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都知事杯オープンデータ・ハッカソン2024キックオフレポート

2024年8月2日、都知事杯オープンデータ・ハッカソンのキックオフイベントが開催されました。

基調講演には株式会社ウィズグループ代表取締役の奥田浩美さんをお招きし、昨年に引き続き心に響く講演をいただきました。続くパネルディスカッションでは、一般財団法人GovTech東京業務執行理事の井原正博さん、日本アイ・ビー・エム株式会社テクノロジー事業本部カスタマーサクセス部長の戸倉彩さんも加わり、東京の未来やハッカソン参加者へのアドバイス、チーム作りの重要性など、多岐にわたるテーマについて意見が交わされました。

今年の都知事杯オープンデータ・ハッカソンは、過去最高の925名の参加者にのぼります。熱気に包まれていたキックオフ、ぜひその様子をご覧ください。

奥田浩美氏による基調講演

基調講演は、「未来から来ました」という奥田さんの印象的な言葉から始まりました。この「未来」とは、まだ誰も気づいていない課題や最先端のテクノロジーの場所を指すのだと言います。奥田さんの経歴は、まさにこの「未来づくり」を体現するものでした。

鹿児島で生まれ育った奥田さんは、22歳のときにインドに渡り、ムンバイ大学で社会福祉の修士課程に進みます。しかし、「眼の前にある社会課題に対し、真剣に取り組んだけれど、1ミリも状況を変えることができなかったのです」と語ります。大きな挫折感を味わったインド時代。しかし、同時に劇的な技術変化を目の当たりにし、テクノロジーの社会的影響力に気づくこともできました。「1人では難しくても、テクノロジーを使えば社会に貢献できるかもしれない」。この気づきが、帰国後の起業や社会活動の原動力になったと言います。

奥田さん

奥田さんはその後、テクノロジーを起点にして事業を立ち上げ、その度に見つかる新たな課題(地方と都市部のデジタル格差や女性起業家育成など)の解決に取り組んできました。そしてついに自身の原点となったインドで、子どもたちを支援するNPOの設立へと至ります。「22歳から25歳の私は1ミリも変えられなかったけれども、35年かけて、やっと私が生きていることが世界にちょっとだけ影響したんじゃないかなという実感を持ちました」と、振り返りました。

ハッカソンという場は、誰も見つけていなかった課題に気づき、その解決に取り組む機会であるとも言えます。新しい課題に取り組む不安、困難はあるでしょう。奥田さんは、未知の領域に踏み出す不安を「グラグラ」と表現しつつ、同時に片方の足を「ワクワク」する領域に着いておこうと語ります。ワクワクする領域というのは、自身が何を大切にするのかという価値観です。それぞれが大切だと思う価値観を軸にして挑戦してほしい、そして、だれもが同じ価値観に立つ必要はなく、「多様性を認め合いながらの協調」を大切にしてほしいと強調しました。

さらに、ハッカソンの参加者に向けて、プロダクト開発において重要なことを「三つのWhy」と「喜怒哀楽を差別しない」という点からもお話いただきました。

「三つのWhy」とは、「なぜこれをするのか」「なぜあなたがやるのか」「なぜ今やるのか」のWhyです。特に「なぜ今やるのか」はプロダクト開発において重要です。技術進歩や社会変化により、過去にできなかったことが今ならできる可能性があるからです。「なぜ今やるのか」を突き詰めることで、「自分の価値をその時代に活かす」ことが可能となります。

また、「喜怒哀楽を差別しない」の背景として、怒りや悲しみも大切な感情として受け取ってほしいと説明します。例えば、社会の不平等に対する怒りや、取り残される人々への悲しみが、新たなプロジェクトや挑戦のきっかけになります。「負の感情を隠すと、やりたいことが見えなくなる。仲間も作れない」と指摘します。 各メンバーがそれぞれの価値観に基づいて感じる様々な感情、特に社会課題に対する怒りや悲しみさえも、オープンに話し合える環境を作ることを勧めていました。そうした率直な対話を通じて互いに影響し合いながら、革新的なサービスを生み出していってほしいと語りかけました。

最後に、マハトマ・ガンジーの「あなたが見たいと思う世界の変化に、あなた自身がなりなさい」という言葉で講演は締めくくられました。講演の後、現地での視聴者からは感嘆の声が聞こえてきました。参加者の一人ひとりが未来を創る担い手になる、そんな可能性を感じさせるお話でした。

三名によるパネルディスカッション

続いて行われたパネルディスカッションでは、奥田さんに加え、同じく審査委員である井原さん、戸倉さんが登壇しました。

まずは基調講演でも印象的だった「喜怒哀楽を差別しない」という奥田さんのメッセージに関連し、三人には「今の東京に対して、どの感情が一番強く湧き上がりますか?」という問いが投げかけられました。

戸倉さん

戸倉さんは東京に対して「喜びと楽しみ」を感じると言います。世界的な評価の高さや、多様な人々が集まる環境から生まれる可能性など、これらを見ていると、やれることがたくさんあって楽しみだという思いを伝えました。

一方、奥田さんは「悲しみ」の感情を抱いているとのこと。東京の発展と同時に広がる地方との格差について触れ、生まれ育った故郷を思ったときに悲しみを覚えると述べました。日本全国だけでなく、地球という規模で何かできることはないのだろうかという思いを話されました。

井原さんは、二つの側面から感情を抱えていると明かします。2024年5月に民間企業からGovTech東京に赴任した際、行政のデジタル化には多くの課題があるということがわかり、「なぜこうなっているのだ」という感情が沸き起こったと言います。しかしだからこそ、それらに積極的に取り組むことで大きな進歩が見込めるだろうという前向きな感情も併せ持っていると語りました。特に、シビックテックとともに課題解決に取り組むことで、「東京を変え、さらに日本全国をも変えていけると思う」と語り、デジタルを通した改革に対しての強い意欲と希望をにじませました。

井原さん

こうして見えてきた三者三様の東京の姿。確かに、喜怒哀楽を差別せず、あらゆる感情をオープンに話しあうことで、さまざまな角度での東京が浮かびあがったようです。

続いて、今年度初めて都知事杯オープンデータ・ハッカソンの審査委員を務める井原さんに、ハッカソンにかける期待について質問が及びました。

長らく民間企業のエンジニアとして活躍してきた井原さんはシビックテックには「瞬発力」がある、と感じるのだそうです。対して行政は安定的に運用する「継続性」がある、とも話します。この瞬発力と継続性を組み合わせることで、より持続可能で革新的な解決策が生まれる可能性があると指摘します。

「シビックテックが作ったものが行政で運用されるという世界が必ず来ると思う。だからこそ、ぜひ運用を見据えてハッカソンに取り組んでほしい」、そう呼びかけました。この力強い言葉を聞いた参加者たちは、自分たちの作ったプロダクトの具体的な未来像を描けたのではないでしょうか。

では、運用レベルまでのプロダクトを作るために、どのようなチームワークが必要なのでしょうか。ここで、「チームメンバーとどうやってうまくやっていくか、あるいは新しいメンバーを加えてうまくやっていくにはどうすればいいでしょうか?」という具体的な質問が寄せられました。

戸倉さん

戸倉さんは、異なる背景を持つメンバー間での対話の大切さを説きます。「言語化していろんなコミュニケーションをやってみると意外とバイアスがかかっていたんじゃないかなって気づきが得られたりする」と言い、積極的な意見交換が必要とお話しました。

井原さんからは、「うまくいかないと思ったらチームを変えてみるなど、柔軟な姿勢でも良いのでは」という意見も聞かれました。その背景として「同じ課題意識を持つ仲間と集まり、共通の目標に向かって取り組む」ことが大切で、チームの相性や方向性が合わない場合は無理をせず、別の道を探ることも選択肢の一つだと思うからだと語りました。

この意見に、奥田さんも深く同意した様子です。さらに詳しい見解として、「腹の底からそれを本当にやりたいことなのか」という点での一致が重要だとも話します。その上で、もし異なる意見が出たとしても、その相違をネガティブに捉えるのはなく、肯定的に受け取る必要性があると説きました。また、「自分しかその課題に気づいていないのであれば、1人でも走り切りましょう」と話し、個人で参加されている方にもエールを送りました。

奥田さん

パネルディスカッションは、東京に対する感情から始まり、チームワークの在り方へと話題が展開していきました。そして、ハッカソンの成果を実際の行政サービスにつなげるという視点から、より具体的な変革への期待や、それを実現するための取り組みについての議論へと深まっていきました。

「ご自身の周りで、変わった、あるいは変えたいことはありますか」という質問に対し、井原さんと戸倉さんから興味深い回答がありました。

井原さんは、行政のデジタルサービスの在り方を大きく変えたいと語りました。行政デジタルサービスの内製化とオープンソース化(あるいはインナーソース化)を目指すことで、同じサービスを何度も作り直す無駄を省き、開発コストを大幅に削減できると説明しました。

井原さん

「僕は行政側から再利用可能なデジタル公共財を増やしていきます。だから皆さんは、シビックテック側から再利用可能なデジタル公共財を増やしていってほしいのです」と、官民一体となった取り組みの重要性を強調しました。

一方、戸倉さんは、デジタル技術への取り組み方の変化に注目していました。コードを書く人だけでなく、書かない人や学生も含めて、多くの人々が「まずやってみる」という姿勢でデジタル技術に挑戦するようになってきていると述べました。特に、生成AIによるコード生成技術の発展により、プログラミング初心者でも様々な試みができるようになったことを評価。こうした小さな成功体験の積み重ねが重要だと述べ、それらを大切にしながら挑戦を続けることを推奨しました。

このほかにも、参加者からは様々な質問が寄せられ、三名の登壇者はそれぞれの経験と知見を活かした回答を提供しました。全ての質問をここで紹介することはできませんが、議論全体を通じて、オープンデータの活用、行政とシビックテックの協働、そして技術の民主化という大きなテーマが浮かび上がりました。

都知事杯オープンデータ・ハッカソン 2024のキックオフは、参加者たちに多くの気づきと刺激を与え、これからの挑戦への勇気と希望を感じさせるものとなりました。参加者たちは自分たちの取り組みが東京、そして日本の未来を形作る重要な一歩になるかもしれないという実感を得たのではないでしょうか。


Final Stageのお知らせ

都知事杯オープンデータ・ハッカソン2024のFinal Stageが、いよいよ10月26日に開催されます。First Stageで選出された24チームによるプレゼンテーションと審査を経て、ついに都知事杯を含む9つの賞の受賞が決まります。YouTubeでのライブ配信を予定しており視聴者にはオーディエンス賞を選ぶ投票にご参加いただけますので、ぜひ奮ってご参加ください!