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ファンレター


先生様

こんにちは。
はじめてファンレターというものを書きます。
生まれてはじめてです。
読みにくいとは思いますが、どうぞご容赦ください。

あなたの作品はないないづくしです。

共感できないし、感動もない。
もちろん驚きや悲しみも、読了したことの達成感や爽快感さえない。
共感できたためしがない。
だからぼくはいつも、離れたところから見ているのです。
あなたの作品に登場する人間たちを。
離れたところから、人形劇でも見るように、或いはもっと冷めた気持ちで眺めているのです。

以前あなたの作品の帯に「共感度120%の青春」と書かれていたことがありましたね。

あんなのまっさらな嘘です。

きっとどこかの、あなたの作品も大して知らないような、そんな出版社の編集が売れるようにと適当に打ったのでしょう。
誰か、誰も、あれを止めようとは思わなかったのでしょうか。
悔しくはなかったのですか。

あなたの作品に共感などありません。
どれだけ深堀しようとも、ぼくたち読者は掴めない宙をふわふわと彷徨いながら、あるいは明らかな第三者の客観的視点で、あなたの言葉をひたすら追うのです。
だってあなたがそう望んでいるから。
望まれたように追いかけるのです。

でもそれを不満に思ったことなど一度も、一秒たりとも、ありません。
突き放すでもなく、待つわけでもない、あなたの言葉たちからぼく感じ取れるのは焦燥と熱だけです。
あのうなじがプツプツと粟立つような熱に、ぼくは囚われてしまった。


快感なのです。吐き気がするほど愛おしい。


ファンレターを書こうと思い立ったのは、あなたに未練がなくなったからです。

あなたはぼくの想像したような人間ではなかった。
恋人に振られ、ヤケを起こし、憂さ晴らしのために行った居酒屋で出会った男を家に招き入れて寝るような女です。
恋愛がサブカルでセックスがエンタメなら、ぼくにとっては全く違いますが、あなたにとってはそうだったのでしょう。
街中ですれ違う数多いる人間と同じように、セックスをエンタメにできるつまらない人間だった。
宇宙人でも異星人でもない、見る価値もない、ただの内臓がつまっただけの入れ物です。

せっかくなのでひとつお教えしましょう。
なぜぼくが、あなたが振られたことを知っているのか。
よければ家中を探し回ってみてください。きっとどこかに盗聴器がありますよ。

話が少し脱線してしまいました。
なにが言いたかったのかと言うと、詰まるところ、ぼくは明日死ぬということです。自死です。
だってあなたがあなたでない世界など、なんの、なんにも、面白くない。
あなたの手元にこのファンレターが届く頃、ぼくはこの世にはいなくて、きっとあなたは一瞬悲しくなるかもしれません。
でもすぐに忘れるはずです。あなたが振られたことをすぐ忘れたがったように。
その可愛い顔に、安っぽい悲しみを貼り付けて、同情してください。

あなたのことが大好きです。



親愛なるファンより





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