町のパフォーマー
駅前の通りには、至る箇所で大きな人だかりができていた。
黄色い上着のイベント運営員らしき三人が、近くに長机を置いて特設ブースを張っていた。そこで一枚のパンフレットを受け取った。どうやら大道芸人による披露イベントが開催されているらしい。パンフレットには、数十組の参加しているパフォーマー達の名前や団体名が連なっている。
新宿近くに住んでた頃は、南口に出るといつもアコギの音が鳴り響いていた。今住んでいるシェアアパートの近くで、こんな面白そうなイベントが開催されているのなんて知らなかった。
フラフープ、フラフープ、フラフープ
緑色の全身タイツを着た、若干年増にも見えるパフォーマーの女性は、おもちゃ売り場で売っている物よりも五倍くらいの大きさがあるフラフープを簡単そうに回していた。ヘッドセットマイクを着け、冗談や会話を交えながらの芸は、とても大変そうだった。呼吸が乱れた時は、マイクが彼女の生温かい息まで取り込んで、ノイジーな音がスピーカーから漏れた。それでも芸のクオリティは全然落ちず、一度も失敗することがなかった。最後の大技では、八個のフラフープを同時に回して歓声を浴びていた。筆者も拍手した。
自分の足元には、年長くらいの子供達が体育座りをしながら大道芸を鑑賞していた。大人達は「おぉっ」と声を出し、たまに拍手をするだけだが、子供達の驚嘆する声はもっと大きく、終始真剣な眼差しで鑑賞していた。大人にはもう感じることのできない、何かを彼女の芸から感じ取っていたのだろう。
見せる格闘技
他の広場では、学生プロレスの団体がリングを設けてプロレスのエキシビションマッチをしていた。リング横には実況者とゴングを鳴らす係がいて、レスラーの体はしっかりと鍛え上げられている。試合自体は見せ物としての格闘技の要素が強く、流血や激しい打撃などはなかった。胸チョップを交互にやり合う展開が、一番痛々しかった。「ペチン、ペチン」と、手のひらで皮膚を思いっきり叩かれる音は非常に生々しく、その後の胸や背中は日焼け後のように赤黒く光っていた。
劇団四季や全国放送の総合格闘技だけを見て、目を肥やし続けてしまっている観客から言わせれば、正直やや物足りなさを感じてしまう、そんな今回の大道芸イベントだったが、現場に行けばパフォーマー達は全員幸せそうで、観客も好奇心旺盛な目でカメラを回していた。
おそらくパフォーマーのほとんどが、本業を他に持っているアマチュアだろう。中には、子育てや時間外労働にも励まないといけない人もいるだろう。それなのに日々練習を重ね、コンディションを本番当日に仕上げられるというのには、尊敬の念しかない。きっとそれだけ、芸をしている自分が好きで、自分の芸に自信を持っているのだろう。彼らから学べることはたくさんあると思う。
written by Sign