初めての街、初めての自分
「あなたは、初めて今住んでいる街に来た時のことを覚えていますか?」
と、私は一度聞いてみたい。
それぞれの人が初めてその街に来たときの印象を知りたいと思うからだ。
その裏に、どんな思い出やエピソードや心動かされることがあったのだろうと気になるからだ。
ちなみに私は覚えている。
あれは私が15歳のころだった。
確か、好きなバンドのライブがあったとかだったと思う。
それまで東京などという遠い大都会には縁もゆかりもなかったのだが、
どうしてもそのライブに行きたい一心で
勢いで夜行バスのチケットをとってしまった。
(ちなみに親に内緒でとったのでその後散々怒られた。
遠征などを考えている人はまずは親に相談した方が無難だとは思う)
何とか親を説得して夜行バスで揺られて12時間。
よく寝ることもできずにバキバキになった身体を何とか動かして東京駅に降り立った。朝の6時ぐらいのことだった。
あの時の空気を私はずっと忘れないと思う。
朝の少し肌寒い空気、
未来から来たような高いビルばかりがならぶ街、
なのに誰も歩いていない静けさ、広さ。
今まで私が見てきた景色とは明らかに違う光景がそこにはあった。
その時の空気はやけに澄んでいて、息がしやすかったのを覚えている。
綺麗なビルの並びと人の少なさがアンバランスで、
私はなんだかおもしろくなってしまった。
誰もいない朝の交差点を意味もなく走ったりした。(今思うと完全に不審者だがその時は興奮が勝ってしまった)
そんなことをしても、とがめる人や不思議そうな顔をする人がいないということが気楽だった。
身軽で自由だ、と確かに思った。
その後はしきりに交差点を走って、
一旦落ち着いて、
目的地である新宿に行くために地図を調べて電車に乗った。
東京の路線は複雑怪奇で、
私は絶望的に方向音痴だったので
1日で電車を3回ぐらい乗り間違えたりした。
それでも1時間足らずで新宿に到着できたことには感動した。
テレビの中でしか見たことのない光景が確かに目の前に広がっていた。
その時、「私でもやればできるんだ」と何か自信のようなものが芽生えたものだ。
望めばどこにでも行けるし、誰にもとがめられない。
自分で選択する「自由」を東京は許してくれる。
その後は目当てだったライブに行って、その余韻に浸りながら帰りの夜行バスに揺られながら帰途に着いた。バスの窓からは夜でも明るい東京のネオンが、蛍のように輝いていた。
将来は東京に来たいとその時強く思った。
自分のまだ見たことのない世界が広がっていて、
どこにでも行けて、
誰にもとがめられない。
そんな自由と可能性に満ちた街で生きていきたいとその時強く思った。
はじめて、自分で選択する自由の楽しさを実感した。
その後、私は意地でも東京に行きたいという一心で受験勉強をして、
ようやく都内の大学に進学し、
卒業後も東京に住み続けている。
今でも私の東京に対する印象は、あの15歳の時の頃と変わらない。
東京は、自分で選択する自由を認めてくれる、寛容な街だ。
そんな街で、私は今も、
あの時交差点を走った朝の時のように、
身軽で可能性に満ちた未来に向けて生きている。
これから先も、この街で、
身軽に、
自由に、
自分の生き方を選択して生きていきたいと思う。
あなたは、初めて今住んでいる街に来た時のことを覚えていますか?
Written by yuuun