「共同」-GovTech東京のコンセプト-~立川市CIO×昭島市CIO×東京都CIO座談会~
東京都CIOと区市町村CIOの顔が見える関係を構築するべく、東京都・区市町村CIOフォーラムを開催。さらなる都内区市町村CIO等の皆様と都CIOとのフラットなコミュニティ形成を目的とし、個別の座談会の開催に至っております!
第31回は「立川市CIO×昭島市CIO×東京都CIO座談会」をお届けします!
令和4年10月21日に、「東京都・区市町村CIOフォーラム第31回座談会」として立川市CIO、昭島市CIO、東京都CIOの対談を実施しました。
議題
①人材育成・確保について
②DX推進体制について
③GovTech東京設立構想
人材育成・確保について
まずは職員の意識改革!
―立川市様、昭島市様それぞれの取り組みのご紹介をお願いします
立川市CIO:田中(以下「田中」)
まず、立川市のDX推進に当たっての人材育成の取り組みについてお話します。
組織横断的に意識の高い職員の人材育成が必要であると考え、管理職の意識改革をはじめとして研修の強化に乗り出しました。
東京デジタルアカデミー、東京都市長会の各セミナー、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)のイーラーニングなどを活用して、全体の底上げを図っています。東京都さんの協力を得て、年度内にワークショップ型のDXマインドセット研修の実施も検討しています。
これまで取り組んできた業務改善、いわゆる「カイゼン」を発展させ、BPRを展開していきたいと考えています。
また、3市による住民情報システム共同利用が今年から稼働し、令和5年11月からはさらに1市加わりますので、標準化、共通化についての意見交換や情報共有を継続していきます。
昭島市CIO:早川(以下「早川」)
昭島市では、令和3年度の市長施政方針で、DXを推進し業務効率化を図ることで、余剰の力を市民相談等のサービスに振り向けることによって市民福祉の向上につなげることができる、ということを議会に説明しました。
令和3年度は、内閣府の人材支援制度を活用してデジタル戦略アドバイザーを招いて、全職員を対象にBPR、RPA、AIOCRの活用の可能性についてヒアリングを実施して意識改革を図りました。DXは情報担当課だけでは進まないので、現場の職員の意識改革へ積極的に取り組んできました。
また、令和3年度から職員採用試験にICT枠を設けました。令和3年は1名が採用され、システム標準化の対象である課税部門に配属してDX推進に取り組んでいただくことにしました。今年度も2名合格者を出しており、今後も採用を続けていきたいと思っています。
人材育成の観点からは、窓口職場の職員を対象にBPR研修を実施して、新しい窓口のあり方について施策を企画してもらいました。
東京都CIO:宮坂(以下「宮坂」)
ありがとうございました。両市の話に研修が出てきたのが印象的でした。
デジタル部門以外の職員がデジタルのことを覚えることは本当に重要だと思います。専門外の職員の意欲を高めるために工夫されていることはありますか?
田中
立川市では人事部門を中心に業務改善を進めています。ご指摘の通り、DX推進はBPRの視点が大事ですので、管理職から始めて全職員に広げてくことを課題として取り組んでいます。
早川
昭島市では、先ほどお話ししたように、すべての職場の個々の職員にヒアリングを行ったことが、一つの工夫だったと思います。
それから、BPR研修では、様々な窓口職場の職員が特定の業務について仮想のお客様を想定し、望まれる窓口のあり方について改善策をシミュレートしました。一朝一夕には結論は出ませんが、職員ひとり一人が考えていかなければいけないという意識が醸成されたと思います。
また、文学部や法学部など理数系以外の学部出身の職員には、エクセルを使いこなす、特にVBAなどを使いこなし業務の効率化を図るまでの知識を持ち合わせている方はほとんどいないので、採用時研修にDX研修の一環として、基礎的な内容を導入していきたいと思っています。
宮坂
ありがとうございました。都庁でも、マイクロソフトさんのオフィスの製品を使うケースが多いです。それ以外にも便利なツールが増えてきていますが、使い方の習熟にかなり個人差があります。最初は負荷がありますが、覚えるだけで便利さを享受できるので、みんなで覚えようということで、一生懸命やっています。
あと、一つお聞きしたいことがあります。DXのDはデジタル技術でXは変革という意味です。BPRはX側の話ですよね。私は、現場のエキスパートと技術のエキスパートのチームワークがBPRの急所だと思っています。バックグラウンドの違う人々が共にBPRを遂行するために、工夫されていることや苦労されていることはありますか?
早川
昭島市は、情報の知識がある職員を現場の係長職や課長職に配置し始めています。現場の職員に、実務を通じて仕事を見直してもらい、情報の担当が伴走型で誘導する、そういう役割分担により、情報の知識がある職員と現場の職員を融合させながら進めています。
田中
立川市では、まだ走り出したばかりで、技術部門も含めて研修を進めています。取り急ぎ管理職から意識改革を進めるため、研修を強化しています。
宮坂
ありがとうございます。非効率な業務をデジタル化するのではなくて、BPRしたものをデジタル化する方がいいと思います。組織全体でチェンジマネジメントの雰囲気作りやスキル作りが大事で、都も試行錯誤しています。
DX推進体制について
現場への浸透と人材確保への取り組み
早川
昭島市では、DX戦略の司令塔として、デジタル化担当という部長職を設置しました。これにより、現場とDX推進部門との協力関係を構築するための基盤ができました。
同時に、従来からあった全部長職で組織される会議体である「情報化戦略本部」を「デジタル化戦略本部」に再編し、DXを強力に推進する体制を整えました。この再編は、あらゆる技術革新の波を積極的に受け入れるため、まず部長職がそういう考えに立たなければいけないという思いから行ったものであります。
しかし、実際にBPRを進めるには現場からのボトムアップが不可欠だと思います。そこで、業務担当課のDX推進役として、役職者にこだわることなく、実際に動ける職員をリーダーに決め、BPRを進めていく取り組みも行っています。
田中
立川市では、DX推進のため、令和4年度から担当の主査職を配置し、年内に立川市DX推進基本方針をまとめる作業をしています。
この方針をまとめて、市長を本部長とするIT推進本部をDX推進についての意思決定機関として再設定し、庁内プロジェクトチーム設置して、現場に伴走型支援を行うことにしています。
DX推進のうえでは、各職場の職員が課題意識を持つことが重要です。立川市DX推進基本方針を職員に浸透させ、推進していく人材を確保すること、その辺りのアプローチが重要になってくると考えています。先行する東京都さん、それから昭島市さんの状況等を参考にしたいと思っています。
宮坂
最初に、東京都のDX推進体制、推進体制における課題について少し触れたいと思います。
まず、デジタルサービス局を新設しました。従来、都庁にはICT職がおらず、他の職種で入都し、情報技術を学んでも、人事異動によってデジタルの仕事から離れてしまうケースが多々あり、技術と行政の両面を習熟することが難しかったので、ICT職を作ってデジタルサービス局に配属しました。ICT職のキャリアはデジタルサービス局等が中心となってアサインメントし、長期的なキャリアプランを作って、将来のCIOを育成しよう、と考えています。
採用に関しては、民間企業も情報技術職の採用に苦労しているようなので、都としてもより努力が必要と考え、ICT職の他に任期付職員の採用を始めたり、副業的に従事する職員の採用を始めたり、学生も来てくれて大活躍してくれています。
あと、両市のお話にあったように、各現場の部署がデジタル化を推進する気運にならないと進まないと思いますので、デジタルサービス局と各局との関係をより良くするために、コミュニケーションの頻度を増やしています。
他にも、庁内で3ヶ月に1回スマート東京の推進会議を開催しております。各部署のデジタル化への取り組みの共有を図ったり、また、デジタル化に伴う組織内の業務改善のような外に出ない地味な仕事についても成果発表会をし、頑張った人がきちんと表彰されるような制度作りに取り組んでいます。
田中
ありがとうございます。よくわかりました。
宮坂
昭島市さんでは、それぞれの部署にもDX推進役がいらっしゃるとのことですが、各部署のDX推進役は1、2人でされているのですか?また、そのリーダーの方に期待されている役割はどのようなものですか?
早川
そうですね、情報部門が何かにつけて各部署の全職員を集めて説明するというのは非効率なので、リーダーに説明することで各職場への説明が徹底されることを期待しています。
現場の職員には、業務のドラスティックな変化や、自治体独自に進めてきたことの変革に抵抗を示す人も多く、なかなか進まない現状があります。なので、管理職と現場のリーダーである推進役がしっかりと情報部門の担当と連携しながらDXを進めていく、という体制を構築しているところです。
宮坂
ありがとうございます。デジタル化を進めて仕事の仕方を変えていくために、ご苦労や工夫をされているのが印象的でした。デジタル化には変革のマネジメントの意味合いが非常に強いと思います。変化への恐怖がある中で、全員が明るく変えていく雰囲気を作りたいと思っています。この点について工夫されていることはありますか。
早川
昭島市には、現場の経験がある情報部門の職員が多くおります。そういう職員が現場での経験を活かして、現場に入って伴走型で取り組んでおり、一定の効果が出ています。現場の職員から、こういうこともできるのか、仕事を変えればいいのか、という声が出ています。
宮坂
ありがとうございます。
田中
先ほど宮坂CIOからICT職採用のお話がありましたが、応募の状況や応募される方の意欲等について、東京都さんが求めるところとのマッチングを含めて、教えていただけませんか?
宮坂
採用については、より貪欲に努力しないと求める人材はなかなか見出せないと感じています。昔に比べて、公共デジタル化に取り組みたいという技術者の方が増えているようですし、入ってくる人もレベルの高い人が多いですけど、量が課題です。
公共でデジタル化に取り組みたい人の母集団をどのようにして増やしていくのか、本当に悩ましい点です。今まで採用イベントはあまり実施していなかったのですが、去年あたりから、行政のデジタル化に少しでも興味がある人に、話だけでも聞いてみませんか、というオンラインイベントを開催してみたりしています。
田中
ありがとうございます。
早川
一点だけお願いがあります。20業務の標準化にむけ機能要件の確認を進めていますが、同じ業務でも自治体間で仕事の進め方が違う点もあり、場合よっては標準化によってカットしなければいけない業務もあると考えています。
これまでも、法定受託事務を含めた業務について、市町村の担当者は都の担当部局からいろいろご指導いただいております。東京都の市町村指導担当部門に、DXを進める上での質問やご相談に、区市町村と同じ目線に立って応じていただけるような体制を構築していただければ助かります。
宮坂
その点については、デジタル局戦略部に区市町村の担当の方と向き合っていく専門チームを作りましたので、ぜひご活用ください。
東京都デジタルサービス局戦略部区市町村DX支援課課長代理:中山(以下「中山」)
はい。私ども区市町村DX支援課で、標準化・共通化については、情報交換や現場を拝見しつつ、同じ課題認識を持って取り組んで参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
早川
ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
GovTech東京設立構想
4つの共同化~調達、開発、データ利活用、人材の教育・採用・配属~実現に向けて
田中
GovTech東京には、大変に期待が大きいです。2点お伺いしたいです。
まず、デジタル人材の共同活用についてです。他団体と共同で利用するCIO補佐官のような位置づけの人材の活用方法について現段階でお考えがあればお聞かせください。
次に、システムの共同調達について、ぜひ、教育分野の環境整備に優先して共同調達に取り組んでいただきたいですが、どういう枠組みで行っていくことが考えられるのか、お伺いします。今後、学校間ネットワークと統合型校務支援システムに教育ICTシステムを加えて再構築するに当たり、東京都さんが新たな団体で校務システム等を共同調達することで、調達コストを引き下げるだけでなく、市立小中学校の都の教職員が自治体間で異動する際に、新たにシステムの取り扱いを覚える手間がなくなり、働き方改革に繋がると考えています。東京都さんへお願いをしたいところでございます。
早川
まず、GovTech東京の設立には、大きな期待を持っていて大変心強いと思っています。
副市長会で確認しているとおり、東京都市長会の枠組みで、すべての市を取り残すこと無くGovTech東京に伴走型で支援していただき、共通の目線で進めていきたいと思います。
市によって業務の進め方も違いますが、各市が共通化することを目指し同じ目線でDXを進めていくことが大事です。GovTech東京においても、その点からいろいろご指導ご支援いただければありがたいです。
それと、ローコードツールとかRPA、AI-OCR等の導入に対して、ご支援いただきたいです。また、導入後効果的な活用について自立して運用できるようになるまで伴走型でご支援いただけないか、という思いもあります。
デジタル人材の育成については、GovTech東京に、市町村の方から一定期間職員を派遣させていただいて、経験を積ませていただく、そんなスキルアップができるような受け皿を作っていただけるとありがたいと思います。
宮坂
具体的な提言をありがとうございました。今まさに立ち上げに向けて検討を進めており、確定していない部分も多いですが、私が考えたことをお話させていただければと思います。
GovTech東京で一番重要なコンセプトは、「共同」であると思います。個性を競った方がいい仕事もありますけど、デジタルに関しては同じものを全員で使う方が、効果が出やすいと思います。
共同には四つ論点があります。一つ目は、両市からご意見いただいている通り、「調達の共同化」についてです。
制度的な枠組は皆さんのご意見を承りながら構築して参りますが、自治体間でシステムのノウハウを共有しやすくするため、製品を揃えて一括購入を進めていきたいです。調達した後は使いこなすための教育が必要になります。
共通のものを購入すれば、教育の共通化ができると思います。今、デジタルアカデミーを作っていまして、いつでもツールの使い方を習得できるようにし、一緒に習得した仲間の同窓ネットワークができて、自治体に戻った後も情報交換が継続できればいいな、という夢も思い描いています。
「開発の共同化」については、ローコードツールやSaaSを使って制作するのはいいと思いますが、例えば、学校の校務支援システムは共同制作した方がいいのではないか、という意見をいくつかいただいています。
共同制作した方が、使う人にとって利便性が高いものがあると思います。
初年度に何か1つ共同制作できれば、その経験を基盤にして、翌年より困難なもの、より大きいものに広げられると思いますので、初年度からぜひ1つぐらい共同で作りたいと思っています。
次に、「データ利活用の共同化」です。各自治体がオープンデータにデータを出していくことになると思いますが、データを使う側の利便性を考えれば、1種類のデータについて全ての自治体が提供していることが非常に大事だと思います。
62区市町村が出すデータセットを少しずつ増やしていき、最終的には揃えたいと思っています。
そして、最初に立川市さんからご発言いただいた「人材の共同化」についてですが、各自治体で、求める人材のクラスや、フルタイムで来てほしいとか、週に1日でよい等、ニーズが結構違うのではないかと思います。
まず、しっかりとヒアリングさせていただいて、都でニーズに合致する人材を採用してマッチングできるようにしたいと思います。
あと、BPRの研修は、まさに全体で取り組みたいと思っています。変化を起こす人は組織の中で浮きやすくなりますので、お互いに高めあい変革を進める仲間を認識することは、長い目で見るととても大事だと思います。
今はオンラインが多いですが、集合研修や人的な繋がりを作っていくことを、ぜひやりたいと思っています。
職員の受け入れのお話に関連して、私は、人の繋がりがないとシステムは繋がらないと痛感しています。「GovTech東京」等によって、東京都全体で少しずつお互いを知っている人が増えていくような環境を、ぜひ作っていきたいと思います。
行政デジタル化の取り組みは2025年で終わるわけではなくて、ずっと続けていくことになると思いますので、62区市町村と都が話し合いをしながら、「調達の共同化」、「開発の共同化」、「データ利活用の共同化」、「人材の教育・採用・配属の共同化」を、毎年少しずつ拡大していき、長期的に見て共同化されたことが増えたと実感できればいいなと思っています。
―大変活発な意見交換いただきました。本日は大変お忙しい中ご参加いただきましたこと、改めて御礼申し上げ、座談会を終了させていただきます。
ありがとうございました!
本取組については、今後も継続して実施する予定です。次回もお楽しみに!