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上質な長編ミステリ小説みたいな漫画マイホームヒーロー

『マイホームヒーロー』というタイトルの通り、この漫画は一見普通の家庭が持つ日常的な問題を描写しながらも、実は深い闇と激しいバトルに満ちた異常な世界へと読者を誘います。その全貌を知ることで、一読する価値が一層高まることでしょう。

物語の主人公は、濱田哲夫という普通の50代のサラリーマン。仕事と家庭を大切にし、日々のルーチンを忠実に守る一途な男です。しかし、ある日娘の零花が彼氏から受けた暴力とその背後にある闇に触れたことで、哲夫の平穏な日常は一変します。濱田哲夫は、そのまま見過ごすことができず、自らの手で正義を成そうとする決意を固めます。

零花の彼氏である圭一郎は、実はヤクザの一員であり、零花に対する暴力は彼の権力誇示の一環に過ぎませんでした。哲夫は、圭一郎に鉄拳制裁を下すものの、それが発端となり、ヤクザ組織との緊張関係が一気に高まっていきます。哲夫の必死の行動がやがては彼の家族全体を巻き込むことになり、哲夫が重要な決断を迫られる瞬間も増えていくのです。

この物語のもう一つの重要なピースが、哲夫の妻・美和子です。美和子は一見普通の主婦に見えますが、実は宗教団体の教祖という隠された側面を持っています。この宗教団体は表向きは慈善活動を行っている一方で、裏では薬物取引や資金洗浄などの犯罪活動に手を染めているダークな一面を持つ組織です。そのため、美和子の過去や信仰背景、そして哲夫との関係が次第に物語の核心を握っていくのです。美和子の故郷にはこの宗教団体が根を下ろしており、その村全体が教団の影響下にあります。

やがて濱田家の戦いは、ヤクザ組織と美和子が属する宗教団体の三つ巴の戦いへと進展します。宗教団体の闇は思った以上に深く、内部の裏切りや権力争いなどが次第に明らかになり、物語の緊張感は高まるばかりです。

この作品の見どころは、濱田哲夫という一介のサラリーマンが、家族を守るためにどこまで自分を犠牲にし、戦い抜くかという点に尽きます。彼の成長とともに、哲夫が抱える倫理的ジレンマや人間らしい弱さも描かれており、読者に強い共感を呼び起こします。

また、美和子というキャラクターの複雑さも注目ポイントです。彼女の宗教的信仰と現実世界での行動が相反することから生じる葛藤や、家族への愛情、そして教団内部の政治的駆け引きがストーリーに深みを加えています。零花もまた、彼氏との暴力的な関係を乗り越えながら家族とともに成長していく姿が描かれ、これもまた読者に対する強いメッセージ性を持っています。

終盤に向けて、哲夫とヤクザ、そして宗教団体との最終決戦が展開され、誰が勝者となるのか、家族の行方を確かめるためには最後まで目が離せません。この三つ巴の戦いの中で、家族愛と信仰、正義とは何かといった重いテーマが巧みに絡み合いながらも、エンターテインメント性を失うことなく描かれているのは見事と言うほかありません。

『マイホームヒーロー』は、単なるスリラーやサスペンス作品にとどまらず、人間の深層心理や社会の闇を鋭く抉り出す一冊です。この作品を読み進めることで、自分自身の生活や価値観に対する新たな視点も得られるでしょう。家族のためにどこまでできるのか、その問いに一緒に向き合ってみませんか。


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