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屋上の透き通る空気

市役所に用事ができたので、久しぶりに駅の北口から外に出た。いつもは商業施設が多く並ぶ南口を利用するので、新鮮な心地がする。北口から出ても、市役所や銀行や皮膚科くらいしか行く先がないので、混雑なんてするわけがない。
学生の頃は、市役所に行く機会なんて本当に稀で、一年間に一度も行かないなんて普通だった。それから、上京して転入届を提出しに初めて都内の役所に行った時は、余計に緊張していた。住民課の受付の場所に、『住所変更・印鑑登録・・・』などと、分かりやすく案内まで表示されているのに、筆者は無駄に心配しながら、役所の中を長い時間うろうろしていた。
しかし今は市役所に行くのも慣れた。ホームページを確認しなくても、曜日と時間帯である程度の混み具合を予測できるようになった。

役所での用事が終わり、外に出ようとエントランスに向かう途中、フロア案内表にあった『PH階 屋上展望テラス』の単語に目が留まった。

貸切状態の屋上

エレベーターを降りるとすぐ目の前に、テラスの入り口があった。警備員が一人だけ立っていて、「どうぞー。晴れてるので綺麗ですよー」と優しく声をかけてくれた。
テラスに出ると貸切状態で、自分以外には誰もいなかった。正午過ぎの時間帯なので、気温も丁度良い。PH階の『PH』はペントハウス(屋上、最上階)の意味で、この建物の場合は11階に相当する。見晴らしがよく広範囲を見渡せる。高さは思っていたより高くないが、展望台に上って深呼吸をすると、空気がいつもより美味しく感じる。建物や人が入り乱れている地面近くよりも、ここの方が空気の循環がいいのかもしれない。

灰色の雨雲と空の青色が同時に映る

新宿に住んでいた時、面接を受けに都庁へ行ったが、そこで見た圧倒的な絶景には鳥肌が立った。その当時のことを思い出し、何となく寂しく感じた。

二階テラスの癒し

二階には食堂がある。利用者のほとんどが役所で働く職員だろうが、どんな感じなのか様子を見に行った。
食堂前には、スーツを着た人の行列ができていた。筆者は役所の職員でもないので、彼らに譲るために食券を買うことは断念した。食堂の隣には、二階テラスにつながるドアがあったので、せっかくなんで外に出てみた。
テーブルの上で、注文したうどんを食べる女性が一人いた。テラス席の横には小さな緑の空間があった。冬の季節なので葉も少なく、土には枯れ葉も落ちており若干シュールな感想を抱くが、午前中の勤務で溜まったストレスをちょっとは癒やしてくれるだろう。

夏に生い茂っている姿も見てみたい

電車に乗っていると、ビルに設けられた屋上庭園をよく見かけるようになった。日常生活に癒しが足りていない現代人が増えているのかもしれない。特に東京では。

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