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空間デザイナー 竹内美保 -TDP生のストーリーマガジン com-plex vol.13-

デザインだけではない、これまでの経験が活きていく。そんな東京デザインプレックス研究所の修了生を追ったストーリーテリングマガジン「com-plex」。

今回ご紹介するのは、VELVETA DESIGN(ベルベッタ・デザイン)で空間デザイナーとして活躍する竹内美保さんです。竹内さんは善光寺イルミネーション(長野県)や渋谷ファッションウイークでのアートワークなど、とくに光を駆使した空間デザインのお仕事に数多く携わってきました。今回は、竹内さんにインスタレーションの魅力や担当したプロジェクトなどについて、お話を伺いました。




空間の歴史をひも解く

VELVETA DESIGN 空間デザイナー 竹内美保さん

——ベルベッタ・デザインでの仕事について教えてください。

設立当初から掲げる「空気をデザインする」というコンセプトのもと、インスタレーションなどの空間演出や商業施設のシーズンプロモーション、店舗内装からファッションイベントでの展示作品まで、空間に関するデザインを幅広く手がけています。

——「空気をデザインする」とは、ベルベッタ・デザインの創設者・長谷川喜美さんの想いでもありますよね?

そうですね。長谷川が空間デザイナーを志したきっかけは、アンリ・マティスが手がけた「ロザリオ礼拝堂」(フランス・ヴァンス)での体験だったそうです。小さな教会に日の光が差し込んだとき、ステンドグラスの模様が床に広がり、それを見た人が感動して声をあげる。その光景はまさに「空間が変容する」瞬間だったといいます。それが彼女の原体験となり、「空気をデザインする」というベルベッタ・デザインのコンセプトに受け継がれました。

——ベルベッタ・デザインでは、どのように空間デザインを手がけていますか?

空間づくりにおける企画からディレクション、デザイン、プロジェクトマネジメント、施工を含むチーム編成まで、一貫して携わることがほとんどです。企画はコンセプトの構築から始まり、具体的な空間デザインへと進行していきます。図面や3DCGなどを活用してデザインを検証し、描き起こしたパース画像も用いながらクライアントや協力会社と完成イメージを共有します。光や音を使った演出ショーを行う場合には、パース画像だけでなくタイムラインの分かる資料も作成します。コンセプトや具体的なデザインが確定すれば、デザイン監修者として施工現場に立ち会います。現地でバランスを見ながら造作物の位置を微調整したり、照明・音響チームとともに演出シーンを仕上げていったりします。私たちが思い描く空間を細かいところまで表現していく作業になります。

——コンセプトの構築に関して、具体的な進め方を教えてください。

インスタレーションは空間を用いたものなので、その場所、その空間で開催する意味を大切にしています。そのため、自分たちの作品を生み出すというよりは、その空間の持つ美しさを目的にあわせて最大限に引き出すような仕事になりますね。たとえば、2018年から2022年まで開催された「NAGANO DESIGN WEEK 善光寺イルミネーション」では、仏教の花である蓮をメインモチーフに「極楽浄土」の世界観をイメージした空間をデザインしました。これまでの歴史があってこそ、その空間は存在しています。空間の歴史や特徴をひも解きながら、コンセプトを構築していきます。

善光寺イルミネーション「開花 -Blooming Moment-」(2018年)

——コンセプトを考える際、意識しているポイントはありますか?

クライアントの想いをもとに、見る人にきちんと伝わるものをつくること。そして、「読後感」ですね。本を読んだあとに生まれる、あの感覚を味わってもらうことを意識しています。物語を感じる、わかりやすい表現を心がけながら、見る人によって解釈を楽しんでもらえるような余白を大事にしています。

——デザインした空間は最終段階でなければ見ることができないと思います。その点は、どのようにクライアントとイメージを共有していますか?

おっしゃる通り、クライアントへは最終段階でしか現物を見せることができないので、いかに想像してもらえるかが鍵になります。実際に使用する装飾のサンプルを用意したり、ときには模型を作成したり、クライアントとの間に齟齬が生まれないように進めています。完成したときに感動が生まれるように、丁寧に共有していますね。

——最終段階である設営では、どのような工程を踏みますか?

大規模なインスタレーションでは、開催の5日前には設営を開始しています。照明の調整は主に夜間に行うのですが、善光寺イルミネーションのときは真冬の開催だったため、みんな凍えながら調整していましたね(笑)。設営後はクライアントチェックも含めた最終調整を行い、その工程を経て一般公開となります。

善光寺イルミネーション「平和の光」(2022年)


空間が変容するさま

——竹内さんが考える、インスタレーションの魅力を教えてください。

空間が変容するさまを見ることができるのが魅力だと思います。たとえば、善光寺でのインスタレーションは近隣住民の方も観に来てくださいました。もちろん、普段の景色にも魅力がありますが、いつもの善光寺とはまったく違った姿をみて、すごく喜んでくださいましたね。お客さまの表情も含め、普段から目にしている場所の空気がガラッと変わる瞬間にいつもおもしろさを感じるんです。

——一方で、インスタレーションの難しさは何だと思いますか?

空間づくりは実現可能性を考慮しながらデザインする必要がある中で、特に色彩の表現は試行錯誤します。イメージ図の段階ではRGBで自由に色を変えることができますが、実際の環境や条件で簡単に求める色が出るとは限りませんから。あとは安全性を考慮することも忘れてはなりません。

——インスタレーションの仕事はイルミネーション関連を含めて、やはり冬の展示が多いのでしょうか?

比率としては冬が多いですね。空気の乾燥した寒い時期に、最も光が綺麗に見えるからだと思います。一方で、春や夏などの暖かい季節に開催することもあります。2020年の春には「渋谷ファッションウイーク2020」で、アーティストの松尾高弘さんとのコラボレーション作品を展示しました。インスタレーションだけでなく商空間デザインの仕事も多く、例えば京都の仏壇仏具店は、店舗内装のリニューアルデザインだけでなく、ファサードのデザインも行っています。

アーティストの松尾高弘氏とコラボレーションした
渋谷ファッションウイーク2020のインスタレーション作品「
Re-Blooming」
 店舗内装のリニューアルからファサードのデザインまで手がけた「若林佛具製作所 本店」


入社早々、海外へ

グローボールコンセプトと共同開発したイルミネーションプロダクト

——竹内さんの印象深い仕事はありますか?

入社当初から現在も続いているのですが、ベルギーを拠点としてイルミネーション関連のプロダクト開発を手掛ける企業「Globall concept(グローボールコンセプト)」とのプロジェクトは印象に残っています。プロジェクトでは、私たちが外部デザイナーとしてプロダクトデザインを担当しました。クリスマスのオブジェやオーナメントなど、いくつかのシリーズ構成のデザインを手がけました。

——ベルベッタ・デザインは、海外企業とも取引があるのですね。

グローボールコンセプトとのプロジェクトは、国際見本市「クリスマスワールド2018」(ドイツ・フランクフルト)での交流がきっかけだったそうです。その翌月には、実際にベルギーで商談を行うことになるのですが、「ちょっと海外出張に一緒に行ってくれない?」と長谷川に誘われ、当時入社したばかりの私もベルギーへ行くことになりました。社内に英語でコミュニケーションを取れる人が私しかおらず、通訳も兼ねての抜擢でした。

——入社後すぐに海外企業との仕事とは、とても刺激的な経験ですね! 当時、竹内さんはどのような仕事を担当していましたか?

スケジュール管理や窓口担当など、主にプロジェクトマネジメントを担っていました。今ではプロジェクト担当者としてデザインにも携わっており、昨年もベルギーまで打ち合わせに行ってきました。入社当初から携わっている仕事ですので、今後も継続していければ嬉しいですね。

——海外企業との仕事を通じて、何か学びはありましたか?

何もわからない中で始まったプロジェクトでしたが、やってみると自分が思っていたよりうまく進行することができました。また、仕事の幅を広げる一歩にもなったと思います。ベルベッタ・デザインはインスタレーションを強みにする会社ではありますが、それだけではなく、空間に関わるあらゆるデザインを幅広く手がけています。海外企業とのイルミネーションプロダクトの開発は、私のファーストキャリアとして、今にも活きる良い経験になりました。

グローボールコンセプトと共同開発したプロダクトを使用した
グランフロント大阪でのインスタレーション作品「GRAND WISH CHRISTMAS 2019」


空間デザインに興味を持って

——竹内さんがインスタレーションに興味を持った理由を教えてください。

大学では美術史を専攻しており、主に現代アートの研究に取り組んでいました。現代アートでは空間を使った作品も多く、それがインスタレーションに興味を持ったきっかけになりました。もっとさかのぼると、高校生の頃に行った美術展もきっかけの一つですね。その美術展では魅力的な空間づくりの工夫が施してありました。凝った装飾があるわけではなく、照明や香りなどの要素でつくりあげられた空間でした。そのとき、空間をデザインする仕事もあるんだなと興味を持ちましたね。

——それらの経験が、クリエイティブ業界を目指したきっかけになったのですね。

そうですね。でも、大学卒業後はアパレル企業に入社しました。アパレル企業でもVMDという立場から空間づくりを担当できる可能性があると思ったからです。しかし入社してみると、そのポジションまでの道のりは遠く、どうしても時間がかかってしまうと知りました。だったら、その時間をデザインの勉強に費やしてみようと考え、思い切って会社を退職して、TDPの空間コンテンポラリーデザイン専攻に入学することにしました。

——TDPを選んだ理由を聞かせてください。

専門学校で2年を費やすのか、それともTDPで実践的な学びに1年を費やすのか。自分にとって必要なものを考えたときに、ぎゅっとコンパクトに必要なことだけを学べるTDPを選びました。入学後は、課題が多かったと記憶しています。たとえば、インテリアの授業でマンションの一室をリノベーションするという課題がありました。クライアントを設定して、コンセプトを考えて、図面を引いて、プレゼンまで行う。やることが多く大変でしたが、楽しい時間でしたね。

——TDPで学んでみてどうでしたか?

いろいろな課題に向き合ってみて、形のデザインをすることよりも、コンセプトを考えることが好きだということに気づきました。授業を受けても、デザイン制作をしても、結局は根っこの部分を考えることに楽しさを感じました。デザインを学ぶなかで、自分の強みや好きなことに気づけた1年でしたね。

——TDPでの経験が今に活きていることはありますか?

製図などの実務的なスキルだけではなく、チームとしての働き方を実践的に学べたことが今に活きています。TDPでは授業カリキュラム以外に、他専攻の人たちとユニットを組んで、産学連携などのコンペに参加する機会もありました。そこではグラフィックデザインや空間デザイン、Webデザインなど、違うスキルを持った生徒が集まり、一つのものをつくり上げていきます。異なる得意分野を持つメンバーが、どのように動けばチームのパフォーマンスが向上するのか。自分はどの役割を担うべきなのか。組織としての役割を考える力は、今にも活きていると感じています。


記憶に残るような作品

——今後の展望を聞かせてください。

いいものをつくり続けていきたいですね。インスタレーションはお客さまの手元に残るものではなく、目で見て、耳で聞いて、記憶に残していくものです。それはかけがえのない思い出になるはず。自分たちの作品が、どこかで誰かの記憶に残ってくれたら嬉しいですね。

また、時間を重ねるごとに組織も自分も変化していく中で、新しいことに挑戦する機会は増えていくと思います。そんな中でも、目の前にあるデザインワークひとつひとつと真面目に向き合い続けることを大切にしていきたいです。

——最後にTDPへの入学を検討している方にコメントをお願いします。

私はTDPで楽しく学べた経験や思い出があるから、今の仕事にも楽しみながら向き合えています。いろんな体験を通じて楽しく学ぶことができれば、その先のキャリアにもつながるはずです。忙しくても大変でも、楽しむ気持ちを忘れなければ、きっとその体験が未来の自分を助けてくれるはずです。

——竹内さん、本日はありがとうございました。



今回のインタビューでは、インスタレーションの魅力や担当したプロジェクトなどについて、竹内さんに伺いました。

空間デザイナーとして、さまざまなインスタレーションをはじめとした空間デザインを手がけてきた竹内さん。TDP在学時に気づいた、自分の強みを活かした働き方は、現在の空間デザインのお仕事につながっていると感じました。今後の竹内さんの活躍に期待したいですね。

次回も、今まさに現場で活躍しているTDP修了生にお話を伺っていきたいと思います。

◇VELVETA DESIGN
 Webサイト:https://www.velveta.jp/
 Instagram:@velveta_design
 Facebook:https://www.facebook.com/velveta.design/


[取材・文]岡部悟志(TDP修了生)、土屋真子
[写真]前田智広