議事録に関する雑感

コンサルティングファームのジュニアワークの一つに議事録づくりがある。(そしておそらく多くの大企業でも同様であると思われる。)この議事録の作成であるが個人的には多くの場合、作業としては不要ないしは極めて非効率なものだと考えているため自分が一緒に働くジュニアに対してはあまり作ることは求めないようにしている。マネージャーやプリンシパル、あるいはパートナーが思考停止したまま「とりあえず議事録を作っておいて」みたいにチームにお願いすることも多い印象である。

しかし実際にはちゃんとした議事録を書くには相応の時間がかかる。そのためチームに依頼する側の人間は常にそれがなぜ必要なのか、を考えるべきである。ただし構造化した議事録を作ること自体は論点を明確にし、物事を構造化するためのいいトレーニングになることは間違いないため、ジュニアな人はまずはしっかりとした議事録は書けるようになる必要がある。

私自身は打ち合わせやヒアリングの内容と目的に応じてメモの種類を使い分けることが大事であると思っている。そこで以下ではその種類と使い分けについて述べていきたい。

一つ目は「しっかりした議事録」である。これは議事録そのものがクライアントに対する納品物になるような場合である。このときは最高品質の議事録が必要である。ただし私自身はクライアントから議事録を納品物として求められても必要性を感じなければその旨を伝えてより付加価値の高いアウトプットに時間を使うことを提案する。典型的なものはクライアント企業との報告会の議事録などはほぼ不要であると私は考えている。逆にクライアント企業では実施できない有識者などへのヒアリングなどは納品物の一つになり得る。ただし有識者ヒアリングも全てを納品物にする必要性は私はないと考えており、その大半は後述の方法で記録するので十分であると考えている。

ここで述べる「しっかりした議事録」には少なくとも、目的、出席者・日時・場所、要旨、詳細が記載されている必要がある。(いうまでもなく議事録の大半が「詳細」の節となる。)このとき意識するべきは議事録は決して有識者が発言した順に記録するのではなく、目的に沿って構造化し直す必要がある。必ず下位の階層が上位の階層をサポートし、かつ上位の階層は階層の要約ではなく上位概念となっている必要がある(SummaryではなくSynthesisになっている必要がある)。そして要旨には詳細の最上位階層の文が並んで、それを読めばヒアリングの概要が把握できるようになっている必要がある。多少ファームによって流儀は異なるが、私が知る限り大半の戦略コンサルティングファームではこのような形式になっている。個人的な感覚としては1時間のヒアリングを「しっかりした議事録」に落とすにはどんなに早くても30分、大抵は1-2時間くらい掛かる。(だからこそいいトレーニングにもなるし一方で無意味にやると莫大な時間が取られるため、厳選しなければならないのである。)

二つ目は重要な要素のみを記録するパターンである。これは社内のみで共有される場合の大半はこれで十分だと考えている。これはクライアント企業との報告会やシニアエグゼクティブとの議論を記録する場合である。このような打ち合わせにおいては大抵、シニアエグゼクティブの発言は幾つかの考えに基づいているため、発言を一言一句記録するのではなく、この考え方を捉えて記録することが大事となる。これであれば1時間の打ち合わせであればせいぜい数行で終わるはずである。加えて合意事項などを数行でまとめ、最終的には7-8行の議事録となる。これであれば15分もあればできるはずである。「はずである」と書いたのはジュニアであると案外このシニアエグゼクティブの考えをつかむのは案外簡単なことではないためである。そのため分量は少なくともしっかりと考える必要はあるのである。

三つ目は情報の記録型である。これは納品物には用いられない有識者ヒアリングの議事録で多い。プロジェクトによっては有識者ヒアリングを何件も実施し、その度に「しっかりした議事録」を書いていたらキリがないことが多い。そのような場合は、私はこの情報記録型を用いる。具体的にはヒアリングの最中はとにかくメモをとりそれは記録をする。(従い電子フォーマットの方が望ましい。)加えてそのヒアリングを通じて知りたかった重要論点に関わる点のみは清書して記録するような形である。もしも詳細を知りたい場合は生のメモを見る形とする。このような場合はヒアリング実施前に論点が既にはっきりしており、またはっきりしているべきなため(もちろん考えが及んでいなかった重要論点がヒアリングを通じて浮かび上がる場合もある)、かなり定型化しやすい。例えばある製品の購買の実態を知りたい場合は、購買担当者に「購買決定要因の順位、サプライヤスイッチングの頻度、価格改定の頻度、担当者から見た競争力のあるサプライヤ」といった点をヒアリングすることになるため、比較的デジタルに記録しやすい。このような論点をデジタルに記録し、それぞれにその定性コメントを少し加えればそれで事足りることが多い。

色々と書いたが重要なのはマネージャー以上は「とりあえず議事録」といった思考停止に陥らずに、その目的に沿って議事録の形式を選択するべきなのである。一方で議事録を書くようになったらジュニアワークとはいえ論点や構造化などをしっかりと意識をして書くべきなのである。これは「いい筋トレ」にはなるのである。

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