産学協同レンジフードデザインコンペ最優秀賞 柏崎日南子さん
滋賀県のレンジフードメーカー 株式会社HEJとの産学協同コンペ『R-1グランプリ 2024』で最優秀賞を受賞した、空間コンテンポラリーデザイン専攻修了生の柏崎日南子さんにインタビュー。コンペ応募の経緯から受賞作のアイデア着想、製品化までの制作背景、リフォーム産業フェア出展時の感想などについて、お話を伺いました。
キッチンに IRODORI を
ーー最優秀賞の受賞、おめでとうございます。まずは、コンペに参加されたきっかけを教えていただけますでしょうか?
ありがとうございます。きっかけは、レンジフードのデザインコンペを開催すると聞いて、授業で空間デザインは学んでいたのですが、プロダクトデザインにも少し興味があったので挑戦してみようと思いました。楽しそうだし、自分にとって良い経験になると考えました。
ーーレンジフードというテーマに対して、どのように向き合われたのでしょうか?
これまであまりレンジフードというものに着目したことがなかったので、最初はレンジフード自体のリサーチから始めました。インテリアデザインの先生に教えていただいたり、インターネットで様々なレンジフードのデザインを調べたりしました。特に海外のデザインはファンの羽がないデザインのものがあったりと最先端な印象を受けました。
――「レンジフードをもっと自由に」というテーマでのコンペでしたね。機能性を重視した無機質なデザインが多いレンジフードというプロダクトに、どのようにオリジナリティを出しましたか?
元々、私は機能性に優れているものにはあまり興味がなくて。身の回りにあるものも便利なものがいっぱい増えてきてるんですけど、そこに魅力を感じないんです。どちらかというと手間がかかるものの方が好きなので、機能性よりもビジュアルのデザインを大事にしました。
日本は色を好まないわけじゃないけどあまり挑戦しないというか、ユニクロとか無印良品に代表されるようなそうした風潮が、キッチンにもあるなと普段から思っていて、そこに焦点を当てました。シンプルでモノトーンなものは格好良いんですけど、あえて私は色を使いたいなと思ったんです。
ーー「IRODORI」という作品ですが、デザインと名前はどちらが先に決まったのでしょうか?
デザインですね。「色」と、素材として「ガラス」を使うとまず決めました。日本のレンジフードにガラスを使ったものがあまりなかったので使いたかったんです。そこで、インテリアデザインの先生にガラスに色を混ぜたいと相談したら、カットシートを使うという方法もあるよ、と教えていただきました。半透明のカットシートを使うことで、重なり合うところの微妙な色の変化を表現することが出来ました。
ーーコンペのプレゼン時、印象に残ってることはありますか?
審査員の方に、今あるレンジフードは四角いものが多い。あえてそこを変えずにデザインしたのが印象的だったと言われたことをおぼえています。あまり私は複雑なものを作れないというか、思い返してみると、今までの学校の課題でも、シンプルでわかりやすいものを作っていたので、そういう性格が出たのかなと思います。
ディテールへのこだわり
ーー製品化に向けて、どういった打ち合わせをされましたか?
打ち合わせはオンラインで行いました。はじめのほうは、企業や工場の方と製品化の工程や製造の担当について打ち合わせを重ねました。そして、2回目の打ち合わせの後、フード部分の素材を決めました。最終的にモルタルを採用したのですが、珪藻土や他の素材も検討したり、あとはガラスの厚みの確認と、ガラスの内側にかけるブラスト加工(凹凸)の粗さを決めましたね。サンプルを送っていただいたので、先生と実物を確認してどれを採用するか選びました。
ーー製品化にあたり、こだわった部分はありますか?
実際のところは完成してみないとわからないんですけど、先生にもご協力いただきながら、完成したイメージをなんとか頑張って想像して、素材や加工を選びました。
ガラスのブラスト加工はかけすぎると白くなりダサく見えてしまうので、程よく品がある程度の粗さを心掛けました。カラフルなデザインはともすると安っぽく見えがちなので、フード部分のモルタルの色も慎重に選び、高級感を保てるように意識しました。
ーーそうした作業は、元々あったイメージに近づけていくような感覚ですか?それとも元のイメージをより良くしていくといった感じですか?
元のイメージはCGのため、別物として考えていました。実物とは見え方が違うので、あくまで元のCGイメージは参考程度に捉えて、製品化に取り組みました。
ーーその後、製品のプロトタイプを確認されたりはしましたか?
それから2ヶ月後に、大阪の工場で製品の仮設置があり、製品化に向けて最終チェックを行いました。やはりオンラインでの打ち合わせだけでは伝わっていないところがあったので、細かい部分、たとえばガラスと本体をつなぐ留め具の素材などいくつか微調整を行いました。
ものづくりの魅力
ーーリフォーム産業フェアに出展してみてどうでしたか?
私のデザインした製品を見て、興味を持った方々が声を掛けてくれました。来場客の皆さんとお話している時間が楽しかったです。さらに、このIRODORIを見て「色を使ってみよう」と思ってもらえたようで嬉しかったですね。「新しい意見を取り入れていくのも大事だよな」とおっしゃってくれる方々がいて、今後そうした方々の会社の事業に、私のアイデアやデザインが刺激を与えれたらいいな、という気持ちになりました。
展示会前日に会場の設置作業を見ていて思ったのは、ものづくりって色んな人の手が加わっているんだな、ということです。これまでに、先生にはアイデアを形にするためのアドバイスをいただき、工場の方には私のイメージ通りに製品を作り上げていただき、現場では職人さんに美しく設置していただきました。レンジフードひとつだけど、こんなに沢山の人が関わって作りあげたことを思うと、改めてすごいなと感じるし、これがものづくりの魅力なんだろうなと思いました。
ーー今後、コンペに挑戦しようと考えている学生たちに一言お願いします
今回の審査員の方が言ってくれたことが印象に残っています。参加したメンバーは、自分がやりたいと思って参加した人たちだけど、それ以外の大勢の参加していない人たちは単純に興味がなかったり、やってみたいけど諦めてしまったり。それぞれ理由はあるんだろうけど、やらないとわからない。そんなことってあるんだと知りました。迷っているけど興味があることなら、絶対にやってみるといいと思います。
そうした姿勢はコンペだけじゃなくて、この先の仕事にも仕事以外にも大事なことです。それで受賞するかどうかは置いておいて、アイデアを考える過程やプレゼンする時間は結果的に自分のためになるんだなと思いました。
ーー改めて、最優秀賞受賞おめでとうございます。これからのご活躍も応援しています!