アイデアソン Day.1レポート - デザイナー視点でのオープンデータ活用 -
前日に開催されたキックオフでの盛り上がりの余韻が残る中、都知事杯オープンデータ・ハッカソン2024のアイデアソン Day.1が8月3日に開催されました。
アイデアソン1回目のテーマは、「オープンデータを活用したサービス開発」です。第一部では、株式会社MIERUNEのデザイナー加藤 創さんをお招きし、現代の地図デザインで歴史地図を閲覧できるサービス「れきちず」についてお話いただきました。第二部では、参加者全員で、頭のなかにある希望や期待を具体的な提案に落とし込むワークショップを催しました。
SNSでも大人気の「れきちず」開発秘話、そして参加者によるアイデアワーク。アイデアソン第一弾の様子をレポートでお届けします。
第一部:「れきちず」デザイナー加藤氏による講演
発表当時から話題を呼んだサービス「れきちず」ですが、もともと加藤さんは個人で開発していたと言います。この素晴らしいサービスが生まれた背景や開発後の変化など、順を追って解説いただきました。
加藤さんは、元々東京のデザイン会社に勤務しながら、個人的な興味から地図や路線図をモチーフにした作品をSNSに投稿していました。電力系統図を路線図風にしたものや、地下鉄の乗降客数を円の大きさで可視化したものなど、独自の視点で次々と作品を発表し、注目を集めていたようです。
そんな中、現在の勤め先である株式会社MIERUNEから位置情報系カンファレンスでの登壇依頼を受けたことをきっかけに転職。その後、全国の文化財をウェブ地図で閲覧できる「文化財総覧WebGIS」のデザイン再設計など、様々なプロジェクトに携わりました。
その後、どのように「れきちず」が生まれたのでしょうか。そもそもの始まりは、加藤さんが趣味で取り組んだ「江戸時代のGoogle Maps風の地図」をSNSに投稿したことから始まりました。この投稿への反響が非常に大きく、それをきっかけに、歴史地図「れきちず」の制作に取り組むことを決意したのです。
「れきちず」の特徴は、現代の地図デザインを用いて歴史的な地理情報を表現している点です。オープンソースのGISソフトウェア「QGIS」を活用し、江戸時代、明治時代、現代の地図を参考に、手作業で道路や海岸線を描画しています。地点情報は当時の地図や文献を元にプロットし、時代感を出すためのオリジナルアイコンも作成しました。さらに、オープンソースの地図表示ライブラリ「Maplibre」を用いてWeb地図化し、誰もがブラウザで閲覧できるようにしました。
より発展をさせるためにはエンジニアの技術力が必要だと感じた加藤さんは、個人で行っていた「れきちず」をプロジェクトとして会社に移管することを決めます。その結果、3D表現の追加や人文学オープンデータ共同利用センターとの連携が進み、より詳細で学術的な情報を搭載することが可能になりました。さらに、「れきちず」自体もCC BY-NC-ND 4.0ライセンスでオープン化され、非商用に限り自由に利用できるようになりました。
加藤さんは、オープンなコミュニティ、オープンデータ、オープンなツール、この3つの「オープン」との出会いが自身の人生を大きく変えたと語ります。1人では限界があった制作の幅が、様々な能力を持つ人々と協力することで大きく広がったと実感しているそうです。
そして、「みなさん、ハッカソンをはじめていきましょう!」という力強い言葉で講演を締めくくりました。
加藤さんのお話から、オープンな場やオープンデータは、個人の創造性を拡げるだけでなく、キャリアの可能性を広げる強力な手段となりえることがわかりました。個人の興味をもとに次々と繰り出される魅力的なサービス、ひとりの力がここまで広がりを見せる可能性を、「れきちず」の軌跡が示してくれています。都知事杯オープンデータ・ハッカソンにおいての参加者の挑戦がどのような形で広がるのか、非常に楽しみとなる講演でした。
Q&Aセッション
質疑応答の時間になると、加藤さんに参加者から多くの質問が寄せられました。
まずは、「地図制作にどのくらいの時間がかかったのですか?」という質問から。講演でも地図の描画について触れる場面がありましたが、実際の制作過程に皆さん興味津々のようです。加藤さんは「約1年かかりました。既存のデータも活用しましたが、手作業での作業も多くありました」と回答しました。デザイナーとしての経験を活かしつつも、膨大なデータを整理し、視覚化する作業には想像以上の時間と努力が必要だったことがうかがえました。「現代の伊能忠敬」とモデレーターがコメントしていましたが、まさにぴったりの表現ですね。
では、個人の取り組みを会社のプロジェクトとして移行する際、課題や交渉はどのように進んだのでしょう。珍しい事例ですが、スムーズに進んだのでしょうか。これに対し加藤さんは次のように説明しました。「自分ひとりの力ではより進化させられないので、社内にいるエンジニアの力を借りたいという思いがありました。会社としても、PRになるし、社員の活動をサポートしたいという思いがあったようで、両者ウィンウィンな形で社内プロジェクトにしてもらえました。」お互いの信頼と理解があったからこそ、良い形で進んだようです。
加藤さんが生み出すサービスは、個人で取り組まれたものも含め、驚くほどの完成度を誇ります。これほどの時間と熱量を注ぐ背景には、地図への並々ならぬ愛着があるはずです。その源泉を尋ねられた加藤さんは、「地図は現実世界を取捨選択して映している」と答え、現実世界の縮図としての地図に魅力を感じていると説明しました。加藤さんが地図を単なる情報の可視化ツールとしてではなく、世界の本質を捉える媒体として捉えていることがわかります。情熱を持って取り組む背景には、地図を通じて見えてくる「その先の世界」があるのかもしれません。
さて、都知事杯オープンデータ・ハッカソンには、エンジニアだけでなく、デザイナーも多く参加しています。デザイナーとしての心構えについて質問が及ぶと、加藤さんは、ただ見た目を良くすることだけがデザイナーの仕事ではないと強調しました。使う人のことを第一に考え、誰にとっても使いやすいものを作ることが重要だと語りました。デザインとは、機能性と美しさを融合させ、ユーザーの体験を豊かにする重要な役割です。加藤さんの言葉で、デザインの本質的な価値を再認識できました。
質疑応答の締めくくりに、加藤さんは参加者たちに向けて次のようにアドバイスしました。「自分が興味を持ち、作って楽しいと感じるものを作ることが大切です。そして、それをオープンに共有することで、思わぬ展開が待っているかもしれません。」
講演と質疑応答を通じて、ハッカソンに参加されるみなさまにとって、自身のアイデアを追求する勇気と創造性を刺激する回になったのではないでしょうか。個人の趣味や関心からスタートしたプロジェクトが大きな成果につながる可能性を学びました。
第二部:アイデアワーク
加藤さんの講演、Q&Aセッションのあとは、現地・オンラインの参加者全員でアイデアワークに取り組みました。
頭に浮かんだキーワードの書き出しから始まり、個人の「願い」の明確化、その実現時期の想像、願いが叶った際の状況の具体化、そしてその際のセリフの想像まで、5つのステップを通じてアイデアを深めていきました。
第一部の講演の知見を活かしながら、参加者独自の発想が次々と生まれる実践的なワークショップとなりました。このアイデアワークは、アイデアソンDay4でも開催しました。後日レポートで詳しくお伝えします。
Final Stage 審査結果のお知らせ
都知事杯オープンデータ・ハッカソン2024のFinal Stageが、10月26日に開催されました。First Stageで選出された24チームによるプレゼンテーションと最終審査を経て、都知事杯を含む9つの賞の受賞が決定しました。
受賞者とその作品の詳細については、公式サイトにて公開しております。
また、当日の様子は、以下のYouTubeアーカイブ配信でもご覧いただけます。