横顔と夢
『今日は楽しかったね』
そう言って笑う君を一秒たりとも忘れないように脳裏に焼き付けながら「そうだね」って物分りよく答えるp.m.7:30
好きな人との最初で最後のデートはいつもと変わらない雰囲気のまま、もうすぐ終わりを迎えようとしている
君には彼女がいて、私には彼氏がいて
運命なんてそんな他力本願信じてないけれど
もし出会った時から結ばれないことが決まっていたのだとしたらこれはそういう運命なのかもしれない
『もうすぐパレードだって』
「パレード楽しみなんだよね〜!どこがいいかな」
『俺いいとこ知ってるよ』
彼にとって私の価値は立ち位置はどんなもんなんだろう
友達、同級生、それともただの知り合い?
答えを探したって見つからないしそれもこれも悩むのは今日で全部おしまいにしたい
ジリジリと焦がされるような想いなんて抱えているだけで重たくて、苦しい
告白されて好きだと思って付き合った初めての恋人は、私が君ばかり見ていることに気がついて別れを告げてきた
「ごめん」としか言えなかった
ーいまなにを思ってるの
パレードの明かりに照らされてキラキラと輝く君の横顔をただぼんやりと見つめる
好きだ好きだと漏れ出す叶うことのない想いも
はらりはらりと溢れては消える涙も
これだけの眩しさの中じゃきっと誰にも分からない
君との最初で最後のデートは、私の恋は、パレードと一緒にもうすぐ終わる
それでもいいからさよならを言うまでのあと5分間、振り向いてくれない君を見つめてたいと思うのはわがままだろうか
一度強く目を閉じて、開く
明かりが消えたら現実に戻る時間
かぼちゃの馬車は永遠じゃない
「パレード終わったしそろそろ帰ろっか」
そう言って立ち上がった私の腕が突然強く引かれバランスを崩して抱きとめられる
思っていたより冷たい手と首元にかかる息
『...俺のために泣いたの?』
さっきよりずっと強く、痛いくらいにギュッと抱き締められる
なにが起こったのか分からない
分からないまま抱きしめられて苦しいからか悲しいからか一度止まった涙がまた溢れ出す
もういいや
泣いてたことに気づかれていたかどうかなんてどうでもいい明日のことなんて考えたくない
いまこの時だけは君の温度を感じてたいの
そのくちづけで私をいっぱいにしてほしい
なにも分からないほどに本能に従って
ただ愛に支配されるように盲目でいて
運命なんて信じてないけれど、でももし本当にあるんだとしたらお願い
どうか今だけは見逃して
「......好きなの」