東京フィルター
はじめての東京は甘い甘い香りがした
この街のどこかに好きな人がいて、同じ空気を吸っている
いまこの瞬間にも、どこかで出会ってしまうのではないかという焦りと緊張と、そして少しの高揚感
すべてのものがキラキラと眩しかった
幼かった私の小さな小さな大冒険
p.m. 11:45
ひさしぶりの彼からのLINEで、そんな昔のことを思い出した
上京してきた私を迎えてくれたのは、あの眩しいくらいに輝いていた街ではなかった
好きだったあの人も、会ってみればなんてことはなくて
現実ではときどきLINEをしてご飯を食べに行く友達のひとりに収まった
はじめて東京に足を踏み入れたときの、あの甘い甘い締め付けられるような、それでいて心地よいような あのフィルターは
たぶんきっともうどこにもない
夢見る季節をこえて、東京というこの街が優しく甘いだけでは成り立たないと学んだ
輝きのひとつひとつは日々の暮らしの延長にある結晶なのだということも
大人になったのだ、私も
大人になる時が来たのだ、私にも
そろそろLINEを返さなきゃ
ひさしぶり、元気だよ、と
あなたのことが好きです、の言葉を添えて