産学連携 サンロッカーズ渋谷ウォールアートプロジェクト 後編
2023年7月、新たな産学連携プロジェクトとして、東京デザインプレックス研究所の学生たちが手掛けたウォールアートがアミューズメント施設GiGO渋谷に登場しました。
ウォールアートのテーマは、「渋谷×BASKETBALL×ゲーム」。渋谷を拠点に活動するバスケットボールチーム『サンロッカーズ渋谷』とB.LEAGUE(男子プロバスケットボールリーグ)を盛り上げる企画です。
修了生10名が参加した本プロジェクト。約1ヶ月というタイトスケジュールの中で見事に納品まで果たしました。完成したウォールアートは、まるで渋谷の街全体がBASKETBALLアリーナになったような迫力があり、見る人を圧倒する仕上がりになりました。
今回は参加メンバーの寺尾潤さん、海藤大祐さん、石岶千佳さん、吉田美月さんの4名にプロジェクト開始から、デザイン完成に至るまでの制作秘話などを伺いました。インタビューの様子を前後編に分けてお届けします。(前編はこちら)
それぞれの役割を全うする
――10人で制作を進めるにあたり、工夫したところはありますか
吉田:コンセプトを決める段階で何度も意見の擦り合わせをしました。10人いると10人分の案が出て、それぞれが全く違うものだとまとめるのが難しいですよね。だからビジュアルを決めるときに、コンセプトからずれないことを最優先にしました。ビジュアル的にかっこいい案はいっぱい出たけど、コンセプトに合わないものはやめる、という取捨選択がうまくできました。さらに良かったのが、そうやって何度も話し合いを重ねていたらどんどん話しやすい雰囲気になって、意見交換がしやすくなったんです。
海藤:最初は初対面の人ばかりだったけど、最後にはみんなの個性がわかるようになりましたね。
――たくさんの話し合いで、お互いの理解も深まったのですね。ほかにも工夫したところはありますか。
寺尾:コンセプトが固まったあとは、背景班と人物班に分かれて制作を進めました。班ごとにコンペをし、それぞれの班で選ばれたもの同士を掛け合わせてみる、という作業を何度も行いました。ほかにも、石岶さんが制作を進めやすいようディレクションしてくれていましたね。
石岶:その分、デザインに関しては他のメンバーに任せることが多くなってしまいました。でもそれぞれの役割を決めて、みんなが自分のやるべきことを全うするという方法がすごく良かったから、限られた時間の中で完成させることができたんだと思います。
専攻を超えた共同制作
――デジタルコミュニケーションデザイン専攻(以下、デジコミ専攻)と空間コンテンポラリーデザイン専攻(以下、空間専攻)出身者での共同制作でしたが、別専攻の人と取り組んだことでよかったことはありましたか。
石岶:いつも課題で作るものは机に収まるサイズの作品だけだったから、今回初めて3mという大きな壁になるものを作ることになって、最初はあまり完成形が想像できなかったんです。でも空間専攻の人たちが3Dソフトを使って完成形のイメージを具体的にビジュアル化してくれて、すごく助かりました。
海藤:Twinmotionという3Dソフトで動画を作ってイメージを共有したのですが、それがデジコミ専攻の人たちからわかりやすいと言ってもらえたので、作って良かったですね。それと、専攻が違うと着眼点も違うんだと気づいて面白かったです。
石岶:たしかに、空間専攻の人は光の演出を考えていて、自分にはない観点で面白かったです。
海藤:僕も形と色だけでなく、コンセプトを考えるときに色々デジコミ専攻の人から影響を受けました。表現だけでなく機能面とのバランスを考えていて、すごく勉強になりました。
寺尾:僕は今までグラフィックソフトで何か制作するときは直感で作っていたことが多くて、細かいところまで突き詰めきれていませんでした。知識を活かして論理的に作っていくデジコミ専攻の人の作業方法を見て、すごく勉強になりましたね。それに、同じ背景班だった吉田さんに今でもポートフォリオのアドバイスをもらっていて、とても助かっています。
石岶:吉田さんは細かいところまで妥協せずに考えていて、色々試してしっくりくるものを探していたよね。それってすごく大変な作業だから、すごいなぁと思っていました。
吉田:ありがとうございます(笑)。でも人物班の人たちもたくさん案を出していてびっくりしました。ポリゴンメッシュ風の人物をいろんなパターンで20体も考えていたので…。意気込み、ガッツがすごかったですね。私はイラストを描くのが苦手で背景班として制作したのですが、自分の得意なことで貢献できてよかったです。
作品を見てもらえる嬉しさ
――完成後、みんなで実物を見に行ったんですよね?
石岶:はい、実際に見て感動しました。下見の時に何もない殺風景な状態の壁を見ていたので、出来上がったものを見て達成感を感じました。海藤くんが作ってくれたシミュレーションがそのまま実現されていて、改めてシミュレーションのすごさを実感しました。人の目線で見た光景を想定して作ってくれていて、人物の配置など想定通りだったんですよね。
吉田:螺旋状の階段の壁面なので、平面的に見た場合ではなく、螺旋状の壁のどこに人物がいたら綺麗かを考えて作成したんです。うまく仕上がっていてよかったです。
海藤:僕も迫力があって感動しました。友達にも話したら見に行ってくれたらしく、嬉しかったです。
寺尾:企画段階では予定がなかったのですが、GiGOさんがデジタルサイネージ用のモーショングラフィックを作ってくれていて驚きました。出来上がったウォールアートを気に入っていただき、制作してくれたみたいです。デジタルサイネージだと動きがあるので、平面では隠れていた部分も見えるようになっていたのが嬉しかったです。
吉田:あと、写真や動画を撮っている人を見かけました。自分達が作ったものに興味を持って、撮っておきたいと思った人がいたことがとても嬉しくて、作ってよかったと思いました。
石岶:学校の課題では自分達で設定を作って、完成してもそれが良いものになったかどうかは身近な人のリアクションで判断するしかありません。でも今回は外部の人の反応がしっかりと見られて嬉しかったです。
デザインとアートの間で
――今回の企画を通じて感じたことなどありますか。
寺尾:今回はデザインというよりアート色の強い企画だったので、デザインとして制作する時と違う感覚がありました。今までデザインを勉強してきたからこそ、訴求効果があって意味のあるもの、きちんとコンセプトが伝わるものを作れたのだろうか、と考えることもあって。
吉田:確かにアートの要素が大きかったので、戸惑うこともありましたね。でもクライアントがアート的な作品を求めていたから、クライアントの求めるものに応えるという意味では普段デザインを考える時と同じかなと思い、私は普段通りの過程で制作していました。
海藤:僕はデザインとアートをそこまで分けて考えていませんでした。例えば壁にアートを飾ることで、見る人の心を豊かにできますよね。生活の豊かさを提案するという点では、デザインもアートも同じ目的で作られていて、同じような効果があると思っています。
石岶:企画の目的はサンロッカーズ渋谷をより多くの人に知ってもらうことでしたよね。調査をして数値を出したわけではないので明確な結果はわからないけど、興味を持ってくれた人がいたことは確かなので、意味のある作品にできたのではないかなと思っています。
ーーみなさん、本日はありがとうございました。
[取材・文]土屋真子
[写真]前田智広