見出し画像

広末のW不倫は人々の心を映す鏡である。

広末涼子のW不倫とやらが話題である。相手が誰だとか、キャンドルジュンの会見がどうだとか、ピンヒールがなんだのと、連日トピックスは引っ切り無しな状態にある。
これは単にメディアが過剰に報じているというだけでなく、SNSを検索すれば本件についての恐ろしい数の投稿が見られる。つまり人々の興味が強くあるわけだ。

私は高校生の時分から、テレビを殆ど見なくなった事もあってか、芸能人の不倫などに微塵も興味を見出せないで居る。ベッキーでも矢口でも誰でもいいが、「へぇ、そうなの。」以上の感想が湧かない。
(ゲス不倫というワーディングには膝を打ったが)
自分の好きなミュージシャンや俳優などの訃報を耳にすれば、無論心を痛めてしまうが、出来事は「不倫」である。知人や友人の出来事であるならまだしも、赤の他人の情事である。何故そんな事に熱中できるのか、激しく不思議に思う。

そこで本稿に於いては、何故日本人は芸能人の不倫に没頭できるのか、についての考察を深めたいと思う。
「3S政策の結果だ」と言ってしまえば、そこで話が終わってしまいそうな気がするが、なるべくもう少し鮮明に大衆心理の言語化に努めてみたいと思う。

先ず「人々は現実世界とテレビ世界の両方を生きている」との前提を立てさせていただこう。
現実世界とは自身の肉体が知覚している当たり前の現実を指していて、テレビ世界とは液晶の先に広がる世界の全てを指している。
私のようにテレビを一切(または殆ど)見ない人間を非テレビ人、毎日習慣的(1日に必ず2時間以上程度)にテレビを見ている人間をテレビ人と括らせていただくが、非テレビ人が生きる世界が当たり前の現実世界の一層である事に対して、テレビ人はもう一層レイヤーが多く、現実世界とテレビ世界という二層構造を生きていると考える。
(ネットの世界や、ゲームの世界なども含めて更に複層構造として捉えても良いがここではテレビに終始したい。)

テレビの特徴の一つは、視聴者数が余りにも多いため、テレビ世界での出来事が世の中の共通言語、或いは集合知となり、リアリティに臨場感が齎されるという点にある。
また、テレビ世界での流行の把握度は、現実世界での流行の把握度と直結する為、より多くのテレビ話題を手にしているかが、テレビ人たちの間で重んじられている。

そしてテレビの最大の問題点は「人々の感情を誘導してしまう」所だと考える。
実際に感情を誘導する為のギミックは多数用いられている。例えば、バラエティ番組での笑い声のSEであり、ノンフィクションドラマを視聴するスタジオゲストの泣き顔であり、ワイドショーでのパネラーの事件に対する怒りであり、テレフォンショッピングでの値段への驚きなどである。もらい泣き、つられ笑いの為の仕掛けは、朝から晩まで張り巡らされている。
故にウイルスを怖がれば、つられて怖がり、自粛が促されれば、皆それに倣った訳だ。

そして本題の「不倫」についてである。これは先ず前述の通り感情を誘導され「バッシング」が基本姿勢となる。そして不倫報道の特筆すべき点は、なんと言ってもその先の拡張性にあると考える。
例えば殺人などの重犯罪報道には、基本的に否定的な姿勢以外取り様がない。結婚報道であれば基本的にポジティブであり、離婚報道であればネガティブだ。
ところが不倫報道の拡張性は多岐に渡り、特に広末女史の様な大物ともなれば、これはもう最早可能性は無限である。
抑もテレビ世界に居る人物の中でも、最上位に位置する者の転落劇は、テレビ人にとってみれば、実に耽美なのだ。他人の不幸はなんとやらである。

そして、バッシングを基本スタンスとしながらも、そこから同情論に発展させることも、真面目な恋愛トークを繰り広げることも、居酒屋で下世話な下ネタとして酒の肴にすることも、ビーチボーイズの思い出に浸ることも、キャンドルジュンのピアスの大きさを微笑うことも、子どもたちへの反面教師として教材にすることさえも可能な訳である。
叩くだけではなく、その人次第で、美談にも猥談にも成ると言うことだ。

それはまるで、見る者の心を背景として、如何様にもその色を変えることのできるカメレオンの様である。

考えてもみて欲しい。たった一つの出来事で、喜ぶことも、怒ることも、哀しむことも、楽しむことも出来る、こんなにも多彩な可能性を持った報道が他にあるだろうか?
訃報では、ミサイルでは、選挙では、台風では、薬物使用では、引退報道では、一日市長や始球式ではこうはならない。
そして、げに恐ろしきは、赤の他人がたかが「致した」だけなのにである。

不倫報道は今日も、奥様方の井戸端会議で、リーマン達の場末の居酒屋で、昼下がりの教室で、覗き込む度に姿を変える万華鏡の曼荼羅の様に、瑞々しく多彩な表情を湛えている。

不倫報道とは、即ち、大衆そのものである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?