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2024年6月23日コンセール・ド・コテツ

久しぶりの「日記」、もはや半年以上のブランクですね。・・・皆さんとの大切な接点ですので、気楽に書き続けたいと思い直している今日この頃です。
さて2024年6月23日の公演「コンセール・ド・コテツ」の曲目と簡単な解説を公開します。


 1. 唯野敦子
オペラ「オルフェオとエウリディーチェ」よりオルフェオのアリア「エウリディーチェ無しになんとしよう」 グルック
 …今回のプログラム前半は18世紀のイタリア語によるオペラと歌曲です。グルックのオペラ「オルフェオとエウリディーチェ」は彼の代表作の一つです。音楽史上では「オペラ改革」の代表作品として知られている作品ですが、このアリアは、オペラ終盤でオルフェオによって歌われます。妻を取り戻すことができなかったと思い込んだオルフェオが、悲しみというよりむしろ清々しい諦念を歌いあげる、観客の印象に残る曲です。

 2. 林潤一郎
オペラ「奥様女中」よりウベルトのアリア「いつでもお前はさかさまだ」 ペルゴレージ
…ペルゴレージは18世紀初頭のイタリアオペラの「ナポリ派」の代表的な作曲家の一人で、この「奥様女中」は、音楽史上画期的な、明晰な作風の喜劇オペラです。このアリアでは、いつも反抗的で朝のショコラを作ろうともしない反抗的な女中セルピーナに、堪忍袋の緒が切れたウベルトが怒鳴り散らします。合間合間に、下男に相槌を求める様子が挟まれ喜劇的な効果を増しています。

 3. 原芽衣
オペラ「奥様女中」よりセルピーナのアリア「怒りん坊さんね」 ペルゴレージ
…単独でも歌われる女中セルピーナのアリア。体は身軽で頭の回転も早い女中が、口うるさいご主人様をたしなめる愉快な曲。

 4. 原 林
オペラ「奥様女中」よりセルピーナとウベルトの二重唱「その目つきでわかる」 ペルゴレージ
…「私と結婚しなさいな」と平然と命令する女中と、それに呆れて反論する老主人。単に金目当ての結婚騒動、とも言えるが、見方を変えれば、若い人と老人の対立や平民と貴族の対立が、身分差を超えた愛情により解消する物語、とも考えられる。

 5. 吉田 増田 小鉄
三重唱曲集「ノットゥルノ」より「つらい定めに僕はしのび泣こう」
 モーツァルト
…モーツァルトが友人たちとの集いのために作曲したとされる、一連の三重唱の一曲。恋人との別れの辛さを綴った、当時の名高い詩人メタスタージオによるこの詩は、たくさんの作曲家により歌となった。この曲では別れの悲しみというより、恋人への優しい愛が表現されている。

 6. 加藤 内田
オペラ「フィガロの結婚」よりスザンナと伯爵夫人の二重唱「風に寄せて」 モーツァルト
…伯爵の下男フィガロと結婚するスザンナは伯爵夫人の女中。ところが伯爵は自分の妻・伯爵夫人の女中スザンナに強烈な執着。伯爵夫人は夫を懲らしめるためにスザンナと共同戦線を張り、偽の恋文を口述筆記させるのがこの二重唱。邦題訳の「風」は「アリア」すなわち「歌」とも解すことができる。気持ち良い「微風」の吹く夜の逢引きを予感させる手紙を、どこからともなく流れてくる優美な「歌」に乗せて歌われます。

 7. 川端 唯野
オペラ「コシ・ファン・トウッテ」よりフィオルディリージとドラベッラの二重唱「ねえご覧なさい妹よ」 モーツァルト
…邦題は良く「女は皆こうしたもの」とされるが、この作品の背景に啓蒙主義があるとすれば、女性に対して道徳に批判してはいないので、単に「女は皆こうなのだ」という方が正しい訳と考える。ただ、これではあまりにそっけないので、笑、拙訳では「女は皆こうすべし」としている。
 ナポリで気ままに暮らす二人の貴族姉妹が、朝の庭園で、それぞれの粋な恋人からもらった肖像画ペンダント(男性が自分の肖像画を恋人の女性に贈るもの)をさも嬉しそうにもったいぶって自慢し合う。そして曲の後半では「私が心変わりをすることがあれば、愛の神様は私を罰しても構わない」と、神にかけて誓う。実はこの誓いが、この物語が進むに従って、口にした際の気持ちとは反対の意味で重みを持っていく。

休憩

 8. 石橋恵美
オペラ「清教徒」よりエルヴィーラのアリア「あなたの優しい声が… 来てください愛しいお方」 ベッリーニ
…19世紀前半に活躍したイタリアの作曲家ベッリーニのオペラ「清教徒」はパリで初演されたが、35歳で没する彼の遺作となった。17世紀の清教徒革命を背景とする恋愛物。エルヴィーラが自分の愛する男性に裏切られたと誤解して、正気を失ってしまい、恋慕う思いを歌うのがこのアリア。

 9. 吉田早穂
オペラ「ドン・バスクァーレ」よりノリーナのアリア「騎士はその眼差しに」 ドニゼッティ
…19世紀前半、ベッリーニよりも長い期間活躍したドニゼッティの傑作喜劇オペラの一つ。「恋愛と結婚は別」というフランス革命以前の古い頭のドン・パスクァーレは、自分の甥エルネストが財産の無いノリーナと結婚することに反対している。一方、ノリーナはその登場場面にて、この魅力的なアリアを歌い、自分の人を騙す手管にかけての自信の程を披露する。

 10. 加藤瞳
オペラ「リゴレット」よりジルダのアリア「慕わしき御名」 ヴェルディ
…不道徳な公爵に仕える道化師リゴレットは愛娘ジルダを、公爵の目に触れぬよう、密かに育てていた。しかし公爵は貧しい学生になりすまし、ジルダの清純な心を惑わせてしまう。ジルダは一人きりで、彼の偽りの名前「グヮルティエール・マルデ」を幾度となく口にし、その胸を恋で高鳴らせるのだった。

 11. 川端夢衣
モテット「スターバト・マーテル」よりアリア「キリストの死を私に負わせ」 ボッケリーニ
…「スターバト・マーテル」とは、「悲しみの聖母」と訳される、キリスト教カトリックの聖歌であり、13世紀に成立した。後世には、多くのキリスト教の他の成果と同様、その歌詞に新たに作曲され、多くの傑作が生まれることとなった。この作品は18世紀後半に活躍したイタリアの作曲家ボッケリーニによるもの。
全曲がソプラノ独唱と弦楽器伴奏により、この「キリストの死を私に負わせ」では、キリストの受難と傷に思いを馳せる「共感共苦」が、ボッケリーニの優美な楽想で歌われる。

 12. 内田みか
オラトリオ「天地創造」よりソプラノのアリア「今や野は爽やかな緑をさしいだして」 ハイドン
…フランツ・ヨーゼフ・ハイドンは、18世紀後半に主にウィーン等ヨーロッパ各地で活躍した多作の作曲家。「天地創造」は旧約聖書等を基にドイツ語で書かれた台本に作曲され独唱陣、混声合唱、大規模なオーケストラ編成による大作で、初演時には大変な評判となった。
本アリアは天地の創造された第3日の箇所で歌われ野原の木々や花、構想や薬草について、のどかに描写される。

 13. 竹野智子
歌曲「人魚の唄」 J.ハイドン
歌曲「想い出」 J.ハイドン
…ハイドンは2度に渡りロンドンを訪問し、作曲家として大成功を収めた。また、あるイギリス夫人の詩に英語の歌曲を作曲している。「人魚の唄」では軽やかなピアノの伴奏に乗って、輝く海の人魚が真珠や珊瑚の岩場へと聴くものを誘う。「想い出」では幸せな恋の季節を穏やかに懐かしく回顧する。

 14. 増田紋子
歌曲「夕べ」 フォーレ
歌曲「ネル」 フォーレ
…フォーレは19世紀終わりから20世紀初頭にかけて活躍した、フランスを代表する作曲家の一人。様々な編成の曲を多数作曲し、歌曲も多くの優れた作品を残した。サマンの詩による「夕べ」では、薄暗い庭での恋人との甘やかで密やかな逢引きが繊細に語られる。ルコント・ド・リルの詩による初期の作品「ネル」は、恋人を6月のバラにたとえる初々しい恋歌。ざわめく伴奏と飛翔する伸びやかな旋律のコントラストが印象的。

 15. 小鉄和広
歌曲「前世」 デュバルク
…デュパルクは19世紀後半の作曲家。20世紀にかけて生きたが、若くして作曲の筆を折り、多くの作品を自ら破棄した。歌曲は17曲が残された。「前世」はボードレールの詩による。以下、拙訳。

「前世」
長い間、私は宏壮な回廊に住んでいた。
それを海の陽光は千の炎で染め上げて、
回廊の大きな柱はすっくといかめしく、
夕べには、玄武洞とみまがうほど。

大波は、空のようすを揺らしつつ、
荘厳で神秘的なやり方で、
波音の豊かな音楽の力強い和音を、
眼に反射する夕日の色彩に混ぜ合わせていた。

そこにこそ、私は生きていた。静かなる逸楽のうちに。
波と輝きの紺碧のただなか、
私を囲む、香油が染み込んだはだかの奴隷たちが、
棕櫚の葉で私の顔を涼やかにしてくれていたが、
その気遣いは、ただ深めるだけだった、
私を悩ます、悲しい秘密を。


アンコールに「マケドニアの乙女」を皆で。

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