プロダクトデザイナー 廣田奈緒美・木下里佳子 -TDP生のストーリーマガジン【com-plex】 Vol.19 前編
デザインだけではない、これまでの経験が活きていく。そんな東京デザインプレックス研究所の修了生を追ったストーリーテリングマガジン「com-plex」。
今回ご紹介するのは、プロダクトデザイナーとして活躍する廣田奈緒美さんと、木下里佳子さんです。廣田さんと木下さんは株式会社ユーザベースにて、SaaSのプロダクトデザインに携わっています。2022年にはお二人が携わった「INITIAL(現、スピーダ スタートアップ情報リサーチ)」がグッドデザイン賞を受賞しました。今回は廣田さんと木下さんにこれまでのキャリアや仕事のやりがい、グッドデザイン賞受賞の背景、TDPでの学びなどについてお話を伺いました。インタビューの様子を前後編に分けてお届けします。
※INITIALは、2024年7月1日に「スピーダ スタートアップ情報リサーチ」に名称を変更しました。
身近なユーザーに貢献できるプロダクトを
――お二人の仕事について聞かせてください。
廣田:株式会社ユーザベースの法人向けサービスのプロダクトデザインを担当しています。私は2015年入社、木下さんは2022年に入社し、現在は2人とも同じプロダクトを担当しています。現事業部の中で元々いくつかあったプロダクトをひとつのプロダクト群として、今年の7月にリブランディングしました。それと連動して、プロダクトを横断したプロジェクトにも携わるようになりました。
――担当されたプロダクトについて詳しく教えてください。
廣田:メインで「スピーダ スタートアップ情報リサーチ」のデザインを手掛けています。このプロダクトがグッドデザイン賞を取った2022年当時は、「INITIAL(イニシャル)」という名前でした。このプロダクトは、スタートアップの企業情報を、我々独自のチームで収集・構造化し、VC(ベンチャーキャピタル)や事業会社の経営企画・新規事業部の方々など、必要としている人に届けるサービスです。
企業情報と言っても様々で、名前や事業内容だけでなく、株主や資金調達金などのファイナンスの情報、類似企業や関連ニュースなど、あらゆる情報を網羅しています。さらにその情報を様々な角度から検索することができます。
木下:私たちは機能とデザインシステムの改善を行っています。プロダクトの数だけデザインシステムがありますが、今回は3つのプロダクトがリブランディングによってひとつになったため、デザインシステムもひとつにまとめることになりました。ユーザーに対して統一された操作性と体験を提供し、認知負荷の軽減や生産性の向上を目指しています。
――お仕事のやりがいを教えてください。
廣田:BtoCの場合は、たくさんの人がサービスやプロダクトを使ってくれるのが魅力ですよね。対してBtoBは、契約してくれる法人がいて、そこに所属している方々が使ってくれる。ユーザー数としては爆発的に多くはありませんが、どこの企業の誰が使っているかが明確にわかるので、ユーザーさんをすごく身近に感じるし、その方々に貢献できているという実感が湧きます。名前が浮かぶユーザーさんを想像しながらデザインができ、直接意見も聞けるので反応もわかりやすく、そこがおもしろいなと思いますね。
さらに、その方々の助けになるプロダクトを作っているということは、その会社の先にいる方々へ良い影響を与えることにも繋がっていきます。
木下:私たちのサービスって、あまり馴染みがないですよね。BtoBのサービスなんですけど、BtoCサービスの方がわかりやすくて人気なのではないかと思っています。でも私は自分のチームの人が喜んでくれたりとか、チームのみんなで考え抜いた機能が良い成果を上げたりすることが嬉しくて、そこにやりがいを感じます。一人ではなく、誰かと一緒に働くのが好きなんです。
廣田:あとは、業務改善や効率化につながるプロダクトを作っているので、働きやすくなる人が増えることもいいなと思います。今まで長い時間をかけていた作業が短時間で終わり、新しい時間が作れる。そういうおもしろさ、やりがいもありますね。
――プロダクト改善のアイデアはどのように思いつきますか?
廣田:改善のアイデアは多くの人たちから寄せられます。ユーザーさんからの意見や要望を吸い上げる仕組みがありますし、同僚との雑談の中で「○○さんがこんなもの欲しいって言っていたよ」といった話を聞くこともありますね。デザインのアイデアでいうと、デザイン組織の中には様々な経験、バックグラウンドを持つ人たちがいるので、そこで知恵を出し合うこともあります。そういったアイデアたちに優先順位をつけて片付けていくのに困るほど、日々たくさんのアイデアで溢れているんです。
さらに先ほどもお話ししたように、今はひとつのプロダクト群として、一貫した世界観とUIをユーザーに届けるために試行錯誤しているフェーズです。そこに、これまでの良い失敗がたくさん持ち寄られているので、いいアイデアが出やすい環境になっているのかもしれません。
課題解決を自分の手で
――お仕事で苦労した点と、それを乗り越えた方法を教えてください。
廣田:あんまり苦労したと感じたことがなくて……。というのも、振り返ってみると全部今に活きているな、と思うことなんですよね。強いていうなら、デザイナーの評価、成長支援、フィードバックの貰い方や受け取り方を考えるのが、プロダクト作りよりも大変だなと感じます。デザイナーはその成果を定量化しにくい職種だと思うんですよね。また、チームで動くので一人だけの成果でもない。会社の制度の中でデザイナーをどう評価すればいいのかを考える必要があって、それが大変だなと今でも思います。
ーーデザイナーの評価基準はどのように決められているのでしょうか?
廣田:ユーザベースには3つの評価軸があります。ユーザベースらしい働き方をしているかという「Value」。プロジェクトを前に進める実行力と、組織のことを考えられているかという「Execution」。職種に応じたスキルがあるかという「Edge」。どの項目も言葉で定義されていますが、定義するのも私たちなんです。世の中のデザイナー全てに適用できるものではないけど、ユーザベースで働く上ではとても大切なことがまとめられています。
木下:私は2022年9月に入社してすぐに評価制度に課題を感じたのですが、入社3ヶ月の時期に周りから改善プロジェクトに入ってみたらどうかと勧めてもらいました。自分で課題に感じていたことを改善して、解決することができたんです。入って間もないとか、経歴とか関係なく、Willがある人に挑戦を与えてくれるのがとてもいいなと思いました。
廣田:ユーザベースには会社自体のルールはあるけど、それが絶対というわけではありません。違和感を抱く人がいたら発言し、傍観者であってはいけないという考えのもと、周りを巻き込んで解決に向かうよう取り組んでいます。木下さんはまさにそれを実行してくれましたね。
みんなで受賞した感覚
ーーグッドデザイン賞を受賞した時のことを教えてください。
廣田:グッドデザイン賞へ応募したのは、スタートアップのことをもっと知ってもらいたい、多くの人の身近なものにしたいと思ったのがきっかけです。これは、「スタートアップをより身近に、挑戦者であふれる世界をつくる」という旧INITIALのビジョンが根底にあります。加えて、入社した頃に当時の上司と掲げた中長期目標への挑戦でもありました。そんな目標を掲げていたこと自体、すっかり忘れていたんですけどね(笑)。
応募してからは、選考の状況を常にオープンにしていました。もう後には引けないし、落ちたらがっかりさせてしまうという不安もあったけど、みんなに応援してもらえる状態にしたかったんです。みんなで同じプロダクトを作っているし、みんなで受賞するという感覚を持ちたくて。応援があれば受賞できると思っていました。それを言い続けたのもあってか、事業CEOが神社にお参りに行ってくれました。素敵なリーダーでしょ?(笑)。受賞を知った時は、達成感よりもホッとした感覚の方が強かったです。
ーーこの冊子はグッドデザイン賞応募の際に用意したものですか?
廣田:そうですね。賞をとったときにプロダクトを展示する必要があるのですが、デジタルプロダクトなのでPCで見てもらうしかできません。それだと審査員の方にしっかり伝えられるか不安だったんです。また、伝えたかったのはデジタルプロダクトの良さだけでなく、構造化されたデータと独自コンテンツの良さもあります。それを一番表しているのが、年に2回、デジタル(PDF)で無料公開している「Japan Startup Finance」です。審査会場で、これを手に取って見られるようにと冊子版を作りました。
Japan Startup Financeは、毎回、その時の時流を反映したデザインテーマを設けています。2023年上半期のものは、「時代の移り変わり」というコンセプトの表紙にしました。この頃はAIが話題になりつつも、まだAIをどうプロダクトに活かしていくのかが明確になっていない、過渡期でした。そこでイラストレーターさんにお願いし、「ビットコイン」「レコード」など、新旧を象徴するモチーフを入れて、バトンをつなぐイメージでイラストを描いてもらいました。
今回のインタビューでは、お二人が携わるプロダクトや、グッドデザイン賞受賞の経緯について伺いました。
日々溢れるアイデアの中、スタートアップが多くの人にとってより身近な存在になるよう尽力する廣田さんと木下さん。お二人ともクライアントやチームの仲間など、人のためになる仕事にやりがいを感じているのが深く伝わってきました。
後編は、TDP入学時の心境や在学時の取り組み、今後の目標などをお二人に伺います。(後編はこちら)