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新東京湾岸道路プロジェクトと環境問題

計画が進行している新東京湾岸道路プロジェクトについてまとめたものです。

簡潔に言うと三番瀬の環境に甚大な悪影響を及ぼすことが懸念されている道路計画です。これからの東京湾の環境に大きく関わる問題ですので1人でも多くの人が興味を持っていただけると嬉しいです。

新東京湾岸道路とは

新東京湾岸道路、第二湾岸道路などと呼ばれている高規格道路の計画です。長年にわたり浮上しては頓挫していた計画ですが、2019年計画が再開し第一回の「千葉県湾岸地区道路検討会」が行われました。その後も検討が続き、2024年4月1日に「計画段階評価」を行う方針が定められ、現在具体的なルート決定に向け、地域住民を中心とした意見、情報収集を行なっている段階です。

計画の概要

新湾岸道路計画は、外環高谷JCT周辺を起点として蘇我IC周辺、並びに市原ICを結ぶ高規格道路として計画が進行している道路です。

新湾岸道路ポータルサイトより

上の図は現在計画されているルートです。三番瀬を避けているようなルートに見えますが「調査中路線は、概ねのルートを図示しているものではない」とあるので目安として考えてほしいというものなのでしょう。

京葉工業地帯は、全国シェア1位である千葉県の製造業の産業基盤が集積し、素材やエネルギーの供給拠点、物流拠点となっている。
製造される素材・原材料は湾岸地域から首都圏や国内工場に広域輸送されており、輸送効率の向上が必要。
湾岸地域では広範囲にわたり、慢性的な交通渋滞が多く発生しており、県平均の1.7倍以上の渋滞損失時間が発生している。
特に、国道357号(船橋市、千葉市(美浜区~中央区))では、渋滞損失時間が20万人時間/年・km以上の区間がいくつも連なっている状況である。

新東京湾岸ポータルサイトより

これらの問題を解決し、交通を円滑化する事が道路計画の目的とされています。

新東京湾道路ポータルサイトより

計画の歴史

この湾岸道路計画は過去にも浮上していますが保護団体の活動によって食い止められています。
当時の予定では三番瀬を埋め立てて上を通すというものでしたが、保護団体の活動により埋め立ては撤回されました。

三番瀬を通る第二湾岸道路が最初に具体化したのは
1993年3月である。三番瀬を埋め立て、ど真ん中に第二湾岸道路を通すという計画を千葉県が発表した。三番瀬保護団体は、埋め立て計画の白紙撤回を求める署名を30万集めるなど多彩な運動をくりひろげた。県民世論の支持を得ることに全力をあげた。

JAWAN REPORTより
日経コンストラクションより

しかし道路計画は撤回されずに今現在まで続いています。
下の図は2005年の川崎国道事務による道路整備図です。大まかな第二湾岸道路計画の予定が示されています。当時の構想では東京都大田区と千葉県市川市を結ぶ約50kmの幹線道路とされています。

国土交通省川崎国道事務より

計画の段階と今

2019年に第一回の道路検討会が行われました。その後も検討が進められ、2024年8月に有識者委員会が設置された事により具体的な意見交換が行われました。現在行われているのが概略計画を決定する計画評価段階で、近隣住民を中心として意見を募集しています。
計画評価段階で決まるのは以下の図の通りです。
これらの概略計画を決定するのが現段階であるため、多くの意見が求められる状況です。

新東京湾ポータルサイトより
新東京湾ポータルサイトより

またオープンハウスに来られない方用のアンケートフォームもあります。
地域住民を中心としたアンケートとはありますが、県外の方の意見も入れられるので是非投稿してみてください。
(パネル展示の内容はこちらから)

これらの概略計画の決定後環境アセスメント等による評価が行われ、正式なルートが決定します。

課題となる環境問題

千葉市

具体的なルートは示されていませんが美浜区の海浜大通りが新湾岸道路用に確保されてる土地とされています。
現在、海浜大通りの交通量はそこまで多く無いですがこのルートをそのまま転用する場合、交通量の増加により近隣の住宅地に悪影響が及ぶ可能性があるでしょう。

また、橋梁で道路を通す場合、市の地域資源の一つである海の眺望が失われる事は明らかです。この事は県や市の景観形成の方針と相反するものです。

また「稲毛浜-検見川の浜-幕張の浜」の人口海岸は三番瀬等と比較すると数は少ないですが鳥類の生息地でもあり、海側に通す場合はこれららの配慮も必要です。
特に検見川の浜は千葉県レッドリスト「最重要保護生物」に指定されているコアジサシの貴重な繁殖地でもあります。

新湾岸道路ポータルサイトより

習志野市

新湾岸道路を海側に橋梁で通した場合、海に生息する海洋生物、カモ類を中心とした鳥類に悪影響が及ぶことが懸念されます。
関東の富士見百景に指定されている茜浜緑道も景観という点で悪影響になるでしょう。
陸側に通す場合、新たな環境変化の影響で谷津干潟と三番瀬を往来する野鳥に悪影響を及ぼす可能性があります。しかし谷津干潟と三番瀬を利用する鳥類はすでに建設されている国道357や東関東自動車道等の道路上空を問題無く往来しているため、他の問題と比較するとそこまで深刻で無いように思えます。

Google mapsより一部編集

船橋市・市川市

自然環境への配慮として最大の争点となるのが船橋市・市川市・浦安市にまたがる1800haの三番瀬です。埋め立てによって多くの干潟を失った東京湾においてとても重要な場所であり、多くの鳥類やベントス類(底生生物)、魚類の生活基盤となっています。

これらについては別で詳細を書くつもりなのでしばらくお待ちください…

ふなばし三番瀬海浜公園

三番瀬の埋め立てが白紙になった以上、考えられる方法は以下のものでしょう。

・三番瀬を跨ぐように橋梁で通す
・三番瀬の地下にトンネルを通す
・三番瀬を避けるように内陸側、または海側に通す
・三番瀬の手前で他の幹線道路に繋げる

三番瀬を跨ぐように橋梁で通す方法ですが、こうなった場合三番瀬を利用する鳥類は大幅に減少するでしょう。また工事に伴う環境変化も考えると埋め立てよりは多少マシではあるものの悪影響の面ではあまり変わらないように思えます。

また、地盤の軟弱な干潟の下にトンネルを通すのは現実的では無いでしょう。

内陸側に通した場合周辺の工業地帯への配慮が大変な問題となるでしょう。
海と陸地をシームレスに繋ぐことが生物の多様性を保護する上で重要であるため、地下・橋梁に関わらず海側に通した場合の環境悪化は目を瞑れないものです。
また三番瀬の海上には航路があり、船の往来にも配慮する必要があります。

千葉県・三番瀬より

三番瀬を通す事を諦めて手前で幹線道路に繋げる方法も考えられます。しかし主要な渋滞エリアは千葉県と船橋市であり、千葉市の交通は改善が見込めても船橋市の渋滞改善は期待しにくいでしょう。もしくは悪化する可能性もあります。これでは交通の円滑化という目的を見失ってしまいます。

新東京湾道路ポータルサイトより

三番瀬再生計画

前述した通り保護活動により三番瀬の埋め立て計画は一旦撤回されました。そこで千葉県は自然環境の保全と再生を目指す「千葉県三番瀬再生計画」を2006年に策定しました。

基本計画では、自然環境の再生・保全と地域住民が親しめる海の再生を目指して、三番瀬の再生に関する施策の基本的な方針、構ずべき施策や推進方法を定めています。

基本的な方針においては、再生の目標として、

さまざまな種類の生物が昔のように生息できる「生物多様性の回復」
干潟等の再生や自然な連続性を確保する「海と陸との連続性の回復」
東京湾の水質の改善を図り、青潮の心配がない「環境の持続性及び回復力の確保」
漁業者の知恵や経験を活かした「漁場の生産力の回復」
三番瀬に多くの方が訪れ、親しめるような「人と自然とのふれあいの確保」
という5項目を掲げています。

さらに、再生の進め方として、「順応的管理」、「賢明な利用」、「協働による取組」などに留意することとしています。

三番瀬再生計画より

三番瀬の海側、上空を通す計画ではいずれもこの三番瀬再生計画と整合が取れないでしょう。

所感

これらの諸問題に配慮し、地下に通す可能性も考えられるでしょう。しかしそれにはより莫大な費用がかかるものと思われます。決行するとして計画の具体化や工期を考えると10年近く、もしくはそれ以上の期間がかかるものでしょう。人口の減少も問題とされている今、長いスパンをかけ、問題点も多いこの計画を進めることに確かな意義があるのかについては疑問が残ります。

防災について
湾岸地域の沿岸部は、現在、想定される最大規模の高潮による氾濫が発生した場合、広範囲にわたって5m以上の浸水が想定されています(市川市~習志野市:約5m、千葉市〜市原市:10m以上)。
近年、特に大型化する台風や突発的なゲリラ豪雨等が県内各所で猛威を振るっており、これらに対する備えが求められています。

新東京湾道路ポータルサイトより

この文が何を表わすのかあまり理解できてないですが、災害時に備え、交通を整備する事が安全に繋がるという解釈であっているならば、“大型化する台風や突発的なゲリラ豪雨”の原因となっている気候変動・環境問題の改善に向けて動くべきであり、資金の使い道が正しいのかも疑問です。

また、意見の募集に関しては、現段階では不透明な部分が大きく、概略計画決定後の意見募集の方も重要であるように思います。しかしそれについての明言がないことは不安です。

高度経済成長、東京湾は多くの干潟を埋め立てによって失っています。しかしそれを踏まえても上回る利益はあったのかもしれません。しかし気候変動や環境の悪化が深刻な今、この道路計画を長い目で見て本当に利益が上回るものなのか今一度考える必要があると思います。

近年の環境変化は凄まじいものであり、10年後というのは考えるのが恐ろしいと思うほどに生物の多くが減少しています。だからこそ保全、再生に向けて動き出さないといけない今、この計画自体が時代に逆行していないかという点が私の考えです。

とはいえ私に交通や経済の知識はありません。断固として反対をするほどの知識もないのです。
こちらからすれば「環境への理解がないから」と思いますが、推進派からすれば「交通、経済の知識がないから」と思われるでしょう。
このような一方的な意見同士では、話は平行線となってしまいます。様々な意見を交えながら多くの方がこの問題を議論する事が重要になってくると考えています。

拙い文ではありますが、少しでもこの計画や問題の理解が進めば嬉しいです。

資料

より詳しくこの計画について触れられているので、興味があればご覧ください。

新湾岸ポータルサイト↓

新湾岸ポータルサイトによる資料↓↓

https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000898266.pdf

https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000898265.pdf

新東京湾岸道路プロジェクトのアンケート「ご意見フォーム」↓

三番瀬再生計画について↓

新湾岸道路における有識者委員会の資料↓

新湾岸道路における2024年6月25日までの検討の状況↓

https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000888166.pdf

保護団体によるレポート↓↓

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