚の目的が何か、本質は何かということに遡っています。子どもを自然の生殖でふたりの間で産んで育てることが結婚の目的だと国は主張したんですね、あの裁判の中で。だけど、異性カップルでも子どもがいない、持たない人もいるし、生殖医療で持つ方もいる。国の主張は実態に反してるんですけど、同性カップルは自然生殖ができないから結婚には向かないと主張していたんです。が、札幌の裁判所はそこを一蹴して、いや違う、そういうことが大切だと思う人もいるかもしれないけど、ふたりの間の関係性自体を保護することが婚姻の本当の重要な目的の一つなんだから、それは同性カップルでももちろんできる。これは差別ですねと判断したところが大きいと思います。
杉山 反対派のご意見で必ず出てくるキーワードが伝統的家族観。そこはどうですか。
寺原 それ本当に言われるんですけど、そもそも伝統的な家族って何なんだろうなって思うんです。おそらくおっしゃってる方が想定するのは、お父さんお母さん、その間に自然生殖で生まれた子どもっていうパターンと思います。同性婚ができる前の今の状況でも、離婚してシングルマザーだったりステップファミリーだったり、いろんな形ですでに多様な家族がいて、家族っていう形を一つに決めること自体が実態にあっていない。そもそも国がそういうことを決める立場にはない。逆に、家族になりたい、家族として互いに責任を持って絆を感じたいという人たちを法律で守るのが国の立場です。夫婦別姓になりたい人も同性カップルの人も、家族になりたいだけなんです。家族を崩壊させるのではなく、家族を大事にしたい方々に法的保護を与えてほしいという話なんです。伝統的な家族観が崩壊するっていうのは論理的に成り立たないと思ってます。
特別養子縁組への誤解や偏見
杉山 久保田さんは特別養子縁組に関して、法的制度的にはすごく守られているとおっしゃいましたが、イメージが追いつかないみたいなことで困ることはありますか。
久保田 特別養子縁組という制度自体に誤解や偏見があるとしたらそれは解決しなきゃいけないと思うんです。百歩譲って伝統的家族観に沿うように私たちもした方がいいとしても、それができない子供たちがたくさんいるんです。日本には様々な事情で親と暮らせない子供たちがおよそ4万5000人いると言われていて、その8割は施設で育ってるんです。その現状をどうしていくんですかと私は問いたい。国連のガイドラインを見ると、そういう子供たちは里親制度や養子縁組で家庭で育つべきだと言われてるんです。なのにできていない。特別養子縁組もそういう施設で育つ子供たちを、施設ではなく家庭にという一つのやり方なんです。それをポジティブにとらえられないで広まらないと、じゃあこの子供たちどうするんですか。特別養子縁組を使う選択をする生みの親たちもいるわけです。その人たちは制度が良いものだと思わないと積極的に利用しないと思うんです。
いろんな事情があって、その声ってなかなか可視化されなくって。本当に困った状態でいて、子供の幸せを思って特別養子縁組に出して、自分のことよりも子供が幸せになってくれればっていう方がたくさんいるんです。そういう人たちに対して産んだのに育てないのかというような批判はすべきじゃないと思うんです。でも、今のままだとそうなりかねない。お母さんにとっても子供にとっても、特別養子縁組という選択肢を選べる環境にすべきだと思うし、子供たちができるだけ多く施設から家庭に行けるようにするにはどうしていけばいいのか考えないといけないと思うんです。
「伝統的な家族観」と多様な家族
杉山 夫婦別姓、同性婚、養子縁組みたいな話になると伝統的な家族観の否定みたいな感じで、それと対立するものかのように見られると思うんです。でも、逆に伝統的家族観とは何かというと、家族を大事にするとか絆とかということで言えば、全く同じとも言えると思うんです。
青野 何をもって伝統というかで違うじゃないですか。選択的夫婦別姓でいくと、戦後日本は結婚したら苗字一緒にするルールですけど、もうちょっとさかのぼると、そもそも普通の人は苗字ないぞみたいな。もっと遡ると、源頼朝と北条政子は別姓婚じゃないかとか。伝統って一時代のあるモデルを切り取っただけのことだったら、どんどん変わっていく。いろんな伝統があって良いし、相撲には相撲の伝統があるけど、全員が相撲しろって話じゃなくて、野球の伝統があって、そこにサッカーが加わったって良いし。そういうふうに人間はやってきてる前提に立った方がいい気がしました。
久保田 私、歌舞伎が好きで、中村勘三郎さんが大好きだったんですけど、勘三郎さんもよく言ってて、伝統派だから型は守りつつ、でも新しくしていくって。型を守らないと、伝統を守らないと型なしになってしまう。けれど、型がありながらも時代に合わせて変えていくと、型破りになって斬新なポジティブなことだよっておっしゃってたのを思い出しました。
寺原 札幌地裁判決でも伝統的家族観について裁判所が言及していて、もし同性カップルに法的な保護を認めたら、伝統的な家族観に多少変容があるかもしれないけど、そのこと自体は同性カップルに法的な保護を与えない理由にはなりませんよと、明確に言っています。
第3回目に続きます。
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