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デザイナー 高山淳平・猪野麻梨奈・山本蛸 -TDP生のストーリーマガジン【com-plex】 Vol.1- [後編]
デザインだけではない、これまでの経験が活きていく。東京デザインプレックス研究所の修了生を追ったストーリーマガジン「com-plex」。
後編も引き続き、フリーランスデザイナーの高山淳平さん・猪野麻梨奈さん・山本蛸さんにお話を伺います。前編ではフリーランスになった経緯や今のお仕事についてお話していただきました。後編は、東京デザインプレックス研究所への入学を決めたきっかけや学校内での取り組みについて、お話を伺いたいと思います。
※以下、敬称略。
藁にもすがる想いで
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――みなさんは、TDP(東京デザインプレックス研究所)入学前は何をしていましたか?
高山:大学卒業後にデザインとは関係ない会社に就職したのですが、精神的にも、肉体的にも削られていて。会社に勤めて1年半くらいですかね。そのとき「人生が終わった」と思っていたんです。転職にも不利な状況だったので。だったら、なんでも好きなことをやろうと思い、藁にもすがる想いでTDPに入りました。
――そのとき、なぜデザインの道を選んだのですか?
高山:大学時代から漠然としたグラフィックデザインへの憧れは持っていて、当時、「+81(PLUS EIGHTY ONE)」の雑誌を見て、カッコイイなと思ったのが頭の片隅に残っていたんです。それを思い出し、働きながら通える学校を探して、土日でも通えるTDPを選びました。当時は、TDP以外にデザインの学校があることを知らなかったので、見学に行って、決めました。逃げた先にTDPがあった感じですね。
――デザインの道へ進むことに迷いはありましたか?
高山:その当時は、デザインに関して無知だったので、どうしたらデザイナーになれるのかがわからなかったんですが、TDPのスタッフの方の後押しもあって、前向きに目指すことができました。
圧倒的に知識や経験が足りていない
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――猪野さんは、TDP入学前は何をされていましたか?
猪野:私は高校時代に美大を目指していまして、予備校にも通っていました。ただ、同じタイミングでバンドをはじめて、そっちのほうが楽しくなっちゃって(笑)。その頃から音楽のほうにシフトして、卒業後もバンドを続けながら、音楽のコンサート制作系の学校に通っていました。
――はじめは音楽関連の進路を考えていたんですね。
猪野:当時は、音楽の方向でやっていきたいと思っていました。デザインをやりたい気持ちもあったので、独学でIllustratorやPhotoshopを勉強して、知り合いのバンドのCDジャケットやグッズのデザインをやらせてもらったりしていました。ゆくゆくは音楽をやりながら、個人でデザインの仕事も受けていきたいなと。そうしたフリーランス的な働き方は、そのときから意識はしていました。
――そこから、どうしてTDPに入学されたのですか?
猪野:やっぱり他のプロのデザイナーの仕事と比べて、圧倒的に知識や経験が足りていないことに気づいて。CDジャケットやグッズの見た目はなんとなくできても、入稿の仕方やワークフローが全然わからなかったんですよね。何度も入稿を失敗して自腹を切りました(笑)。それで、独学では限界があるなと思って、学校に行って学び直そうと思いました。学生の頃から漠然とエディトリアルデザイナーに憧れを持っていたので、AdobeのIndesignを学べる学校を探していました。そこでTDPを見つけ、渋谷という立地もよかったので、見学に行って決めました。
友人からのデザイン依頼
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――山本さんは、TDP入学前は何をしていましたか?
山本:幼い頃から絵を描くことが好きで、中学時代には絵を仕事にしたいと漠然と考えていました。結局美大には行かなかったのですが、ただ絵を描くことはずっと好きだったので、大学時代に所属していた軽音サークルでフライヤーを描いていました。
――デザインの仕事を意識したのはいつ頃ですか?
山本:きっかけは、先ほど(前編)も話した『LOCUST(ロカスト)』を刊行している友人です。彼が大学時代に演劇をやっていて、その公演のフライヤーを作ったときが最初にデザインの仕事を意識したときかもしれません。当時、AdobeのIllustratorやPhotoshopの使い方を知らなかったので、絵の具などを使って描いていました。それが、人から依頼されてデザイン物を作る最初ですね。そのあとは普通の会社に就職しようと就活したのですが、うまくいかず。そのとき、本当にやりたいことではないからうまくいかないんだなと思いました。そこで、大学時代にやったフライヤーを描くことが仕事にならないかなと思い、デザイン学校を探して、TDPに決めました。
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強みは「生き様」
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――TDP入学時、デザイナーを目指す上で迷いなどはありましたか?
山本:入学時というよりは、2年前くらいまで「美大卒ではない」という引け目はありましたね。「おれ、どうせ美大に行ってないし」という。美大に行ってないことが気にならなくなったのは最近かもしれないですね。
――美大卒ではないことで、デザイン業界で感じる壁などはありますか?
山本:仕事上では気にならないです。クライアントも美大卒ではないですから。ただ、前の会社では私以外はみんな美大卒で、そこで4年間学んでいるので、深みが違うなと感じていました。彼らはバックボーンに美術やデザインの知識があるので。実力で負けているというよりかは、羨ましいなという気持ちですかね。大きく違ってくるのは「期間」だと思います。4年間を実制作以外の理屈の部分も学んで、かつ、同じ道を志す友人と語り合うような経験が、どうしても短くなってしまう。だから、考えるための知識や感覚を説明するための言葉や、それらに付いて深く考える機会が美大卒の人に比べると圧倒的に少ないですよね。
――逆に、美大卒ではない強みはありますか?
山本:生き様です!
高山・猪野:(笑)
山本:美大に行ってないから、泥すすってでも生きて行ってやるという気持ちはあります。
猪野:泥臭さはありますね(笑)。あとは会社に入ってすぐは、美大卒の同期に比べて、ソフトの扱いに慣れている自信はありました。それは、TDPの授業は実践的な内容が多かったのでそのおかげだと思います。
高山:どちらかと言うと私の場合は、文系の4年制の大学に通っていたということもあって、論理的な考え方やそれを言葉で説明することは得意でした。そういう点が、今とても助かっている部分ではあります。ビジネス色の強いクライアントは、論理的な説明ができて、それを形にしていくことができると、重宝されるなと思います。
――美術大学と総合大学、同じ4年間でもまったく異なる経験ですね。
猪野:高山さんはクライアントからすれば、こむずかしい仕事も任せられるイメージがありますよね。
高山:打ち合わせがきちんとできるというのもありますね。クライアントの意図を理解して整理する必要もあるので、総合大学の「何が」と言われるとわからないですが、そうした状況での整理に役立っているのかもしれないです。要件定義ですね。
同じ道を志す友人との交流
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――TDP時代に取り組んだことを教えてください。
猪野:全員「グラフィック/DTP専攻」でした。昼間部クラスだったので、課題が出てから提出までの時間が2、3日と短く、アルバイトの合間を縫って毎回必死に制作してました(笑)
山本:担当の先生には、いまだに頭が上がりません。その先生からは生き様を教えてもらいました(笑)。もちろんソフトの使い方やデザインの基礎なども教えてもらいましたが、その先生に自分の作品を胸張って見せられるかが、私の基準にはなっていますね。
高山:私も先生方にとてもお世話になりました。自習室に入り浸っていたので、よく飲みに連れていってもらいましたね。
猪野:ずっとフリーランスでやっている先生方には、本当に勉強させてもらいました。
山本:ほかにも、野口孝仁さん(ダイナマイトブラザーズシンジケート)の「プロフェッショナルラボ」の授業で、かなり鍛えてもらいました。野口さんにはもともと意識していなかった部分まで、デザインではこだわる必要があると教えていただきましたね。
猪野:野口さんには名言もありますよね。
山本:「文字と文字の間に宇宙がある」とかね。
猪野:そうした言葉は、TDPの卒業後も頭に残っています。
――デザインの授業で行き詰まった経験などはありましたか?
山本:行き詰まるとは違った感覚ですが、「まだゴールではないよ」とずっと遠くに行かされている感じはありました。TDPの授業は課題が多く、完成していなくても、当日にできている分を持っていくしかありませんでした。あとは、一番がんばらなければいけなかったのが、ポートフォリオ制作ですね。すべて自分で制作して、自分でデザイン会社に持っていくしかないですから。
猪野:一般企業の就職は履歴書を書いて、その履歴書にも書き方とか、志望動機とか、面接の見本があったりしますよね。でも、デザイナーのポートフォリオには正解がありません。また、私たちの時代はTDPの卒業生も少なかったので、ポートフォリオの事例もほとんどなくて。そうした不安はありました。
高山:リアルなことを言うと、お金と時間ですね。その当時、本当にお金がなかったので、TDPに行ってMacを借りて使うしか、制作することができませんでした。Macなんて、とても買えませんでしたし。アルバイトをしないと生きていけなかったので、昼間は飲食チェーンの内勤デザイナーとして、夜は居酒屋で朝方まで働いて、次の日にTDPに行って作業をするような生活で、時間の面でも苦しみました。食べていくためには働かないといけない。でも、ポートフォリオ制作の時間は確保しなければならない。お金も時間もないということが、一番の行き詰まりポイントだったかもしれないです。
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山本:ポートフォリオは周りのみんなも行き詰まっていたので、週に1回はみんなで自分のポートフォリオを見せ合いました。
猪野:教室にポートフォリオを並べて、みんなで見せ合ってね。
山本:いろいろと自主的にやっていたことがよかったと思います。結局、同じ道を志す友人は大事ですね。
猪野:当時、数人で自習教室に入り浸って、「この雑誌カッコイイ」と言って持ってきたりとか、お互いのデザインに感想を言い合ったりとか、そういう知識の共有をしたことがすごくよかったと思います。感想をもらうことって最初は怖かったり恥ずかしく思うことかもしれないですが、人から意見を聞いた上で作った制作物には、より強い説得力が生まれると思うんです。同じデザイナー志望の人が周りにたくさんいる環境は学生の間しかないと思うので、今のTDP生にもどんどん有効活用していってほしいですね。
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これからのキャリア
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――今後のキャリアについて聞かせてください。
高山:昨年の夏に、クライアントから映像制作の依頼があったのをきっかけに、モーショングラフィックを始めました。経験者の知人から教えてもらいながら製作していますが、今年からは本格的に勉強をして、仕事で使える武器のひとつにできればと思います。
山本:私はWebをやっている以上、更新されていくコーディングの技術の勉強を続ける必要があります。そういった中で感じるのは、フリーランスだからこそかもしれないですが、「10年後はこうなりたい」というようなことは想像できないと思います。必要なことは、時代に合わせつつ、大事な部分は変えない。そんな感じで生き延びていくしかないですね。最終的には、すべて楽しい仕事だけにしたいです。
猪野:ずっとエディトリアルデザインが好きで、会社を経て、フリーランスになってからもそれは変わりません。最近では、エディトリアルデザインの仕事が9割なので、現状維持ですね。あとは、まだ雑誌のチームの一人という感じなので、今後はアートディレクターとして、自分のチームで本を作ってみたいです。そのために、まずは技術を上げること。あとは、ディレクションの能力も少しずつ付けていけたらなと思います。
――最後にTDPへの入学を検討している方や受講生にコメントをお願いします。
高山:思っていたよりは何とかなることが多いと思います。周りが助けてくれることもあります。だから、興味のあることをとりあえずやってみるのもいいのではないでしょうか。
猪野:TDPで学んだ技術も大事ですが、入学前には期待していなかった人とのつながりに、私はフリーランスになってからも助けられてきました。みなさんも、そこは意識して築いて、つながりを絶やさないようにすると、そのうち、いい結果になるかと思います。そこは技術習得と同じくらい大事なことかもしれないです。
山本:私はTDPに1年半ほどいましたが、周りに同年代のデザイナー志望の人がいて、何年もプロとして活躍している先生にデザインを教わる機会は学校を出るとない。授業を受けているだけでも有効ではありますが、積極的にいろいろな人と話すのがいいと思います。かなりレアな機会だと思いますので。
――みなさん、本日はありがとうございました。
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今回の3人へのインタビューでは、TDP入学時の心境や在学中の取り組み、そして美大卒ではないデザイナーの葛藤などを伺いました。
入学するきっかけは違っても、同じデザイナーを志すライバル。競い合うこともあれば、お互いに不安や悩みを相談することもあったといいます。そうした仲間たちとの時間が「今」につながり、「これから」へつながっていくのでしょう。
次回も、今まさに現場で活躍しているTDP修了生にお話を伺っていきたいと思います。
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[取材・文]岡部悟志(TDP修了生) [写真]前田智広